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* Б.д もう二度と会わない *

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「じゃあ、これ全部、今すぐ買い集めてください」


 一枚の紙切れに記載されたリストを渡されて、王太子殿下だって無言だ。


 隣国の伯爵家の付き人 (なのだろうが) とは言え、身分で言ったら、王太子殿下に気軽に口を聞くことだって許されない立場だ。


 それなのに、()()王太子殿下を足でコキ使うような、この不遜さ。


「時間がないんで、早くしてください」


 そして、偉そうに、命令までしてくるなんて!


 フィロは感情のない冷たい瞳を上げ、

「なんですか? 不敬罪、侮辱罪で斬り落とすんですか?」


 ふんと、絶対に、今、鼻で笑っていたはずだ。口に、声に出さなくとも、そのあまりに侮蔑した態度が明白だった。


 アトレシア大王国の王国軍の信用がガタ落ちの今、権力・立場を振りかざして、この子供を罰したとしても――その行為は、まさに、あの能無し中尉がした非礼と非道な行為と同等だ。


 そんな愚行で、自らの立場を汚すような王太子殿下ではない。


 無言で、フィロから紙を取り上げ、それにサッと目を通して、騎士団長のハーキンに手渡す。


「即刻、準備をしろ」


 そのきつい眼差しだけで、「口を出すな」、「口答えするな」 と、暗黙の迫力と圧力でハーキンに命令してくる王太子殿下の前で、ハーキンは(一応) 文句を言わず、ただ紙切れを受け取った。


「すぐに準備させましょう」


 王太子殿下を一人きりで残すのは、かなり不安が残ってしまうのだが、もう……、この現状では、そんなことも言っていられない。


 それで、(本当に嫌々に、仕方なく) 諦めたハーキンは、テントの外に出ていき、部下に指示を出しに行く。


 今使用しているテントは、王太子殿下用に仮に設置されたテントではあったが、大きな臥牀(しんだい)が一つに、大きな机が一つだけだ。王太子殿下と数人が座れる椅子は揃っているが、それだけだ。


 あんな派手で役にもたたない絢爛(けんらん)豪華(ごうか)な司令塔などに身を置く気など毛頭なく、戦場(いくさば)での場所だってきちんと考慮して、速攻で、仮のテントを設置させたのだ。


 負傷兵からの(しら)せを聞き、すぐに東南の砦を去った王太子殿下の荷物は、まだ向こうにある。簡単な着替えや荷物などは一緒に運んできたが、それだけである。


 それなのに、今では、机の周りには、(勝手に持ち込んだ) 椅子に座っている子供達。


 その周りに、大人達はただ立っているだけだ。


 新たにやってきた三人の男達も覆面をしていて、フィロとセシル以外の全員の顔は、見ることが(かな)わない。


 だが、その仕草や態度から見ても――二人は騎士で、残りの大人は、平民の護衛、と言ったところだろうかと、王太子殿下も判断をつけていた。


 それなのに、残りの五人の子供達の……判断がつかない。定義がつけられない。



「一体、この子供達はなんなんだ……!?」



と、さっきから、自問自答しそうになっているほどだ。


 (勝手に持ち込んだ) 椅子の他にも、子供達は何個かの物資を運んできて、丸い筒から出した大きな紙は――地図で、それから、違う書類も、机の上に並べられていた。ペンもある。


 なぜかは知らないが――この緊迫した状態で、作戦本部を(勝手に) 作ってしまった子供達に、全指揮権を奪われてしまった気分になるのは、王太子殿下の気のせいではないはずだ。


「マスターの憶測では、たぶん、ここの駐屯地と、もう反対の駐屯地の間に、穴があるかもしれない、って考えてるんだ」

「穴? なんの穴だよ」


「さあ。でも、話によると、ブレッカの外側は、全部、領壁(りょうへき)が続いてるらしいから、そうなると、領壁のどこかに抜け穴、もしくは、隠し穴――でもあるのかな?」

「じゃあ、それを探しに行けばいいんじゃないのか?」


「それはダメだよ。ここの能無し集団だって、すぐにやられて、全滅だっただろ?」

「ああ、そうか」


「じゃあ、(ひそ)んで狙う機会を待ってるんじゃないの?」

「そう考えるのが、安全だろうね」


 地図を見下ろしながら、フィロも、ふむ、と考え込む。


 セシルは、敵がどこかに潜んでいて、両方の王国軍の連絡が途絶えている、と話していた。今までの敗戦振りを見ていても、セシルの憶測は、かなり信憑性が高いと、フィロも考えている。


 そうなると、この陣地に敵をおびき寄せるだけでは足りないはずだ。絶対に、どこかから、潜んで隠れている伏兵に、(はさ)み撃ちされる可能性がでてきてしまう。


 やはり、林側も徘徊して、どこに穴があるか確認しないことには、話にはならない。


 それで、フィロの視線が、リアーガに向けられる。


「いいぜ」

「いいの?」

「いいぜ」


「でも、危険だよ」

「問題ない」


「じゃあ、お願いします」

「ああ」

「おい、待てよ」


 止めたのは、ジャールだった。


 どうやら、フィロとリアーガのあまりに短い会話だけでも、二人が考えていることを、簡単に推測したらしい。


「一人では無理だな」

「じゃあ、特別報酬?」


 にやり、とリアーガ笑い、ジャールは、ものすごい嫌そうな顔をする。


「倍額だ」

「やっぱり、優しいよなあ、あんた。こう、世話焼きだしな」

「うるさいっ」


 その二人のやり取りを隙なく見ていた王太子殿下が、そこで口を挟んだ。


「我が騎士団、100人だ」


 リアーガとジャールが、王太子殿下を振り返った。


「能無し集団と自殺行為なんて、御免だね」

「ここの()()()()()と一緒にしないでもらおうか」


 侮辱だろうと、王太子殿下だって、口を挟む暇もなく、冷たく言い返していた。


「我が騎士団は、護衛の為だけにいるのではない。戦でも戦えるように訓練された騎士ばかりだ」

「まあ、いいだろう」

「おい――」


 ジャールが勝手に返事をして、リアーガが嫌そうな顔を隠しもしない。


「ここは、意地を張ってる場合じゃないだろうが。使えるモンは何でも使うべきだ。それに、いざとなれば、騎士団()()を犠牲にして、逃げて来られるからな」


 ちっ、とリアーガは舌を鳴らすだけだ。


「――確認する方向には、たぶん、この間敗戦した兵士達がいるはずだ――」

「死体の移動なんかしないぜ」


 ぐっ……と、王太子殿下が、ほんの微かにだけ辛そうに顔を歪めた。


 そこまできっぱりと断言されて――手遅れになってしまった事実を、突きつけられてしまった感じだ。


「――場所の確認だけだ……」


 今は……それだけが、王太子殿下にできる精一杯のことだ。

 場所さえ確認しておけば――状況が落ち着いた時に、兵士達の回収だって可能なのだから……。


「あなた達は、何人で来たんですか?」


 どこまでも淡々と、冷たく、半分だけ子供の声音だ。


 王太子殿下は視線だけでフィロを見返し、

「500人程」


「だったら、もう100人を加え、偵察隊にすぐに追いつける場所に配置しておいてください。念の為に。それから、この駐屯地に残っている王国軍の全兵士は、ギリトルの国境側に、全員、立たせておいてください。あんな能無し集団でも、ある程度の盾にはなるでしょうから」


 まだこんな子供なのに――なんて、冷静で、冷酷な決断を押し付けてくるのか。感情の機微もなく、冷たい瞳をして、冷たい態度で、とても、子供だなどと見えない()()だった。



読んでいただきありがとうございました。

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