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* ご令嬢らしく? *

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シリーズ: Part1

場所: 隣国、アトレシア大王国、フリウス公爵家の敷地内にある廃れた協会内で

時: フリウス公爵を叩き潰した後



「公爵を捕縛した後に殴っても良い、とは言われましたけれどねえ」


 それで、失神してノビている公爵を見下ろしながら、セシルも、特別、殴り飛ばす意欲が上がってこない。


「殴っていいんですか?」

「ええ。承諾はもらいましたから」

「では、どうぞ」


 それで、セシルの為に、子供達が道を開けるように、一歩ずれていた。


「やっぱり、貴族の令嬢らしく、抑えて殴り飛ばすべきなのかしら?」

「貴族の令嬢、ですか? でも、マスターは、貴族の令嬢ですが」

「ええ、そうですわね」


 ご令嬢らしくもなにも、剣をぶら下げ、剣を振り回している時点で、全くご令嬢らしくないのだから、今更、取り(つくろ)っても遅いというものでは?


 その上、貴族の令嬢は、男を殴り飛ばすことなんてしませんよ。


「こんな、気絶している男を殴っても、全然、意味がないですわ」


 セシルは(ほんのちょっとだけ) 不服そうだ。


「でもまあ、一応、()さ晴らしにもならない()さは、払っておきますか」


 仕方なさそうに、セシルは腰のベルトに止めている剣を抜き取った。

 (さや)のついたまま、床で失神しているフリイス公爵に向かって、セシルが剣を振り落とす。


「えいっ」


 ポカっ――

 (さや)のままの剣が、フリイス公爵の頭に当たる。


「今のは、たぶん、お嬢様っぽかったです」

「そうですか?」

「たぶん」


 それで、子供達が、そうだよな、などと頷き合っている。


 その光景を後ろから眺めているギルバートは、手で顔を半分覆って、何とも言えない……と言う様相で、(うつむ)いている。


「いやあ、こんな場所で、喜劇を見られるなど、思いもよりませんでしたよ」


 それで、顔を上げないギルバートの隣で、思いっきり大笑いしているクリストフだ。


「いやあ、肝っ玉の()わったご令嬢ではありましたが、こういう場面で、一応、貴族のご令嬢としての立場は、気になさるんですねえ」


 それで、へえ、と(いた)く感心しているクリストフに、ギルバートも完全に無言。


 セシルは、普通の貴族の令嬢としての概念も、常識も、全く当てはまらないご令嬢ではあるから、ポカっと殴ったことで、“お嬢様らしい” という発想がでてきても、驚くべきではないのだろう……。


 そして、隣のクリストフは、未だに大笑いしたままだった。


「なんだか、全然、()さ晴らしにもなりませんでしたわ」


 やっぱり、大して意味のない行動だったので、セシルは不服そうだ。


「そうですか? じゃあ、叩き起こして、意識のある場で、また叩き潰しますか?」


 そして、子供達は――またも、末恐ろしいことを簡単に口にする。


「いえ、結構です。(さわ)るだけで、虫唾(むしず)が走りそうですから」

「そうですか。この男、はっきり言って、害虫以下の下衆(げす)でしたからね」


「ええ、そうです。なぜか今回は、下衆(げす)ばっかりに出会ってしまいました。それって、私の運が悪い、ってことなのかしら?」

「いえ、それはないと思います。この国では下衆(げす)が多いから、それって、日常茶飯事なんじゃないですか?」

「そうかもしれませんわね」


 いえいえいえいえ。

 そんなことはありません!


 訂正しておきますが、たまたま――今回は、陰謀事件に絡んだ犯罪者が、下衆(げす)だったというだけで、アトレシア大王国事態、下衆(げす)が多いのではありません。


「まったく、令嬢らしく振舞うなど、(しょう)に合っていないのですけれど」

「ですが、マスターは貴族の令嬢ですけど」

「そうですわね」


 一体……セシルのどの行動を取ったら、“ご令嬢らしく”なんて言える行動に見えるんですか?


 指摘する労力も気力も失せて、ギルバートは、まだ、手で顔を覆ったままだ。

 その横では、まだまだ大笑いを止めないクリストフである。



読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


हम आशा करत हई कि आप सब एपिसोड का आनंद लेब।

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