第一話
中学二年生の少年、滝隼人が、音楽部──吹奏楽部と軽音部が合体した部活──で、軽音班の練習が終わって、反省会も済ませた完全な部活終わり、親友の石田勝平と行きつけのラーメン屋「ぺーたる」に向かおうとしていたところだった。
隼人と勝平には習慣があった。
六面のダイズを五つ用意して、それを振る。
多く目を出した方が勝ち。負けた方が飯を奢る。
──というもの。
今日もそれを行った。
隼人……六、五、一、一、三
合計……十六
勝平……四、三、二、五、四
合計……二十
勝者は勝平だった。
「っしゃぁ!」
「──ズル、すか?」
「負けを認めろよ」
隼人は己の負けを認めたくなかった。
一年生のころはおずおずと引き下がったが、隼人ももう二年生。なんと後輩がいる。しかも尊敬されているらしい。
「こんなに負けが続くなんておかしいすよ! なんかからくりあるんじゃねぇのか、確認させろ!」
「お前の運がねぇだけなんだって」
ダイズを指でつまんでコロコロと転がしていると、そこに、眼鏡をかけた、前髪ぱっつんの女子がやってくる。
「あの、滝先輩っ! 石田先輩っ!」
「おん?」
恰好は学校指定の運動着で、赤色だから、一年生だろう。隼人の通っている学校は、赤、青、緑の三色があり、それが毎年ローテーションする仕組み。今の三年生は緑色だから、来年の一年生は緑色の運動着を着る。そういう仕組みは全国的だと思われる。
「あ? 誰がテメェ」
「ばか勝平のばか! ごめんね! ……えっと、どうしたの? えーっっと、橋崎さん? いったいどうしたの?」
「えっと、その、前に私の姉から、お二人は都市伝説に詳しいっていう話を聞いたことがあって、ご相談したくて」
「詳しいよ~。俺達オカルトマニアだしね」
「多分世間一般が思う『詳しい』とは違うと思うけどな」
ぶっきらぼうに勝平が言う。それに苦笑いをして、隼人は「それで」と話を続けさせた。
「いったいどんなお悩みかな?」