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ゲノム

作者: たな刀

 近未来、たくさんの夫婦が精子バンクに通っていた。遺伝子工学が発達し、どの精子とどの卵子を配合すれば、より優れた人間を生み出すことができるか分かってきたからだ。この組み合わせならアインシュタインにも劣らない科学者、これならモーツァルトのような音楽家、これならニーチェのような哲学者、これなら松尾芭蕉のような詩人、これならピカソのような画家、これならニジンスキーのようなダンサー、これならロックフェラーのような大富豪、これなら釈迦のような神秘家というように。夫婦たちは「私たちがこの子の親だ!」という意識から「私たちは最上の子供を選んだ!」という意識に変っていった。それが彼らの誇りになっていた。

 暴力的な犯罪を犯した人たちには強制的に脳の手術が行われ、その暴力性が取り除かれた。そういう人はホルモンの影響で暴力行為に至っていたので、脳外科の技術が発達して、ホルモンバランスを扱う手術が行われるようになったのだ。

 街ではメガネとイヤホンをした人たちが行き来していた。そのメガネをすることによって、スマホの画面がそのまま映し出されるのだ。歩きスマホの危険性はなくなった。そして、常にAIアシスタントが彼らに的確なアドバイスをしてくれるので、人々は、愚かな、的外れなことをすることもなくなっていった。プライバシーも消滅していた。そのメガネに、目の前の相手が普段スマホでどんなことを検索して、どんな動画を見ているのかが映し出されるからだ。前科や、預金残高、普段何にお金を使っているのかも表示された。これにより、危険人物に近づかずに済むようになり、犯罪は減った。一方で、自分と気が合う人を以前よりも探しやすくなり、趣味仲間やビジネスパートナーを見つけやすくなった。このメガネが開発された当初、世界は大混乱に陥った。プライバシーがないので当然である。しかし、徐々にその便利さに気づき、人類は受け入れていった。また、プライバシーがなくなったことで、マウントや見栄の馬鹿馬鹿しさにも気づき、人類の一体性に気づく人も増えていった。


 たか子は精神病院の入院病棟に勤めていた。そこで毎日大勢の精神疾患の患者と共に過ごしている。「このまま医学が発達すれば、この人たちの病気も全て治って、私の仕事もなくなるかもな。」と奇声を上げたり、ボーっとテレビを見ている患者たちを見ながら思った。「この人たちはこのままで素晴らしいんだけどな。」とも思った。「でも、彼らのためには、私たちの仕事がなくなるくらい健康になるのが一番だな。他の仕事も探しとかなきゃ。」とたか子は思った。

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