これは何ですか? - 05
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説明自体はとても丁寧で、詳細な部分まで説明してくれたものだが、なまじ、根本的な仕組みの理解が乏しい二人にとっては、全く未知の世界の話を聞いている気分で、すでに、何に同意して良いのか、何が判らないのか――その質問からして、判らなくなってきてしまっている。
だが、この時点で、二人は、セシルが更なる改良を目的に、一家でも簡単に購入できそうなポータブルの冷蔵庫の開発に取り掛かる予定だったとは、想像にも及ばないだろう。
初代冷蔵庫のように鉄製にするか、近年、発展途上国のインドでも開発されたセラミック型の冷蔵庫にするか、まだ実験段階のお話だ。
そして、その結果は、また次のお話になる。
「……これは何ですか?」
「下水処理場です」
「はあ……」
「……これは何ですか……?」
「下水処理場に向けて水を流す為に設置された下水道です」
「はあ……」
“下水”などという概念がないだけに、使用された水を処理して消毒するなどと説明された二人は、完全に未知なる世界に飛ばされたような気分で、親切に説明をしてくれる案内役の騎士の前でも、質問さえも上がってはこない。
この世界に飛ばされて(生まれ変わったのか)、セシルは下水処理をしない水を再使用しているこの世界の習慣が、ものすごく嫌だったのだ。
現代っ子。なんでも揃っている世界に生まれて、その状況に慣れて甘やかされている、とは言えるかもしれない。
だが、それがなんだ。
発展途上国では、汚い水だろうと、体を洗ったり、食器を洗ったりと、水を再使用している場所だってたくさんある。
だが、セシルには、生理的にその現状を受け入れることがどうしてもできなかったのだ。
もしかしなくても……悲惨な場所だと、上流でトイレ代わりに使用された水が、そのまま下流で飲み水として飲まれている――そんな超悲惨な場面を想像してしまって、しばらく、ヘルバート伯爵家の屋敷内でも、簡単に水を口にできなかったほどのトラウマを受けていたセシルである。
今の所、「下水」 と言っても、完全に水を消毒できたわけではない。
下水道の行きつく場所では細かい網を張って、まずはゴミ処理から始まる。次に、小岩・砂・炭の三層になる浄水装置に水を潜らせ、ある程度、水が浄化されたら、最後に煮沸消毒で水をしばらく沸騰させて、残っているかもしれない細菌やバクテリアと殺す、という(あまりに) 原始的な方法を取っている。
キャンプやアウトドアでなどは、よく、“炭・砂・小岩”の三層で水をきれいにするらしいが、逆の小岩から水を通す方法の方が、かなり水の浄化が強いという〇〇チューブの動画を思い出して、セシルもそれを真似て装置を作ってみたのだ。
下水の水と、消毒を終えてきれいになった水を見せてもらった二人は、
「す、ごい、ですね……」
二人揃って、それを口にするのがやっとだった。
「これは何ですか?」
「領地内の図書館です」
「――図書館……?!」
「はい、そうです。領民なら、誰でも簡単に本を借りることができます」
「本を、借りる……?!」
信じられない話だ……!!
「図書館」 など、本当に限られた人員や、貴族達だけが入館を許される場所だ。だから、アトレシア大王国では、王国図書館はあるが、公共の図書館などない。
趣味で本を集める貴族達は、自分の屋敷に図書室のような場所を作っているから、「図書館」 を利用する必要もない。
「えっと……、図書館、というくらいですから、そのですね――本や書籍が置かれていると思いますが。それらは、どこから……?」
ギルバートは、かなり意味不明な質問をしている自覚はある。もっと、的確で、明確な質問をすべきだったのだろうが、すでに疲労し切っている脳の活動停止により、質問している内容だって、意味を成していない。
対する案内役の騎士はその変な質問を全く気にしている様子はなく、親切に答えてくれる。
「ほとんどの書籍は、ヘルバート伯爵が寄付してくださいました」
「ああ、そうですか……」
まあ、セシルはヘルバート伯爵家のご令嬢であるから、両親であるヘルバート伯爵や夫人から、そういった書籍の寄付がされても不思議はない。
「たくさん、あるのですか?」
「領主様は、そのように思われていらっしゃらないのですが……。私は、このような図書館は初めてですので、領民達も、たくさんの本に出合うことができまして、とても嬉しく思っております」
「借りる、って……一体……なに、を?」
いや、何を借りるかは本人の自由だ。むしろ、どうやって本を借りるのか、とギルバートは聞きたかったはずなのだ。
読んでいただきありがとうございました。
Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)
N jigi b’a kan ko o yɔrɔ bɛna diya aw ye.