表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/539

Б.в 王太子殿下 - 03

ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります! どうぞよろしくお願いいたします。

「ふうん。一応は、自分の国の兵士は、見捨てなかったようですね」


 特別、興味もなさそうに、セシルはあまりに淡々としている。


「そのようですね。わざわざ、待ってやるのですか?」

「まあ、ここまで待ってやったのですから、向こうがどう出てくるのか、その最終確認をしてやる程度の時間は、取ってもいいでしょう」


 今、この駐屯地に残っているのは、セシルを含め、護衛のイシュトール、リアーガ、そしてフィロだけだった。

 残りのメンバーは、昨夜のうちに、この駐屯地を発たせている。


 これ以上の介入も、滞在も、もう、セシル達には必要なかった。


 これ以上、この場に残っていたら、またいつ、アトレシア大王国の王国軍に、無理難題を押し付けられて利用されるか、判ったものではない。


「どのくらいいるのです?」

「ザっと見た限りでは、数百人近くの騎士団を引き連れて来たのではないでしょうか」

「そう」


 確か、ジャールが仕入れて来た情報によると、王太子殿下は、王国騎士団の一部隊をそのまま全員引き連れて来たのではないか――というほど、かなりの数の騎士達を、ブレッカに連れてきているはずだ。


 まだ反対側の国境も不安定な状況であるから、その全員を南側の国境に引き連れて来たとは思えないが、それでも、大層な数を連れて来たらしい。


 どうやら、セシルの告訴状を本気に取ったのか、確認だけにしては、大層な数である。


 向こうの方で、かなりの喧騒が上がっていた。

 王太子殿下が駐屯地に到着して、兵士達が外に出て出迎えているような喧騒が聞こえてくる。





 一歩、部屋に足を進めただけで、王太子殿下の眉間が、ピクリ、と揺れていた。


 その部屋は、国境を護る司令塔の指揮官に与えられた執務室でありながら、全くそぐわない華美な造り。

 壁側には置物がズラリと並び、だだっ広いその室内には、中央の机が一つだけ。他には、優雅な長椅子が談話用にあるだけだ。


 空間の無駄で、あまりに広々としただけの役に立たない部屋を見て、王太子殿下の機嫌が一気に悪くなっていた。


「ここでは話にならないな。会議室はないのか?」

「も、もちろん、ございます。こちらでございます。ご案内いたします。どうぞ、こちらに…………」


 へこへこと頭を下げて媚び(へつら)ってくる中尉は、大慌てで、部屋のドアを開けて出ていく。


 苛立ちも隠さない王太子殿下と、護衛の騎士達、それから騎士団の隊長格などが揃って、部屋を出ていく。


「こちらでございます。さあさあ。どうぞいらしてください」


 ある一室の扉が開けられ、その中をサッと見渡した王太子殿下が、仕方なく中に入ることにしたようだった。


 その部屋も大きな室内で、中央に椅子がたくさん並べられた大きな机が一つ。

 壁側には()()()紅茶セットが並び、()()()本棚には本が、()()()長椅子と()()()テーブルセットが。


 そして、作戦用の書類もなければ、この土地の地図一つない。作戦本部でもない会議室。


 スタスタ、スタスタと、無言で歩いていく王太子殿下は、一番奥の椅子を勝手に引いて、ドカッと、そこに腰を下ろした。


 長い机を挟んで、一番端に、中尉が身の置き場がなくソワソワと落ち着かない。


「――今日は、どういったご用件でございましょうか? ――ああ、まさか、援軍を出してくださるのですか? 我々は、部族連合の襲撃を受け、ひどい目に遭いました。ですが、南東からの援軍は全く来る兆しもなく、途方に暮れていたところなのです。王太子殿下がいらしてくださり、本当に助かりました」


「南東では、南からの援軍が全く来なく、途方に暮れていた、との報告が上がっているが?」


「そんなっ! 我々だって、襲撃されているのですよ。援軍など送れるはずもない。それに、南東の砦なら、我々よりも、もっと兵士の数が多いのですから、援軍を送るのなら、南東がすべきです」


「なるほど。では、ヘルバート伯爵は、今どこに?」

「え? 誰ですか、それは」


「ノーウッド王国ヘルバート伯爵家の者がいるはずだが?」

「そ、それは…………そんな者いませんが」


「いない? では、どこに行ったのか? 消えたのか?」

「消えてなど――。そもそも、ノーウッド王国? なぜ隣国の者がわざわざブレッカになど?」


「それは、私も聞きたいものだな。今すぐ、召集してもらおうか」

「そんな者――」


 トンっ。


 指一つだけで、王太子殿下が机を叩いていた。

 だが、それだけの動作で中尉を黙らせて、その視線だけで威圧するかのように、中尉に一切の弁明を許さない。


 ひぃっ……と、すぐに中尉が震えあがっていた。


「ヘルバート伯爵がいない、と?」

「い、いえ……おりますっ。今、すぐに、連れてきます」


「いや、その必要はない」

「え? なぜです? 今、そうおっしゃって――」


「そもそも、王国軍の言うことを聞いて、素直にやって来るなどとは、思わないが?」

「――――なん、の、ことでしょう?」


「自覚はないのか?」

「なんの、こと、でしょうか?」

「白を切るのなら、それでもいい。だが、白ではないと判ったのなら?」


 最後まで言われない暗黙の部分が、あまりに不穏だ。


 キョロキョロと、落ち着きなく、中尉の目玉だけが動いている。


「伯爵はどこにいるのだ?」

「そ、それは――端っこに陣を取っている、というような話ですが……」


 王太子殿下の視線が、傍にいる騎士に向けられた。


「二人。ヘルバート伯爵を出迎えにいってもらいたい。アトレシア大王国王太子殿下が、面会を求めている、と」

「わかりました」


「丁重に」


 一歩動き出しかけた騎士の動きが止まる。


「――わかりました」


 二人が丁寧に一礼をし、部屋を立ち去っていく。


「ハーキン」


 王太子殿下は中尉を完全無視して、胸元のポケットにいれていた手紙を取り出した。それを騎士団長に手渡す。


 両手でそれを受け取ったハーキンが、封を開け手紙を取り出した。


「用件も告げずにさっさと砦を発った為、お前にも、事情の説明をしていなかったな」


 もったいぶって、そんなことをわざと口にしたのかどうかは知らないが、さっきから、王太子殿下の内で(くすぶ)っているであろう怒気に、それを上回る殺気がきつく、鋭く、ハーキンだって渋面を隠せない。


 この場で――この王太子殿下の感情を読み取ってない者など、そこで落ち着きがなく、ソワソワしている中尉くらいだろう。


 控えている騎士達だって、こんな――背筋が凍り付きそうなほど震撼(しんかん)とした王太子殿下の殺気を感じ取って、なにか……今の状況が、王太子殿下の逆鱗(げきりん)に触れたことだけは、理解できていた。


 ハーキンは、手渡された手紙に目を通していく――通していきながら、自分の目を疑って、一度、頭を振った。

 無意識の動作だったようで、頭を振って、意識を集中させたかったのか、雑念を払いたかったのか。


 だが、もう一度読み返しても――あまりに信じられない内容で、見る見る間に、ハーキンの顔つきも、ものすごい怒気が浮かび上がりだしていた。


「――――これは本当なのですか?」

「それを、今から確認するところだ」


 そのまま、ハーキンは黙り込んでしまった。


 その様子をチロチロ伺って、中尉が落ち着きなく手を前で組んだり、視線を左右に動かしたり、突き刺さるような沈黙が、こんなに不快なものだとは、中尉も初めて知ったものだ。






読んでいただきありがとうございました。

一番下に、『小説家になろう勝手にランキング』のランキングタグをいれてみました。クリックしていただけたら、嬉しいです。


Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Funtoki-ATOps-Title-Illustration
ランキングタグ、クリックしていただけたら嬉しいです (♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
小説家になろう 勝手にランキング

その他にも、まだまだ楽しめる小説もりだくさん。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ