表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/539

* В.г いいでしょう *

ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります! どうぞよろしくお願いいたします。

 あれから三日が経った。


 部屋に閉じ込められたまま、することもなく、時間の無駄で、しなければならない仕事はたくさんあるのに、全く以て、不愉快極まりない。


「ご加減はいかがか?」


 そして、セシルの時間を最高潮に無駄にしている、正にその張本人が、セシルの前の椅子に座っている。


 王太子殿下の私室らしき部屋にまた呼び出されて、セシルは、王太子殿下とテーブルを挟んで、対峙していた。


 王太子殿下の後ろには、第一騎士団の団長が起立したま、控えている。

 セシルの後ろには、セシルの護衛が二人。


 そして、扉側にはセシルを迎えに来たギルバートが控えていた。


「時間の無駄。それだけです」


 あまりに淡々と、あっさりと、だが、ピシャリと、付け込む隙もないほど、キッパリと言い切ったセシルだ。


 そして、気まずい沈黙が、その場に降りる。


「一体、いつまで、監禁なさるつもりですか?」

「今は、まだ混乱が続いている状態なので、このまま一人にしては、危険でしょう」


「そうかしら。このまま隣国に帰れば、はっきり言って、全く問題もないでしょうにねえ」

「そうとは言い切れないが」


 わざわざ、隣国であるノーウッド王国までセシルを追って、夜会での陰謀計画を滅茶滅茶にした腹癒(はらい)せに、敵が襲ってくるとでも言いたいのだろうか。


 セシルがあの夜会を滅茶滅茶にした事実は――疑いようもなく、すでに広がっているはずだ。

 特に、他国の令嬢なだけの立場なのに、王国のゲストとして参加した令嬢が――国家転覆もどきの陰謀を叩き潰してしまった状態でもある。


 そして、二家の貴族がすでに捕縛され、お家お取り潰し、家名断絶、今はかなりの重罪で、投獄までされてしまった。

 異例のスピード(偶然だとしても) での、粛清(しゅくせい)――だった。


 “長老派”だって、まさか、こんなに早く、自分達の駒となっている二家が潰されてしまうなど、露にも思わなかったはずだ。


 だから、ずる賢く、あくどい貴族が揃っている“長老派”など、すぐに、セシルの近辺を調査させていてもおかしくはない。


 今の所、セシルは客室で監禁されていると思っているらしいが――完全にそう信じているのだろうが――それでも、今、セシルが自国に戻ったからと言って、セシルが安全だとは、絶対に言い切れない。


 むしろ、アトレシア大王国から離れたからこそ、薄汚い“長老派”が、腹癒せの為に、偶然を(よそお)った暗殺計画でも立てていたとしても、アルデーラには全く不思議はなかった。


「王族、王家の人間は、よく命を狙われる――なんていう話は聞きますけれど、この国も、例外ではないようですのね」


 別に、皮肉で言われた言葉ではなかった。

 ただ、現状をそのままに、事実をそのままに、あまりにあっさりと、セシルは端的に指摘してきただけだ。


 だが、アルデーラの眉間が、ピクリと、微かにだけ揺れていた。


「頻繁で、敵が多いこと」

「――王家でなくとも、欲に目がくらんだ愚鈍は、たくさんいる」


 へえと、セシルは全くこの話題に興味がないように、心もこもっていない相槌が、喉だけで音を出したようなものだった。


()王国? 国土は広いですわよねえ。だからかしら? この国、随分、問題があるようですけど?」

「そのようなことはないが。王国の治世と統治は、穏やかだ」


 ふうん、と更につまらなそうに、セシルの相槌が音を出す。


「穏やかな治世、ねえ。その割には、王太子殿下主催の夜会に賊が侵入し、夜会は滅茶滅茶。裏切り者の貴族がいて、おまけに人質を取られて、危うく殺傷問題。まあ、結果としては、賊だけが怪我をしたようですけれど」


 それも、セシルが介入しなければ、最悪の事態に陥っていた可能性は高い。


「国王の性格を反映していて治世が穏やかだ、とは噂にも聞きましたけれど。それ、本気で思っているんですか?」

「――――どういう、意味だろうか」


 アルデーラが、慎重にセシルを見やりながら、それを聞き返す。


 セシルは態度も変えず、ただ淡々と、

「穏やかな治世は、それはそれで、民も喜ぶでしょう。無理もなく、問題もなく、治世が穏やか――など、国が安定している時なら、それもあるのでしょうね。ですが、混乱や動乱に、穏やかさだけで足りるのですか?」


「――っ――」


「表面上は穏やかで、表面下では、混乱と動乱が。そして、国が荒れていく中、一番に被害を受けるのは、一体、誰だと思っているんですか? そう言った同情や感傷で、一国が治められるのであれば、ある程度、知能のある領民にだって、国王になれることでしょう」


 セシルの口調は淡々として、声音だって、感情の機微があるわけでもない、あっさりとしたものだ。


 態度も変わらず、責めているのでもない。

 侮辱しているのでもない。


 だが――その一言で、アルデーラが――態度に出さなくとも、絶句していたのは、セシルは知らないことだろう。


「まあ、隣国のことなど、私には関係ありませんけれど」


 だから、さっさとセシルを解放して、時間の無駄をするな、と暗黙の意味がその言葉に乗せられている。


 だが、アルデーラは、難しく眉間を微かに寄せて、考えているだけだ。


 それから、更に、シーンと、気まずい沈黙だけが降りる。


 セシルからは、何かを言ってくる気配もない。ただ、この場にいる時間が無駄だ、という態度が、雰囲気が、誰から見ても明らかなだけだった。


「――――ご令嬢の力を、お借りしたい」

「いいでしょう。このまま監禁され続ければ、私の時間を無駄にするだけですからね。ただ、あなたにその力がおありなの?」


「騎士団は、私の指揮下だ」

「国王陛下の邪魔が入らない、と?」


「それは私が押さえておくことで、ご令嬢が考慮することではない」

「いいでしょう。私の条件は――」


1.  私が動くのであれば、一切の文句は言わないこと

2.  私達に口出しをしないこと。結果がどうなろうと、私達には一切の責任はないこと

3.  今回手を貸すのは、夜会での賊がらみのみ

4.  その他の問題など、私には全く関係ありませんので

5.  手を貸す間の費用は全額返済すること

6.  知っている情報は全て渡すこと

7.  恥を隠したいのなら、その場で仕事は終了とみなすので

8.  同様に、問題解決は、私がそれを判断した時点で終了とすること


 スラスラ、スラスラと、セシルが自分の条件を羅列していく。


「どうなさるんです?」


 セシル達に、一切、口出しするなとは、ある意味、予想できた注文だ。


 だが、問題解決の基準がセシルの判断で決められるのであれば、いつでも、セシルは手を貸すことを打ち切ることができる。たとえ、それが中途半端であっても。


 それを口にしたならば、セシルの仕事を侮辱するしか能のない男――など、今度こそ、セシルに完全に見切られるのは目に見えていた。


 その程度の挑発や侮辱で、これ以上、アルデーラだって、時間を潰すような愚鈍ではないのだ。


「いいでしょう」

「では、契約書を」


「いいでしょう。ご令嬢の護衛は、つけさせてもらう。たとえ、それで監視されていると思われても、王国にいる間、ご令嬢の身が危険に(さら)されている事実には、変わりはない。その状態をみすみす放置することは、我々の矜持(きょうじ)が許さないもので」


「何人です?」


 アルデーラの視線が、無言で、セシルの後ろに向けられた。


「せめて10人」

「冗談でしょう」


 セシルは後ろを振り返りもせずに、スッパリ、言い捨てていた。


 だが、無表情のまま、ギルバートも態度は変わらず、

「では、全員私服で。ご令嬢の傍に侍るのは、二人。残りは、散らせておきます。指示がない限り、一切、接触はさせませんので」


「いいでしょう。期間は、一応、二週間。それで決着がつかないのなら、それ以上の介入は、無意味ですから」

「では、契約書を用意させよう。いつから?」

「今から」



読んでいただきありがとうございました。

一番下に、『小説家になろう勝手にランキング』のランキングタグをいれてみました。クリックしていただけたら、嬉しいです。


Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Funtoki-ATOps-Title-Illustration
ランキングタグ、クリックしていただけたら嬉しいです (♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
小説家になろう 勝手にランキング

その他にも、まだまだ楽しめる小説もりだくさん。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ