4.ランバートの試験結果
「まずは、ランバート様からです」
取り押さえられたままのランバートは、何が始まるのかと怪訝な表情で首を傾げた。
「貴方様は、次期騎士団長を目指し、主に剣の修行に励んでおられ、剣術大会においても優勝という成果を残されました」
「当然だ! 俺は父上の跡を継ぐ人間だ!」
錯乱していたものの、単純な思考のランバートは褒められたことに気を良くした。
しかし、次のスフレの一言に絶句することになる。
「しかしながら、騎士道精神に反する言動をし、脅迫や暴力といった犯罪行為に手を染めた事が確認されています」
「…………!」
「騎士道に反する? それに犯罪だと……?」
レグスは、ギクリとした様子のランバートを押さえながら、怪訝な声で問い返した。
確かにランバートは粗野な言葉遣いをするものの、誰よりも騎士に憧れ、正々堂々とした性格だと思っているからだ。
「はい。日常的に騎士コースの生徒たちへ、稽古と称して過剰な暴力を振るっていました。既に降参している者や倒れた者を足蹴にしたり、追撃を加えるのは、訓練の域を超えております」
『…………!!』
レグスたちやセシリアも含めて、会場にどよめきが走る。特に騎士コースの生徒たちからは「そうだ!」「俺もやられた!」とスフレの発言を肯定する声も上がり始めた。
会場内のどよめきを背に、スフレは淡々と報告を続けていく。
「より悪辣なことに、同じ騎士コースの生徒たち……特に有望な者たちへ、不当な圧力をかけていたことも分かっています。子爵令息であるケント様には、現役の騎士である彼の兄君を僻地に飛ばすと脅迫し、剣術大会で手を抜くよう仕向けました。また、平民でありながら特待生として入学されたイーサン様には、闇討ちを仕掛け、大怪我を負わせましたね」
『…………!?!?』
どよめきが更に大きくなる。騎士コースの生徒からは「やっぱり!」「噂は本当だったのか!」という声も聞こえ始め、ランバートを信じていたレグスたちも疑いの目を向け始める。
「確かに、騎士コースの生徒の中でも腕力はお有りのようですが、技術も戦術も未熟で決して優秀とは言えません。剣術大会優勝という成績も疑わしいというのが、私たちの見解です」
続けられたスフレの言葉に、ランバートは周囲をぐるりと見回すも、向けられるのは疑いと嘲りの眼差しだけ。馬鹿にされていると直感した彼は、「あぁぁぁ!」と叫びながら体を大きく振り回し、自分を押さえていたレグスたちを跳ね飛ばした。
「うるさいうるさいうるさい! 俺が優勝したんだっ! 俺が一番なんだぁぁぁ!」
「っ! 待て!」
怒号を上げた彼は、再度スフレに殴りかかっていく。今度はレグスの制止も間に合わない。どこからか「ひっ!」という悲鳴が聞こえ、全員がスフレが殴り飛ばされる姿を想像した。
しかし、次の瞬間にボグッ!という鈍い音とともに宙を舞っていたのは、赤髪の男だった。
『はっ?』
時が止まったような空気の中、スフレは左ストレートを振り抜いた体勢で、残心を決めている。殴り飛ばされ、倒れ込んだランバートは、信じられないという顔で、スフレを見上げた。
「クロスカウンター……」
騎士コースの生徒が呟いた言葉が、静寂の中に不思議なほどしっかりと響く。
残心を解いたスフレは、倒れるランバートにつかつかと歩み寄ると、頭のすぐ横の床をダンッ!と踏みつけ、彼を見下ろしながら言い放った。
「お分かりになりましたか? 細腕の私にも勝てない。それが貴方の実力です」
「…………!」
しばし絶句したランバートは、いきなりポロポロと泣き出した。
周囲には、彼の自尊心がポッキリと折れる音が、確かに聞こえた。
嗚咽を上げるランバートに、レグスは慌てて近寄った。泣きじゃくる彼の肩を抱きながら、「どうして……?」と問い掛けると、嗚咽混じりに叫びだした。
「仕方なかったんだ……! 俺は弱いからっ! 騎士団長になるためには、ライバルを蹴落とすしかなかったんだっ!」
「ランバート……」
「俺は悪くないっ! 俺より強い奴らが悪いんだっ!」
逆恨みも甚だしい言葉に、レグスはランバートを慰めることができなかった。
これまでもこれからも、彼が騎士として自分を守ってくれるのだと信じていた。しかし、本人も認めた数々の悪行、今さっきの凶行はレグスの信頼を失わせていた。
スフレは、泣きじゃくるランバートをビッと指差すと、「最終評価を告げます」と言った。
「実力もなければ、高める努力を放棄する姿勢! あまつさえ、ライバルを蹴落とし、私情のままに周囲へ当たり散らす様は、騎士どころか一人の人間として卑劣です! よって、最終評価は不合格。王族の側近、騎士団長など以ての外。一騎士としても不適格です!」
下された結論にランバートは、「くそぉぉぉぉ!」と泣き叫んだ。