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Б.г 目には目を - 04

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 望遠鏡を顔から外し、ふう、と一度しっかりと息を吐き出した。


「いや、この場で待機だ。マスターは、誰かのテントに運ばれていった。これから治療を受けるのかもしれない。フィロも、待機していろ、と指示を出してきた。きっと、フィロにはフィロなりの考えがあるはずだ」

「そう、かもしれないけど……」


 フィロは、いつも、悪巧みを率先して計画する影の参謀役だ。


 だから、フィロが、「待機していろ」 と言うのなら、フィロには、なにか、ジャン達が及ばない考えがあるのかもしれなかったが――それでも、セシルの身が心配で、ジッとなどしていられる心境ではなかった。


「ただ、いつでも動ける準備をしておくように。交代でここの見張りをしよう」

「わかりました……」

「ジャール達は、状況が変わったから、このまま解散してくれ」


「いや、この状況だから、確認が取れて、落ち着くまでは、ここに残ってやるよ。次の仕事が、特別、押してるんでもない。それに、あんたらには、大人の数があまりに足りなさ過ぎるからな」


「そうなのだが……」


 戦場(いくさば)にやって来ているのに、メンバーのその半数以上が、まだ成人していない子供達など、前代未聞だ。


 ここ数年、ジャールも、セシルとは仕事の関係で良く顔を合わせるようになったが、まさか、戦場まで子供を連れてくるとは、ジャールだって考えもしなかったのだ。


 おまけに、連れて来た子供達が――全員、武装して、本気で戦で戦う準備ができている子供だなんて、誰が一体想像しただろうか。


 あのセシルも、貴族の令嬢なのに、貴族の令嬢らしくない女だと、ジャールも何度も思ったことだが、こんな子供達を護衛として育て上げていたなんて、一体、何を考えているのか。


 なににしろ、傷を負い毒を受けたらしいセシルは、当分、動けはしないだろう。


 王国騎士団がやって来たことで、この戦況が変わるのか、変わらないのか、それはこれからの騎士団の動き次第だ。


 その場で、またも――無理矢理、戦に強制参戦でもさせられたのなら、今、セシルの側に残っているメンバーだけでは、セシルを護り切ることは難しくなってくる。


 セシルからは、もうこれ以上動く必要もないし、居残る必要もないので、駐屯地を離れたら解散して良い、とは指示されていたが、状況が状況だけに、今この場を離れるのは得策ではないだろう。


 ジャール達が離れてしまえば、この場では、ユーリカ一人だけが大人だ。ユーリカは実戦経験があるようだから、もし、この場でまた戦に巻き込まれても、ある程度は戦えるだろう。


 だが、子供達は違う。

 まさか、無情に、子供達だけを戦場に残すわけにもいかない。


「まあ、次の指示があるまでは、ここに残ってやるから心配すんな」

「それは、感謝する」



* * *



 ベッドに寝かされたセシルは、気絶していてもおかしくはない状況なのに、朦朧(もうろう)と混濁した意識を繋ぎ合わせるかのように、まだ、自分の意識を保っていた。


「……水……を……」

「しかし――――」


 はあ、はあ……と、肩で息をしているようなセシルは、必死で意識を繋ぎとめようとしてる。


 イシュトールは沈痛な面持ちを隠せないまま、仕方なく、セシルを半分抱き上げながら、セシルの上半身を起こさせた。


 大きなベッドの上には、何個もの枕が並んでいるだけに、それを手早くかき集めて、セシルの背中に押し込んでやる。それで、一応は、セシルも枕を背にもたれかかるように、沈んで行った。


 ほとんど上半身を枕に沈めていったような形で横になっているセシルの枕元に、すぐにフィロがやってきた。


「マスター、水を」


 フィロが皮の水袋をセシルの口元に寄せ、そして、勝手にセシルの唇を押し開けて、口まで開けさせる。

 少しセシルの口が開いた場所に、フィロは躊躇(ためら)いもなく水袋の水を流し込んできた。


 ゴク、ゴク……と、水がセシルの喉を流れ込んで行く。


 意志だけで意識を繋ぎとめているようなセシルは、毒の影響もあって、相当な負担が体に出ているはずだった。


 だが、敵の陣中ど真ん中。ここで気を失って、気絶するわけにはいかない緊急事態。

 それで、セシルは、きっと、意識を奮い立たせて、気絶しないように意識を保っているのだろう。


 セシルの口の端から水が零れ落ちていく。

 だが、皮の水袋に入っている水全部を、フィロはセシルに飲ませていた。


δ(デルタ)、水を」

「ああ」


 イシュトールも、自分が背負っている大きなリュックサックを下ろし、その中から水袋を取り出した。

 フィロがそれを受け取って、先程と同じ動作を繰り返す。


 二人のすぐ後ろでその様子を、ジッと、アルデーラが隙なく観察している。


「…………水が……チャポ、チャポに、なるわね……」

「仕方がありません」


 くいっと、いきなり、フィロがアルデーラを振り返った。


「今すぐ、10分以上、沸騰させた水を用意してください」

「飲み水なら他にもある」


「沸騰させて消毒したんですか?」

「――――いや」

「どこぞの得体の知れない水なんか、飲ませられるはずもないでしょう? 沸騰させた水を、今すぐ持ってきてください。必ず、10分以上」


 一国の王太子殿下に向かって――命令して来るなど、子供であろうと、不敬罪で首が飛ぶはずだ。


 だが、どこまでも冷たい瞳を睨みつけるようにアルデーラに向けているフィロは、そんなくだらないマナーや礼儀なんて、構っていない。


 アルデーラが少しハーキンを振り返り、

「水の準備をさせろ」

「わかりました」


 後ろに首を振って部下に指示するハーキンの前で、テントに一緒に入って来た指揮官の一人が頷いて、すぐにテントを飛び出していった。


「医師を呼んでくるように」

「わかりました――」

「その必要はないよ」


 フィロが二人を遮っていた。


「そんな必要なんかない」

「きちんとした解毒処理をしなければ、後々まで影響が出てくるかもしれぬ。今は、医師にきちんと確認させるべきだ」


 だが、フィロは、そんな提案など受け入れる気は毛頭ない。


「信用できないのなら、私が解毒剤でも何でも飲んでやろう」

「殿下っ!」


「今は解毒処理が最優先だ」

「しかし……」

「医師を連れてこい」


 アルデーラは一歩も譲る気がなく、どこまでも冷酷なその硬い眼差しが、ハーキンさえも口を挟むことを許さなかった。


「――――わかりました……」


 苦々しく、ハーキンはアルデーラに賛成している様子ではなかったが、今のアルデーラに逆らえることもなく、ハーキンが足早にテントを出ていった。

 ハーキンは、部下の一人に医師を呼んでくるよう指示すればいいだけだ。数十秒、すぐにまたテントに戻れる――


 アルデーラの元を去ることを良しとしないハーキンは、自分で(言い聞かせた) 予想通り、すぐにテントに戻ってきて、アルデーラの後ろで控えている。


 呼ばれてやってきた医師の前で、アルデーラが2~3説明をしていたが、医師がベッドに寝ているセシルの方にやって来た。


「診察致します。怪我をした場所を、見せてください」

「マスターを害するなら、即刻で、あなたを殺すことを覚えておいて下さい」

「――――!」


 あまりに淡々と、あまりに感情もなく、冷たい眼差しをした――子供が、簡単に、冷酷に、それを言い切っていた。



読んでいただきありがとうございました。

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