1.オープニング
初投稿です!よろしくお願いいたします!
ここは、とある王国の貴族学校。
貴族の子女たちは15歳で入学し、ここで3年間学ぶことが義務付けられている。
生徒たちは、一般、騎士、文官、経営といったコースを選択し、専攻に応じた知識を習得したり、実践的な訓練をしたりと、優秀な人材となるべく研鑽に励む。
今日は新学期の初日であり、新入生と在校生の交流を目的としたパーティーが開かれている。
今は開会直後の歓談の時間だ。
同じコースの生徒たちで集まる者、新入生へ積極的に話しかける者、婚約者と甘めな時を過ごす者など、思い思いにパーティーの雰囲気を楽しんでいる。
そんな生徒たちの話題の中心であり、最大の関心事となっているのは、二回生になったばかりの王族のレグスとその側近候補である三人についてである。
この国の第一王子であり、光差すような金髪の貴公子――王太子候補のレグス。
騎士団長子息であり、燃えるような赤髪の偉丈夫――剣の達人のランバート。
宰相子息であり、涼やかな青髪の秀才――学年首席のヘンリック。
公爵家嫡男であり、蠱惑的な紫髪の美丈夫――社交界の華のロイス。
この四人は、出自や彼ら自身の有能さから、将来的な国の中枢として大きな期待と注目を集め、鳴り物入りで入学してきた。
また、それぞれにタイプの違う美男子でもあり、生徒たちも彼らに憧れを抱き、共に学べることを大いに喜んでいた。
しかしながら、彼らの評価は、この一年で急降下。今は腫れ物扱いされている。
その原因は、この一年で四人の貴公子に急接近した男爵令嬢、スフレだ。
甘やかな桃色の髪と大きな瞳が印象的な美少女である。
そんなスフレは、地方貴族の男爵が庶民の女性に産ませたいわゆる庶子であり、入学前まで孤児院で暮らしてきたという。そのためか、彼女は貴族子女として当然備えているべき常識や礼儀を知らなかった。
表情を取り繕うことをせず、屈託のない笑顔で笑う。
拙い言葉遣いで、誰にでも気軽に話しかける。
男女問わず、何気なくボディタッチをする。
良く言えば、天真爛漫。悪く言えば、自由奔放。
そんな彼女は、臆面もなく四人の貴公子に近づいた。
生徒たちは、眉を顰めながらも「どうせ相手にされないだろう」と静観したり、心配しながら「不敬で罰せられるのでは」と見守ったりしたが、予想に反してスフレは、すぐに彼らの懐に入り込んでしまった。
必修授業は五人で受け、放課後は談話室を貸し切りにしてベッタリと過ごす。
休日も五人揃って、もしくはスフレともう一人という形で出掛けまくる。
見る見るうちにスフレと彼らが共にいる時間は増えていき、一ヶ月後には彼らの傍を独占するようになった。
こうなっては、他の生徒たちもただ見ているわけにはいかず、スフレと王子たちを諌め始めた。彼らの行動は、貴族階級的にも、未婚の子女としても常識外れのことだからだ。
特に強く注意したのは、レグスの婚約者であるセシリアだった。
セシリアは、月のようにきらめく銀髪と知的な眼差しが魅力的な美少女であり、貴公子たちと人気を二分していた生徒たちの憧れである。
彼女は筆頭侯爵家に生まれ、幼少から厳しい教育と躾を受けてきた。レグスの婚約者となってからは、王妃教育も受けており、美と気品、教養をも兼ね備えた貴族令嬢の模範と言われている。
そんな彼女にとって五人の行動は、当然看過できないものであったが、スフレに対しては、その出自から酌量の余地があると考え、寛容だった。
まず、彼女は婚約者であるレグスを諌めた。
「殿下。スフレ様とのお付き合いの仕方を改めて下さいませ」
「なんだ? 自分が婚約者だからと、スフレに嫉妬しているのか?」
「……嫉妬など個人的な問題ではありません。階級制度のみならず、貞操観念としても、付き合い方に良識がないと申し上げているのです」
「同じ学生同士、貴族階級など関係ないだろう。それに、スフレはただの学友だ。お前が想像するようないやらしい関係ではない」
「殿下たちがそのようにお考えでも、周囲からはそのように見えません。多くの生徒たちが困惑しています」
「言いたい者には言わせておけば良い。俺は王太子候補、つまり未来の王だ。好む人間を傍において、問題があるのか!?」
「……!? ですが、殿下!」
「もういい! 昔からお前は小言が多くて敵わん。スフレの話は二度とするな。不愉快だ!」
セシリアの忠告は何一つも響かず、彼との関係を悪化させるばかりだった。
他の側近候補たちも似たようなもので、『スフレはただの友達』、『身分は関係ない』と悪びれもせず言い放ち、何度も諌めても態度を改めることはなかった。
彼らのスフレを見つめる眼差しに、友情以上の熱が宿っていることは誰が見ても明らかで、一人として彼らの言葉を信じる者はいなかった。
彼らに言っても通じないと呆れたセシリアは、スフレ自身を説得することにした。彼女は常識を知らないだけで、話せば分かると期待したのだ。
「スフレ様、殿下たちとの関係を見直して下さいませ」
「関係……? 仲良くさせてもらっていますが、何か問題が……?」
「問題なのです。仲が良いのは結構ですが、行き過ぎれば不貞、浮気とも言われかねません」
「そんな、浮気だなんて! そんなつもりありません!」
「ええ、分かっています。しかし、周りはそう思わないのです」
「そんなこと言われても……。ただ一緒にいるのが楽しいだけなのに……」
「……スフレ様だけが悪い訳ではありませんが、このままでは要らぬ誤解を受けてしまいます。どうかあなたのために、そして殿下たちのために改めて下さいませ」
「分かりました……。レグス様と話してきます……」
話が通じたとホッとしたセシリアだったが、すぐにレグスたちが怒鳴り込んで来て、驚きとともに落胆することになる。
スフレが泣きながら彼らの前に現れたため、彼女らのやり取りは、スフレへのイジメだと謎に曲解されてしまっていたのだ。
彼らはセシリアこそが悪者だと一方的に責めた。いくら誤解だと言っても耳を貸さず、『優しいスフレを守らねば』と意気込んでしまい、かえって事態は悪化したのだった。
そんな状況が続くと、多くの生徒たちは、レグスたちに不信感を抱いた。五人をアンタッチャブルな存在として扱うようになり、話しかけることも関わることもせずに、距離を置いた。
加えて、貴公子たちの不穏な噂も流れ始め、自然とその評価も悪い方向へ変わっていった。
レグスの気位の高さは、傲慢さに。
ランバートの強さは、乱暴さに。
ヘンリックの賢さは、陰湿さに。
ロイスの社交性は、軽薄さに。
今や、彼らは憧れではなく軽蔑の対象である。
一方、彼らに毅然として立ち向かうセシリアは支持を集めているが、自分たちの世界に閉じこもっている五人は、それに気付いていないようだった。