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В.г いいでしょう - 02

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 アルデーラは、後ろに控えているギルバートに、少し首を振るようにした。


 頷いたギルバートが、すぐに一礼をして、部屋を後にする。


「準備ができ次第王都に出ます。馬の用意を」

「王都の市街を馬で移動するつもりではないのなら、王城から王都までは、馬車の方が簡単だが」


「では、馬車で。どうせ、市街でごった返している場で、騎乗などしていたら、あなた達の護衛も大変でしょうから」


 セシルを見失って更に問題にでもなるだろう、などと、本当に、騎士団を侮辱してくれたものだ。


 だが、もう、その挑発には乗らないアルデーラは、セシルの言葉を簡単に無視している。


 すぐにギルバートが戻ってきて、契約書をアルデーラに渡す。


 それにサッと目を通したアルデーラが、まず、自分の名前をサインした。

 その書類をテーブルの上に置き、クルリと回して、セシルの方に押し出した。


 セシルは書類を取り上げ、中の内容を確認していく。


「これのコピーを?」

「こぴー?」

「複製を作って、二枚にすることです」


 それで、ブレッカでもセシルが提供してきた(投げつけて来た) 書類は、二枚、同じものが作成されいたことも、アルデーラは思い出していた。


 どうやら、セシルは、念には念を入れ、かなり慎重な令嬢なのは間違いなかった。

 相手側が契約無視や条項違反をしても、自分側で書類や契約書を保管していれば、勝手に相手が書類を破っても、言い逃れはできない。


「いいでしょう。――あそこの棚に、余分の紙が入っている」

「わかりました」


 ギルバートは、指で示された壁側の棚に行き、そこの引き出しを何個か開けてみた。手紙用の紙として保管されている紙を見つけ、戻って来る。


「どうぞ」


 仕方なく、アルデーラは最初の契約書と同じ内容を書き込み、サインをして、セシルに手渡した。


 そこでやっと、セシルが二枚の書類にサインをする。


「では、これから王都に出ます。その準備を」


 それだけの、あまりに簡潔な指示である。

 聞きようによっては、騎士団の副団長であるギルバートさえも、足でコキ使うような発言とも言えなくはない。


 だが、アルデーラが承諾したことだ。すでに、契約書にも、二人のサインが書き込まれている。


 溜息(ためいき)をこぼしそうになりながら、ギルバートは静かに頷いた。


「わかりました。準備が整いましたら、お部屋の方にお迎えに上がりますので、それまで、申し訳ありませんが、お部屋の方でお待ちいただけないでしょうか?」


「わかりました」


 では、とセシルはそれだけで、王太子殿下に向かってまでも、あまりに簡潔な挨拶だ。


 ここまでくると、礼儀知らず、マナー違反、なんて次元ではないだろう。


 だが、アルデーラ達には、セシルを責めることはできない。


 ブレッカでは、王国側が弁解もできないひどい仕打ちを強いてしまっただけに、負い目があり、恩まであるので、セシルがあからさまに嫌悪を見せ、失礼な行動を取ろうが、叱りつけるなど、到底、できなかった。


 セシルはさっさと部屋を後にしてしまう。


「――王太子殿下……。本当によろしいのですか?」


 後ろに控えて、全く口を挟んでこなかった第一騎士団団長のハーキンの視線は、さっさとこの部屋を立ち去ってしまった令嬢の影を追っているかのように、扉側に向けられている。


「現状では、ほぼ選択肢が残されていない。それに――あのご令嬢には、あの“精鋭部隊”がついている。ただ、王宮内で大人しくしていても、更なる不況を買い、果てには、ノーウッド王国に告げ口されかねない」


 セシル自身は、ノーウッド王国には報告しない、と言ってくれた。

 だが、アトレシア大王国の王宮に来てまで、その寛大さが、いつまでも続くとは限らない。


 今は、ほぼ軟禁状態で閉じ込められている最悪の状態なのだから。


 それなら、セシルの――認めたくはないが、あの能力を使い、この陰謀を仕掛けた裏の貴族を引っ張り出す手伝いをさせるのが、一番手っ取り早いのだ。


 ブレッカでセシルが(投げて) 寄越した書類内容を見ても、全部が全部、反論もできないほどに完璧で、正確で、綿密で、詳細で、あのセシルが、隙など一切見せない切れ者であることは、アルデーラにだってすぐに見て取れた。


 だから、セシル自身が手伝うことを承諾したのなら、たぶん、セシルだって、さっさと自国に戻る為に、本気になってこの陰謀を暴いてくるだろう。


 (本当に嫌々に) 認めたくはないが――その可能性があまりに高く、あり過ぎる現状を、アルデーラが一番に理解していたのだ。



* * *



 客室にギルバートが現れて、とっくの昔に準備を終えていたセシル達は、椅子から立ち上がっていた。


 その様子を静かに見ていたギルバートも、一瞬、ほんの一瞬、絶句しかけていた。


 全身真っ黒……。


 セシル達全員は、真っ黒なフードのついたマントを身に着けていた。


 身体は全身を覆い尽くすような布でスッポリと隠され、手は出ていず、足首までしっかりとある長いマントの裾が揺れ、これこそ、正に、真っ黒な()が動いているみたいである。


 さすがに、怪しい、異様な集団としか見えない……。


 昨夜に続き、真っ黒な()、第二段である。


 これから黒色を見ると――昨日の奇天烈なドレスと、おまけに、今日の真っ黒い塊の集団のイメージが焼き付いてしまって、嫌でも思い出してしまいそうである(不吉だな……)。


 だが、マントの下だろうと、相変わらず武装している様相は、変わらない。


 貴族の令嬢であるのに、自ら剣をぶら下げ、振り回し、騎士もどきの戦いまで参加するなど、一体、どういう(しつけ)を受けているのか、ギルバート達だって、疑いたくなるものだ。


「馬車を用意しました。どうぞこちらへ」


 ギルバートに連れられて、長い、長い、王宮内の廊下を進んで行く。


 所々ですれ違う警備の騎士達が、ギルバートの姿を認めると、全員が姿勢正しく一礼をしていたが――そのすぐ後ろを歩いている真っ黒な塊を見て、かなり顔をしかめてしまっている。


 騎士達は、何かを聞きたそうな様相を見せていても、通り過ぎていくギルバート達の背中を、(いぶか)しげに凝視してるだけだった。


 長い廊下、長い通路を抜けて、やっと、目的の場所に到着したようだった。


 四輪の馬車が用意されていて、華美でもなく、派手でもなく、だからと言って、(さび)れた辻馬車や荷車でもなかった。


 他の騎士達もその場に集まっていて、ギルバートがやって来て、全員が作業を止め、一礼をする。


「どうぞ」


 ギルバートは馬車のドアを開け、セシルを促した。


 セシルはマントを身に着けているだけに、全身がスッポリと隠されてしまっている。


 それで、ギルバートの方だって、実は……エスコート用に、ちゃんと手を出すべきだったのかどうか、迷ってしまったほどだ。


 だが、セシルはそんなギルバートの葛藤など知らず、さっさと、一人で馬車に乗り込んで行く。


 エスコートもいらず、勝手に馬車に乗るご令嬢……。


 このご令嬢、本当に貴族のご令嬢なのか、ギルバートも疑いたくなってしまう。


 セシルの護衛達が乗り込むと、ギルバートは御者台に乗っている騎士に合図をする。

 すぐに、ギルバートも用意された馬に飛び乗っていた。


 セシル達は王宮にやって来た時は、王太子殿下から直筆の招待状があったので、王宮の正門をくぐり、王宮に到着した。

 今回は違った場所から馬車を出すようで、その通行門をくぐり、馬車が王宮を後にしていた。


 最初は、ほぼ真っ直ぐな馬車道を進んでいたようだが、何度かだけ曲り道があり、残りの道も、ほとんど真っ直ぐな道を進んでいた。


 馬車から下りてくると、どうやら、王宮の区画として、最後の通行門近くの広場にやって来ていたのだ。


 門側にいる騎士達以外には、人影はなかった。


 ギルバートにいつも付き添っている騎士が門番と話を通し、セシル達はその門を通り抜け、王都にやって来ていた。



読んでいただきありがとうございました。

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