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ショートショート5月〜5回目

いつまでも覚えている、雨の日の出来事

作者: たかさば

……雨が降ると、思い出す。


幼稚園の時に、仲良しだった…女の子。


家に帰ったあと、遊ぼうって…約束して。

家に帰ったあと、傘をさして…待ち合わせ場所に行って。


ずっと…独りぼっちで、お寺さんの入り口で待っていた。


軒下に垂れる、雨水を見ながら。

バラバラと耳に響く、傘が雨水を受ける音を聞きながら。

たまに通りかかる、傘をさした人を目で追いながら。


……ずいぶん待ったけれど、いつまで経っても…女の子は現れなくて。


───どうせ雨だし来ないわ


……出掛けに私を見下ろした、祖母の声を思い出して。


───こんな日に遊ぶ約束なんかするな!


……長靴をはく私の背に降ってきた、母親の声を思い出して。


約束したよね?

約束したのにな。

約束したこと、忘れてるのかな。


来ないのかな。

来るのかな。

来て欲しいな。


帰ろうかな。

帰りたいな。

帰ってもいいかな。


時計なんて、どこにもなくて。

まわりには、誰もいなくて。


ザアザア振りの雨の中、トボトボと家に帰って。


───なんで来なかったの?!


次の日、女の子に怒られて。


───もう、遊ばない!


その日から、女の子に嫌われて。


───この子、約束やぶるんだよ!


その日から、女の子が苦手になって。


───この人、最低なんだよ


あの日のことをいつまでも口にする、あの子が…キライになって。


……きっと、あの、雨の降った日。


約束は……守られたのだ。

お互いのタイミングが合わなくて、会えなかっただけなのだ。


家に帰って、すぐに、でかけた私。

家に帰って、しばらく経ってから、でかけたあの子。


家で、家族の声を聞くだけだった、私。

家で、家族と会話をしたであろう、あの子。


私の家に電話をして、確認したあの子の親。

女の子の親の電話を受けて、うちの子は家にいると言って切った、私の祖母。


───こんな忙しい飯時に電話してくるなんて!

───たかが子供一人のことにギャアギャアうるさいんだよ!


授業参観の時に声をかけてきた、あの子の親。

そんなの覚えてませんけどと一言返した、私の母親。


───いちいちめんどくさい人だね!

───あんな親の子とは遊ばなくていい!


成績優秀、品行方正、生徒会長を務めあげた、信頼のあつい……あの子。

よく笑い、よく手を挙げ、よくおしゃべりをする、人気者の……あの子。

誰にでも優しくて、まじめで、悪を許さない、模範生徒となった……あの子。


……相性が、悪かったのだ。


出来の悪い、どんくさくて空気の読めない変わり者の自分とは。

人の顔色を窺ってばかりいるくせに、無表情を貫いてだんまりの自分とは。

無難な選択をしながら、一人で黙々と作業に打ち込む自分とは。


……相性が悪かっただけなのだ。


タイミングも。

環境も。

家族も。

生活習慣も。

考え方も。

性格も。

生き方も。


だから、縁がなかった……、それだけの事なのだ。


けれど……、どうしてか。


雨が降ると……、思い出す。

雨が降るたびに……、思い出してしまう。


仲が良かった、ほんのわずかな期間に起きた出来事。

長い人生の中の、ほんの一部の、些細な出来事。


雨降りの日に待ち合わせをするたび、胸が…騒めいた。

晴れている時の待ち合わせでさえも、なんとなく…不安になった。


いつ来るかな。

遅れて来るかもかな。

またすれ違うかもしれないな。

行き違いから関係性がこじれるかもしれないな。

せめて雨が降らなければよかったのにな。

雨降りの日に申し訳ないな。

雨の日に出かけるのは大変だろうな。

天気が良くても、大変な事はあるかもな。

どれくらい待ったら連絡していいのかな。

いつならメールをしても迷惑じゃないのかな。

どれくらい約束の時間を過ぎたら電話をかけてもいいのかな。

移動中に連絡したら迷惑だよね。

移動中で電話が取れないこともあるよね。

何か問題が起きているかもしれないよね。

連絡したら急かしてるように思われるよね。

忘れている可能性もあるよね。

忘れられてしまうような存在なのかもね。

一生懸命走っているかもしれないよね。

何も気が付かないでぐうぐう寝ているかもしれないよね。


色々と考えて、連絡する事があった。

色々と考えて、連絡しない事があった。

色々考えているうちに、約束した相手が来る事があった。

色々と考えて、待ち続ける事があった。

色々と考えて、待つのをやめた事があった。

色々と考えたのち、帰る事があった。


いつだって時間は……あっという間に、過ぎてしまった。


数多の無意味な時間をすごしたのち、私はようやく…、理解した。

相性の悪い誰かを思って過ごすくらいなら……、一人で行動した方が、楽だ。


待ち合わせない生き方を選べるようになった私は、今。


気ままに…、お一人様生活を満喫しつつ。

ぼんやりと…、昔の出来事を思い出し。


軒下に垂れる雫を、目で追いながら。


贅沢に、時間を……、持て余している。


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