* すげーな *
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シリーズ: Part1
場所: ノーウッド王国コトレア領
時: 豊穣祭の後夜祭
「おおぉ、賑わってんなあ。小さな町なのに」
コトレア領の宿場町、その大通りを埋め尽くすかのようにたくさん立ち並んだ露店や屋台。
先程、豊穣祭の開会式とやらを終えたばかりなのに、大通りには、すでにたくさんの観光客や、露店回りに来ている領民達がゾロゾロと歩いていた。
今年は、この領地の領主であるセシルの仕事をした関係からか、傭兵であるジャールとリエフも、コトレア領の豊穣祭に招待されていた。
二人の宿泊先はすでに予約済みで、領主であるセシルが招待しているゲストなので、その支払いも全てセシル持ちだ。
豊穣祭の間、帯刀は許されていないので、剣を持たず大通りを歩く二人は、見てくれの悪くなさそうな普段着に、マントを軽く羽織っているような様相だ。
「時間があるから、全部、露店を回って見て行けよ」
二人の少し前を歩くリアーガは、この領地の出身者ということもあり、帯刀は許されているらしい。だから、リアーガのマントの下では、普段から使用している剣が腰にぶら下がっている。
露店を出している領民から、リアーガに声がかかり、店に立ち寄っては軽く挨拶を済ませるリアーガだ。
「今年も盛況だなあ。繁盛、繁盛」
のんびりと通りを歩いていくジャールは、なぜかは知らないがご満悦の様子だ。
「今年も? 以前にも来たことがあるのか?」
「おお、あるぞ。ここ数年、毎年、豊穣祭には顔を出してるからな。今回のように正式に招待されたのは、今年が初めてだがな」
ジャールとリエフは、セシルの好意で、豊穣祭に呼ばれていた。
そして、リアーガの付き添いで、後夜祭にも参加することを許可されている。宿場町ではなく、領地内で行われる後夜祭だけに、ジャールは後夜祭に参加したことは一度もない。
ただ、夜遅く、食事処で酒盛りをしているジャールの前で、店の従業員が出たり入ったりと忙しいので、なんだろうと聞いてみたら、
「領主様が、領民達を労いに来てくださっているのです。お店の従業員達は、領地内である後夜祭に参加できませんから」
それで、領主であるセシルが宿場町の方にやって来ているから、順番で、皆、外に出て行っていたらしい。
その時に、わざわざ、ジャールはセシルに会いに行っていないから、領民達がセシルから『祝福』 を受け取りにいっているなど、露にも思わないものだ。
「それに、俺は、この領地初の“観光客” なんだぜ!」
その程度で、何を自慢しているのかは全く理解できないリエフは、あまりに呆れた顔をジャールに向ける。
そんな冷たい態度も、冷たい眼差しも全く気にした様子はなく、ジャールは、えへんと、大きく胸を張ってみせる。
「お前なあ。俺はな、この領地初の“観光客” なんだぞ。だから、宿屋に行っても、ちゃーんと、俺の名前を覚えていてくれてるくらいだしな」
少し前、セシルが領地の観光業を計画し、領地全体の観光事業に取り組み始めた時、今まで一件しかなかった宿屋を、セシルはその時に数件ほどに増やしている。
そして、
「領地に移住しませんか?」
とセシルが大張り切りで勧誘したおかげで、その時代にやって来た移住民がかなりいる。
ジャールはその時に領地に招待されたのだ。外からやって来る“観光客” で、宿屋など、お客様の対応やサービスができているかなど、ジャールに評価してもらったのだ。
そのおかげで、ジャールが豊穣祭にやって来ると、毎年、同じ宿屋に泊まることができた。
普段は、豊穣祭の宿泊の予約は、少しの予約金が必要となるが、ジャールは領地の“初観光客” ということで、予約金なしで、豊穣祭の時に宿屋を予約することができるのだ。
それで、今日この頃、豊穣祭の間、宿屋は満員で宿泊することも難しくなってきているのだったが、ジャールは一人部屋をあてがってもらい、余裕でのんびりと満喫することができる。
毎年、同じ宿屋に泊まり、宿屋に顔を出すジャールには、宿屋の主人からサービスのお酒が一杯だけ提供されてもいる。
立派な特典ではないか。
「初の“観光客” だから、いつでもどこでもサービスはいいしな」
「自慢することかよ」
ジャールの心境を全く理解できないリエフだ。
傭兵などしていると、宿屋に泊まることが当然だ。だからと言って、宿屋に執着するほどのことでもない。
その態度のリエフを見て、ちっ、ちっ、ちっと、指を振ってみせる。
読んでいただきありがとうございました。
もう、アッと言う間に12月。1年はアッと言う間でした。今年の締めはサイドストーリーで終わりたいと思います。Part4も、すぐ間近。
Spero che questo episodio vi piaccia.





