夢現
夢を見ている
『誰か』と話し
私は微笑む
『誰か』が私の手を握り締めて
「おいで」と私をどこかへ導く
私は不安を抱えながら
言われるままに『誰か』と歩く
私の手を引き私を導く、
あなたは誰?
あなたは誰?
川のせせらぎ
鳥の鳴き声
ここは森かそれとも川辺か
引かれるままについて歩き
たどり着いたその場所は
光を受けて水面が輝く
綺麗な小川のその川辺
立ち止まり振り返った『誰か』は
光を背にして姿も顔も翳って見えない
それでも不思議と不安は感じず
『誰か』が私に話しかけると
私は少し照れていた
私の心を温かくする、
あなたは誰?
あなたは誰?
そうして感じたふとした違和感
どうして私は笑えるのだろう
どうして私は楽しいのだろう
私の心は闇へと沈み
悲しみと苦しみに囚われて
嘆きの鎖が私を縛り
解き放たれず
逃げることも出来ず
一人もがき続けていたのに
私はいつから自由になったの
私はいつから一人ではないの
私の傍にいてくれる、
あなたは誰?
あなたは誰?
『誰か』が腕をまっすぐ伸ばし
空を舞う何かを指差す
私は思わずその先を見つめ
空の蒼さに心奪われる
薄く透き通るような蒼
ひらひらと舞うように流れる白
見つめた瞬間、空に呑み込まれるような
それでいて空を取り込んでいるような感覚
その空を舞う何か
『誰か』が示したその先には
羽ばたく小さな鳥が2羽
それはまるで夫婦のように
仲睦まじく絡み合うよう飛んでいる
私が空を舞ってるような
そんな感覚を覚えながら
鳥が森へと消えるまで
私はずっと見つめていた
私の心に望みをくれる、
あなたは誰?
あなたは誰?
ふいに雲が光を隠し、
にわかに世界が暗くなる
不安になって『誰か』を見ると
そこには『あなた』の笑顔があった
私の顔を覗き込み
私の不安を見透かすように
『あなた』は私に優しく微笑む
- 大丈夫だよ
『あなた』が言う
私はきょとんと『あなた』を見つめる
- 僕が傍にいるからね
『あなた』の言葉は
私の心に"りん"と音を立てて響き
響いた音色は波となり
心を満たす水面から
静かに水を溢れさせる
溢れた水は頬を伝って
やがて一粒地に落ちる
『あなた』の顔が歪んで見えて
『あなた』はそれを優しく見つめる
光を隠した雲が過ぎ去り
再び光が世界を覆って
『あなた』の背から溢れる光が
『あなた』を隠して、
『誰か』に戻す
『誰か』は私の溢れた水を
優しく指で拭いとると
私の頬に手のひらをあて
- 大丈夫だよ
と繰り返す。
溢れた水は中々止まらず
けれど、『誰か』は見つめているだけ
私は頬の手の温もりに
癒されるのを感じながら
水を流れるままにした
やがて水面に出来た波は
ゆるりゆるりと穏やかになり
流れる水もゆるりと止まる
『誰か』はそれを見届けると
- 泣きたいときは泣いてもいいよ
私の瞳に溜まった水を拭い
- 苦しい時は頼っていいよ
私の右頬を包むように
『誰か』はゆっくり左手を添え
- 一人で我慢しないでいいんだよ
私の左頬を包むように
『誰か』は静かに右手を添える
私はまるで子供のように
『誰か』の言葉にいちいち頷く
そんな私を『誰か』はじっと見つめると
優しく、柔らかく微笑んだ
- 僕が傍にいるからね
『誰か』は私の左手を握り
私は『誰か』の右手を握る
『誰か』が私に「行こう」と言うと
私は迷わず小さく頷く
川のせせらぎ、鳥の鳴き声
澄み渡るソラ、流れゆく雲
全てが集まり、世界が弾ける
夢を見ていた
とても不安だった何かが
いつの間にか幸せに変わっていた
『誰か』がいた気がした
私は一人ではなかった
私とは違って、傍に誰かが
ふいに左手に温もりを感じた
呆けた頭で左手を見ると
『誰か』の右手を握り締めていた
右手の主はベッドに倒れこむように眠っていて
私は思わず口元がほころびた
私は一人だったのに
『あなた』が私の世界を壊した
- どうして私は笑えるのだろう
- どうして私は楽しいのだろう
私は『あなた』の寝顔を見つめ
心が温かくなるのを感じた
『誰か』が傍にいるからじゃなくて
『あなた』が傍にいるからなのだと
ようやく分かった
寝ている『あなた』を起こさないよう
握り締めてた手を離し
体をを起こしてベッドから降りる
薄い掛け布団を押入れから出し
『あなた』の肩にそっとかける
眠る『あなた』の横顔を見つめ
私は『あなた』の頬に口付ける
- 私も傍にいるからね
そう耳元で囁いて
私は再びベッドの中へ
『あなた』の右手を握り締め
私は静かに目を閉じる
そして私は夢を見る…
『あなた』に逢うため夢を見る