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В.б 夜会へ - 03

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 タッ――と、フィロが腰を落として、すぐ後ろのテーブル側に駆けて行った。そのまま、テーブルの高さに身を隠すようにして、足早に会場を横切って、走り去っていく。


「どうやら、入り口が塞がれているようですが」


 イシュトールは会場内の混乱を無視し、サッと周囲を厳しく確認した。


「フィロなら、大丈夫でしょう」


 大広間の会場は、一階である。廊下から会場に繋がる大きな扉は、占拠されたかもしれないが、それでも、会場の至る所に窓があり、ガラスの扉があり、出入り口全部を塞いでいないのなら、()()フィロがてこずるはずもない。


「キナ臭い噂が挙がっている、とは聞いていたけれど、なんなのかしら? わざわざ夜会を狙ってくるなんて――」


 バカバカしい、だったのか、呆れてものが言えない、だったのか。


「確かにそうですね」


 そして、セシルと共に残った二人の護衛も、あっさりと同意していた。


 次の手をどうしようかと、警戒しながら会場内を見ていたセシル達の前で、

「――――ぃやぁっ……! きゃあぁっ……!!」


 中央に走り出て来た賊の一人が、近くにいた貴族の夫人を、人質に取ったようだった。


 一瞬にして、ひっ……! と、言葉にならない恐怖と悲鳴がその場に上がる。


 全員の視線が、中央の賊と人質の女性に釘付けになっていた。


「……っ……ぃ……ゃ……」


 人質に捕られた女性は全身蒼白で、遠巻きからでも、ブルブルと震えている様子が明らかなほど怯えていた。

 その様が、今にも失神しそうな気配を、簡単に物語っていた。


 はっ、ぁ……はっ……と、激しく肩が上下していて、あれは、完全にショックで過呼吸状態である。

 素早く過呼吸を止めないと、あのまま呼吸困難で失神するより先に、死んでしまいそうな勢いだ。


 人質が取られ、賊を相手にしている騎士達の動きが、鈍ってしまっていた。


 その隙を突いて、賊が騎士達に猛攻撃をしかけていく。


「イシュトール、ユーリカ、ちょっと隠してください」


 その指示で、少しだけ後ろを振り返った二人が、すぐに頷く。


「わかりました」


 きゃあっ…………! と、未だ会場内では、パニックと大喧噪が響き渡り、混乱を極めていた。


 全く態度も変わらないセシルは、二人の背中越しから、ジッと、隙なく、会場の端から端に鋭い視線を投げる。


 セシルがいる場所からは全く反対側のテーブルの奥にいる、恰幅のよい男の姿が目に留まる。

 呑気にワインのグラスを傾けながら、その口元が曲げられている。


「動くなっ――!! 少しでも動いたらっ、この女を殺すぞっ――!!」

「……ひいっ……っ……!!」


 女性を人質に取った覆面の賊が握っている剣が、女性の喉に押し当てられている。


「イシュトール、あのデブ()を捕まえるわよ」

「デブ()?」


 それで、サッと会場内を見渡してみて――イシュトールも、ああ、とすぐに頷いていた。


「まずは、中央のあの男。即座に捕縛しなさい」

「わかりました」


「ユーリカは私と共に」

「はい」


「向かってくる者には、手加減無用です。捕縛した者は、全員、即座に気絶させなさい」

「わかりました」


「では、行きましょうか」


 セシルは二人を連れて、スタスタと動き出す。


 その近くにいた貴族達数人を通り過ぎる際、セシルが一人の貴婦人の肩を掴んでいた。


 何気にセシルを振り返った貴婦人がセシルを見て、ひぃぃっ……と、悲鳴を上げる。


 化け物でも見たのでもないのに、なんて反応でしょうねえ。全く失礼な!


「命が惜しければ、テーブルの下に隠れていなさい」

「――――……え……?」


「賊が侵入しているのに、なにをポカンと眺めているの。人質に取られたくなかったら、さっさとテーブルの下に隠れて、避難していなさい」

「――……え……?」


 おいっ!


 こんな非常時で、あなたの頭は、お花でも咲いているんですか?


 セシルは、全く現状を把握しきれていない貴婦人の肩を、無理矢理、押して、すぐ前のテーブルのテーブル掛けをめくっていた。


「……な、なにを……」

「いい、というまで黙って大人しく、テーブルの下で隠れていなさい」


「……君、なにを……」

「あなたもよ。早くしなさい。賊に殺されたくなかったら」


「なにを……」

「早くしなさい。二度は繰り返さないわよ」


 あまりに淡々と、静かな口調で言いつけられ、半分以上、状況を理解していないような貴族の男性だったが、テーブルの下に隠れている貴婦人を見下ろし、男の方も恐々とテーブルの下に入っていく。


「あなた達もよ」


 まだ数人残っている貴族達に言いつけると、どうしようか……と、迷っている貴族達が、互いに顔を見あう。


「早くしなさい、時間がないのだから。賊が来るわよ」

「……ひっ……!」


 その一言が効いたのか、残りの数人も、大慌てで、テーブルの下に潜り込んで行った。


 まずは、この貴族達は多少の安全を確保したので、セシルが、すぐに向こうに向かって動き出す。


 早足で、躊躇(ためら)いもなく、中央にいる賊の男の近くまで進んで行った。


「――――なんだお前っ!?」


 セシルが近づいてきた気配で、賊の男がセシルを振り返り、一気に顔をしかめる。


「来るなっ! 近づいてみろ。この女の命がどうなってもいいのかっ!」


 セシルがまだ近づいてくる気配に、貴婦人を羽交い絞めにしている腕の力を強め、男が剣を貴婦人の顔に近づける。


 人質にされた女性は、もう真っ青に顔色が変わり、さっきからの過呼吸で、その顔はあられもないほどの恐怖を映し、ほぼ、呆けた状態で気絶しかかっていた。


「来るなっ! それ以上、近寄ってみろ。この女がどうなっても知らないぜ」

「もう、死にかかってるでしょう? 呼吸をしていないから、血の気も失せ、半分、死にかかっているわよ」


「うるさいっ! 邪魔するんじゃねーっ」


「こんな少人数で王宮まで侵入しといて、たとえ、どんな状況になろうとも、逃走路を確保していないなんて、そんな馬鹿な話はないでしょう? 人質を取って、誰も手が出せないと高を括っているのでしょうけれど、その人質が、半分、死にかかっているとなると、逃走なんて不可能だわ。動けもしない人間を担いで逃げられるとでも、思っているの?」


「うるせーぞっ!」


「足を引っ張られるだけで、役立たずを連れ回すなんて、到底、不可能でしょう? 騎士達に取り囲まれたくなかったら、動ける人間が人質に必要になるはずよ」

「うるせーっ!」


 だが、男の頭にも、セシルが淡々と説明した状況が簡単に浮かんでいたのか、想像できたのか、いきなり、ドンッ――と、抱えていた女を突き飛ばしていた。


 ドタッと、貴婦人が床に転がった。


 セシルが近づいて少し膝を折り、その呼吸を確認する。


「こっちに来いっ!」


 グイッ――――


 少し屈んだセシルの腕が乱暴に取られ、賊の男が、セシルの顔の前に剣を押し付けて来た。


「ふんっ。自分から、人質になってくるようなバカな女だな」


 それで、賊の男が、剣をセシルの顔に押し付けてきながら、その左腕が、グイッと、セシルの首を羽交い絞めにした。


「さあっ、この女の命が惜しければ、全員、動くなっ!」


 セシルを人質に抱え、男が大声で叫ぶ。


 賊と見合ったまま攻撃ができなかった騎士達も、王族の護衛に回った騎士団の団長や、副団長達も、全員が慎重に動きを止めた。


 それで、粋がった残りの賊の侵入者たちが、乱暴に、そこらのテーブルの料理を、剣でぶった切る。


 ガシャンっ――――!

 ガチャッ、ガシャンっ――!


「さあっ、そこにいる女達をもらおうか。ついでに、王女達もだっ」


 へっ、へっ、と騎士達と睨み合っていた残りの侵入者達が、壇上近くに揃っている高位貴族の貴婦人達を、舐め回すような嫌らしい目つきで、わざとに舌で唇を舐める。


 夫や騎士達に庇われている貴婦人や令嬢達が、青ざめていた。



読んでいただきありがとうございました。

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