なんなんですか - 03
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あんなに憤慨してしまったのは、本当に、ギルバートの知る限りでも人生初の経験だった。
まさか、人生初の経験をしたギルバートの最初の出会いからずっと、“人生初”の経験をし続ける人生がやって来るなど、この時のギルバートは夢にも思わなかったことだろう。
「随分、面白い状況になっているではないか」
深夜も更け出してきた頃、王太子殿下の私室には、大騒ぎしていた貴族を収拾させ、招待客全員が王宮を去った(追い出された) のを確認してきた第二王子殿下のレイフと、宰相であるヴォーグル侯爵が集まっていた。
「冗談にも聞こえませんね」
そして、すっぱり、きっぱり、第二王子殿下のレイフの言葉を斬り落としたのは、ヴォーグル侯爵である。
今は、王太子殿下の命を受け、第二騎士団の全騎士達が裏切り者の貴族の屋敷、関係者諸共捕縛する為に出払っている。
「陛下より、今回の件は私に全権を委ねる、と承諾を授かった」
「当然でしょう」
口元には薄い冷笑を浮かべているのに、その瞳は全く笑っていなく、絶対零度の凍り付くような冷酷さを見せているレイフは、その決断は当然のまでだ、とでも言いそうな雰囲気だ。
王太子殿下主催の夜会を滅茶滅茶にされただけではなく、その当事者である王太子殿下を狙う不届き者。そして、裏切り者。
国王陛下が茶々を入れてくるような場ではないのだ。
口に出されなくとも、全員が、この首謀者は“長老派”だと確信している。確信しているのに、おめおめ、この場で引き下がっていられるような王太子殿下の性格ではない。
「それで? ヘルバート伯爵令嬢はどうしたんです?」
「客室で休んでいるはずだが?」
へえと、全くその言葉を信用していないだろうレイフの相槌は、小馬鹿にしたような雰囲気だ。
「まさか、先制攻撃の一手を打つのが、ヘルバート伯爵令嬢の手助けだとは、ねえ」
それで、なぜかは知らないが、レイフは一人で悦に入っているようでもあるのだ。
その行動が謎で、口を挟まず、ほぼ気配もなく控えているギルバートの眉間が微かに寄ってしまっている。
「これから、あの令嬢がどう出てくるのか見物だなあ」
そして、この言葉には、アルデーラも無言である。
「――王太子殿下が狙われた、というのは事実なのですか?」
先程の会話で、簡単にその話題が打ち切られてしまい、未だに胸内のくすぶりが収まらないギルバートは、それを口にしてしまっていた。
ギルバートが口を出す場面ではないと百も承知で、それでも……ギルバートは事実を確かめずにはいられなかったのだ。
「そうだ」
返事をしたのはアルデーラではなく、レイフの方だった。
「裏切った犯人は誰なのですか?」
「残念なことに、我々が望んでいる相手ではない。つまらない策に溺れた部族連合だ」
「部族連合?」
それを聞いてしまって、認めたくはないが……ギルバートの方だって拍子抜けしてしまったものだ。
「あの令嬢から目を離さないように」
「もちろんです」
しっかり念を押されようが、ギルバートだって、あの謎の令嬢を監視しないままでいる気などない。
「どう動くか、見物ではないか」
「本当に、なにか行動を起こすとお考えなのですか?」
「さあ」
全く役に立たない返事だけを返すレイフに、ギルバートの方も、つい、眉間が寄ってしまう。
そうやって、念を押されたのに、次の三日間。
あの謎の令嬢は、部屋から一切出る様子もなければ、動くようすもない。
食事の為に王宮の厨房に出ていくだけで、後は、客室に籠り切り。
これほどまでに動きもなく、音もなく、全くなにもしない令嬢だったのだ。
「まったく、つまらない。無駄な時間ですねえ」
そんな文句をこぼすレイフの気が知れなくて、ギルバートはその点を深く指摘しない。
宰相も、深く指摘しない。
アルデーラは眉間を寄せたまま、この場でも無言だ。
「さっさと動いてもらいましょうか」
ふざけたことを抜かすな、と注意される場所であるはずなのに、注意されることもない。諫められもしない。
まさか、王太子殿下であるアルデーラまでレイフと同じことを考えていたなどとは露にも思わず、ギルバートだって口に出さずに驚いてしまった。
――他国の令嬢が、手を貸すわけもないではないか。
王太子殿下の命を救ってくれたお礼として夜会に呼ばれた令嬢だからと言って、それ以上でも、それ以下でもないはずだった。
それなのに、力を貸してもらいたい――などと、あの王太子殿下が口に出す日が来ようなど、今、この場で天変地異が起きたとしても、絶対に驚きはしないだろうギルバートの心境だった。
――なんで……、ただの令嬢なのに……?!
信じられない……!?
なんなんだ、この状況は……?
なんだか、自分の納得いかない状況ばかりを目にして、説明のならない場面ばかりを目にして、もうすでに、自分の理解の域を超えている現状に、げんなり……としかかっているギルバートだ。
貴族の令嬢のくせに、あまりに淡々と、ビジネスのように商談を済ませる令嬢の様相にも、もう……質問すべきではないのだろう。口を挟むべきでもないのだろう……。
そして、王都に下りてきてすぐに、刺客に狙われた。
ヤサグレ共に囲まれて、命を狙われた。
賊に狙われているのに、怯えるどころか悲鳴一つ上げないご令嬢……。
あの場で貴族の令嬢が失神しなかった事実に、ギルバートは安堵すべきなのかどうかも、今では定かではない……。
捕らえた賊の尋問(拷問) だって、全く怖れをなさず、平気な顔をしていた。
そして、そのご令嬢に仕えている謎の“精鋭部隊”。それも、全員、成人していない未成年の子供だ……。
信じられない現象を目にして、ギルバートだって、すでに状況が理解できなくなってしまっている。
そんな異常な事態だって経験したことがないだけに、今のギルバートには、ただただ、言葉もなく、無言で疲れ切っていたのだ。
「なんなんですか、あのご令嬢は」
いや……、わかっている。
そう思う気持ちは、なにもクリストフ一人だけでではない。
読んでいただきありがとうございました。
Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)
Хьул кола нужее гьеб эпизод бокьилин.