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6.ロイスの試験結果

 なおも「俺が次代の王だっ!」と喚き続けるヘンリックは、暗部の人間によって取り押さえられた。そんな様子を余所目に、悠々と構えている男がいた。

 公爵家子息のロイスである。彼は、ランバートとヘンリックが罪を暴かれているにも関わらず、自分は無関係だと思っているのだ。


 そんなロイスの態度は、親友であり臣下であった二人を失ったばかりのレグスには、最後の希望に見えた。


「ロイス! お前は大丈夫なのか?」

「うん。だって、悪い事なんてしてないし」

 

 のほほんとしてそう言うロイスに、レグスは安堵のため息をつく。

 周囲の生徒たちは「本当か?」と疑問を持ちながらも、スフレの言葉を待った。  

  

「続きまして、ロイス様の講評です。ロイス様は、学園の内外を問わずパーティーや舞踏会といった社交場に積極的に参加され、公爵家のご嫡男、殿下の側近としての人脈づくりに励まれました」

「まあ、僕にはそれしかできないからね。逆に言えば、あいつらみたいな犯罪まがいのことはしてないはずだよ?」


 ロイスは、本当に心当たりがないのだろう。悪びれることもなく、肩をすくめる。

 彼の言葉に、スフレは「確かに、法的な罪はありません」と一度肯定するも、首を横に振りながら続けた。

 

「しかしながら、道徳的、倫理的に問題がある行動が確認されています」

「倫理的に問題?」


 咄嗟にレグスが口を挟むと、スフレは彼を見て頷いた。 

 

「はい。ロイス様の普段の言動は、良く言えば親しみやすいものですが、その距離感は礼節を弁えておりません。例えば、ご令嬢の手を握る、頬を撫でる、抱きつこうとするなど、貴族社会の中では、はしたないと咎められるものです」

「みんな喜んでくれているじゃない? 何が問題なの?」

「ロイス様の容姿は一般的に言えば整っており、喜ばれるご令嬢が比較的多いのは事実です。しかし一方で、ロイス様のこう言った振る舞いに嫌悪感を抱くご令嬢もいます。酷い場合、婚約者との関係に暇疵を負ったご令嬢もいました」

「嘘……!? そんなこと、言われたことないよ?」


 心底驚いたようなロイスの反応に、スフレは再度首を振った。

 

「公爵家といえば、王家に次ぐ尊い血筋。内心は不快に感じながらも、階位が低い者が口に出すことは難しいです。それに、公爵様直々に言動を改めるよう、幾度も注意を受けていたはずです」

「あ……父上に……言われたかも…」

「ロイス様は、常識や社会通念を理解できない異常人物と判断せざるを得ません。この判断を補強する事実として、ロイス様の女性関係もまた、破廉恥極まりありません」


 にわかに雲行きが怪しくなり、レグスの顔色も悪くなる。一方、ロイスは「破廉恥?」と疑問符を浮かべていた。

 そんな中、スフレの次の言葉に、会場に激震が走る。

 

「ロイス様は、並行して複数の女性と肉体関係を持っていました。その数13人。内訳は、学園の女生徒が3名、貴族家の女性が4名、市井の女性が6名です」 

「そんな……!」


 小さく叫んだレグス。彼と同様に、生徒たち……特にロイスと同じ経営コースの者たちからは、「噂の情婦!?」「そんなにか!?」と驚きの声が上がる。


「加えて、ロイス様は他にも関係を持つ女性がいるとは伝えていませんでしたね。それどころか、『愛するのは君だけだ。いずれ公爵夫人として迎える』と伝えていたことも確認しています」

「…………」

「お分かりになりましたか? 伊達男の振りをした卑劣漢。それが貴方の実態です」


 衝撃的なロイスの女癖の悪さにレグスは口を閉ざし、話が違うと言わんばかりにロイスを睨みつけた。周囲からも絶対零度の冷たい目が彼に向けられる。


 しかし、ロイスは変わりない泰然とした様子で、首を傾げながら言い放った。


「それが、何か問題あるの?」

 

 周囲には、彼に潜在する魔性がゾワリと表出する音が、確かに聞こえた。

 

 レグスは、彼の一言が理解できなかった。いや、言葉の意味は分かるが、彼が何を言わんとするのかを脳が理解するのを止めたのだ。

 眼の前でヘラヘラと笑う紫髪の男が、自分たちと感性も常識も違う存在が、自分と同じ人間なのか分からなくなる。

 

(気味が悪い、悍ましい、恐ろしい……。こいつは、ロイスは一体何なのだ?)

 

 レグスは、胃の腑から込み上げてくる何かにえづき、咄嗟に口元を押さえた。

 セシリアや他の生徒たちも、まるで化け物を見たような表情で凍りついている。


 依然として薄ら笑いを浮かべるロイスに、レグスは戦慄した。何とか吐き気をこらえながら、「どうして……?」と問い掛けると、飄々として語りだした。

   

「だって、みんな素敵な女性で、みんなのこと愛してるんだもん。みんなも俺のこと愛しているって言ってくれるし、ウィンウィンじゃん」

「…………」

「愛する人と繋がりたいのは、自然な気持ちでしょ? 愛する人と結婚するのも当然。ほら、何も問題ないよ?」

「…………」


 理解不能極まりない言葉に、レグスはロイスにかける言葉を失った。

 これまでもこれからも、彼が側近として自分を支えてくれるのだと信じていた。しかし、本人も認めた数々の悪行、暴かれた彼の本性は、レグスの信頼を失わせていた。

 

 スフレは、ロイスをビッと指差すと、「最終評価を告げます」と言った。


「社会通念や規範を無視するその言動! あまつさえ、多くの女性の心身を弄び、貞操観念をも理解できないなど異常です! よって、最終評価は不合格。王族の側近、公爵家当主など以ての外。一臣下としても不適格です!」


 下された結論にロイスは、「……?」と首を傾げた。

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― 新着の感想 ―
[一言] その辺りは日本と違うから、公然の秘密って言葉もあるくらいだし、複数の女と付き合うのは他の2人よりは有りな悪さよね
[気になる点] この場面、言動のないヘンリックへの言葉を失うのは明らかに対象がおかしいため気になります。 > ロイス「(略)愛する人と結婚するのも当然。ほら、何も問題ないよ?」 >レグス「…………」 …
2023/04/12 05:06 とおりすがり
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