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シャーロットが可愛いだけのやつ

「お助けくだされええええ!!」

 学校からの帰り道、どこからともなく聞こえた叫び声。

 それは低空飛行で逃げ惑うフェアリーのシャーロットと、それを追いかけ回す野生のカラスだった。

 小さな身体のシャーロットにとってカラスはほぼ同じサイズ。

「危ない! ほら、俺の後ろに隠れて!」

「あ、人間殿! 地獄に仏でございます!」

 俺は背中にシャーロットを隠した。だがしつこいカラスは俺を爪やくちばしで小突く。

「痛い痛い痛い! このしつこさ、思ってた以上に害鳥ですよこいつ!」

「ひいいいい!? 大丈夫ですか、人間殿!?」

 困り果てていたところに、一人の助け舟。

「散れ、無粋なる黒き翼よ」

 突然、カラスが吹き飛ばされた。驚いたのか、カラスは体勢を立て直すもそのままどこかへ飛んで行った。

 今のは突風? それにしては随分と局所的な。

 風上に視線を移すとそこには、黒。

 漆黒の大きな翼、鼻の長い真っ赤な仮面をした、見慣れた姿が経っていた。

「あ、あなたは……扇里せんり殿!?」

 天狗の扇里。どうやら風を操る能力でもあるのか。

「クククッ、同じ黒き翼でも天地ほどの差だな。……親愛なる我がクラスメイトたちよ、無粋な鳥はもういない。故に安心して我が美しき漆黒の翼に魅了されるが良い……!」

「いや、そういうのは結構ですが、ありがとうござりまする! おかげで助かり申した!」

「同じく助かりましたよ、扇里」

「フッ、シャイな子羊たちだ。私の翼が美しすぎて直視できないのか。……まぁ良い、いずれの機会にまた魅了してくれよう」

 そう言い、扇里はその美しき漆黒の翼とやらで飛び立ってしまった。

「……。黙ってれば良い人なのですが……」

「黙ってれば、ね」


 無事助かった俺たちは、公園で一休み。

「いやはや、お恥ずかしい限りでございます。何分、手前は非力な身の上でございまして……」

 ベンチの上、俺の隣でちょこんと正座し土下座するシャーロット。

「まぁ、身体が小さいのは仕方ないですよね。でもその代わり、知恵を活かして生きてきた種族なのでしょう」

「はい、左様にござりまするが……。我々は専ら、知恵をお貸しすることで他の種族と共生して参りました。人間界でいうところのコンサルタントのようなものといえましょう。しかし〝虚業〟という言葉もあります通り、自らの手で形に残るものを作っている訳ではないので、これで良いものかと常々思ってしまうもの。いやはや、我々は何も生み出せぬ虚しき存在なのでございます……」

「そんな卑屈にならなくても……」

「はぁ……」

 と溜息をつくシャーロット――ではなく、隣のベンチに座っていたおじさんだった。

「え、こっちからも負のオーラ? そちらはどうしたんですか?」

「ああ、いや……これも時代の流れか、最近うちの店に来てくれるお客さんが少なくてねぇ。店を畳むべきか悩んでたところさ」

「店って何の店ですか」

「カフェだよ」

「カフェってメイドカフェ?」

「メイドカフェから離れましょう。あれは昨日限りの気の迷いだったのでございますから……。しかし、茶屋を繁盛させたいということですか。そうとあらば、この私に一計ございます」

「ほ、本当かい?」

「ここは一つお任せください! 私の稽古の成果をお見せすると致しましょう!」


 そして始まったのは、『フェアリー寄席 in おっさんのカフェ』。

 亜人、それも見るからに珍しい小型種のフェアリーがこの店で落語を披露すると、あの手この手で宣伝した。特に鳥人でアイドルのカリストもSNSで告知してくれたのが大きかったようで、めでたく満員御礼に。

 落語とか好きそうなご年配から、物珍しさ目当てらしい若者まで、幅広いお客さんに来て貰えた。

「えー、私の思い付きで催すことと相成りましたこの場ではございますが、しばらくの間お付き合いのほどお願い申し上げます。〝思い付き〟と申しますと、今から幾千年と昔のことではございますが、年がら年中思い付きばかりで家来を困らせていた魔王様というのがおられたそうで――」

 こんな調子で軽快に語っていくシャーロット。

 テーブルの上、コースターを座布団代わりにちょこんと正座した小さな落語家の語りに、皆が聞き入り、笑った。。

 本当に、喋ることに関しては彼女に敵う者などそういないと思った。

「――すると魔王様、『見よ、余が言った通りじゃ』『何を仰いますか。恐れながら、せっかく徹夜で探し求めたエクスカリバーを掲げても何も起こらぬではございませぬか』『いや、(アーサー)になった』……お後がよろしいようで」

 拍手喝采で彼女の寄席は締めくくられた。


「ありがとう、シャーロットさん。君の寄席が目当てで集まってくれたお客さんたちだけど、コーヒーの味も気に入ってくれてね。また来ると言ってくれた人もいたし、まだまだやれそうだよ」

「いえいえ、大したことではございませぬ。むしろ私にはこれぐらいしかできないのでございます。何も生み出せぬ身の上ですので」

 謙遜するシャーロット。しかし俺は思う。

「……生み出したじゃないですか」

「え? 何を?」

「みんなの笑顔」

「っ!? なんと、これは一本取られましたな!」

 膝を叩いて笑うシャーロット。しかし少し顔が赤くなっていた。

 特技を活かして人を笑顔にしてくれるシャーロットが可愛いだけだった。

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