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Б.б 見限るしかない - 10

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「こりゃあ、あんたの読みが当たったようだな」


 暗がりで、顔の表情も見取ることはできなかったが、強力な異臭に、嫌そうに顔をしかめているであろうジャールの雰囲気がうかがえる。


「伏兵の気配は?」

「いや。今は、何も感じないがな」


「では、領壁(りょうへき)まで、かなりの距離があるんですか? それなのに、奇襲?」

「それはなんとも言えん。暗闇の中じゃ、そこまでの判断はできかねん。領壁(りょうへき)側にまで、行く気なのか?」


「いえ、それはありません。そんな危険を冒す理由もなければ、義務もありません。ただ、南東に援軍を送ることは、ほぼ不可能だと解りましたから――」


 一瞬、全員が一気に身構えていた。


 一瞬、絶対に、何かの音が聞こえたはずだったのだ。


 すぐに、リアーガがセシルの前に立つ。それで、剣を抜いていた。

 ジャールもリエフも、鋭い視線を辺りに送り、二人も剣を抜いていた。


 う……ぅっ……耳をそばだてないと聞こえない程の――(うめ)き声だ。


 全員が耳を澄まし、その音の方向を探ってみる。また、(うめ)き声が漏れていた。


「こっちだな」


 ジャールとリエフが動き、ザクザク、ガサガサと、長く伸びた草むらに入っていった。

 それで、地面に膝をつくようにして――いや、屈んで死んでいる兵士の身体に、耳を近づけていたのだ。


「どうやら、生きているようだ」

「生きている?」


 リアーガとセシルも、小走りに二人に近寄って来た。


 ジャールが地面に伏している兵士の一人を引っ繰り返し、またそこで、反射的に、兵士の口から苦し気な(うめ)き声が上がる。


「生きていたなんて、奇跡的に近いでしょうね」


 なにしろ、兵士達は、全員、見殺しにされてしまったのだから。


「仕方ない。連れ帰りましょう。それで、まだ生き延びるかそうではないかは、この兵士の生きる気力のみでしょう」

「そうだな」





 なにか、額に冷たいものが当てられ、はぁ……と、長い息が吐き出される。痛かったのだろうか、冷たさに安堵したのだろうか、呼吸が苦しかったのだろうか。


 それで、ぼんやりと目を開けた兵士の視界の前に、随分、無表情に近い――子供の顔だろうか? ……がが目に入って来た。


 だが、全く状況が理解できていない。


「目を覚ましたようです」

「そうですか」


 耳の遠くでしか、音が入ってこない。でも、脳では、人が会話しているのだろうな……なんて、あまりにその場の状況とは全く関係ない、単純な思考が浮かんでいた。


 兵士の視界の真上に、誰かが覗き込んで来た。

 真っ黒な塊に、真っ黒な覆面に、それなのに、白い肌が見えて、長い前髪が垂れた間から覗く深い藍の瞳。


「生き延びたようですね。この状況を、理解していますか?」


 目覚めたばかりの兵士には、思考だって働いていない。


「部族連合の敵兵に襲撃され、死にかけていたのですよ」


 その言葉のまま、脳で繰り返された。


 部族連合……と、その単語が認識された時、ガバッ――


「……っうあぁ……!」


 あまりの激痛に、飛び起きた兵士が、咄嗟に全身を守るかのように、痛みの場所に手を押し付けた。


「急に起き上がるべきじゃありません。傷に障りますよ」


 覆面越しで声色もくぐもっているのに、静かで落ち着いたトーンが安心する。


「――――――――……ここ、は……?」

「駐屯地です」


「――――――……私の、隊は……?」

「全滅でしょうね」


 あまりにショックな事実を叩きつけられて、兵士が絶句した。


「…………で、ですが……まだ、生きていたのに……」

「私があなたを見つけてから、すでに、二日は経っています」

「……二日……っ……?!」


「襲撃された日から数えて、四日は経っているでしょう。たとえ、あの時まだ生きていたかもしれない兵士でも、四日も水分を取らずに負傷したまま放っておかれたのなら、すでに息絶えていても不思議ではありません」


「……そ、そんな……。確認、だけでも……お願い、します……。見捨てる、など……」

「なぜ、私がそのようなことをしなければならないのですか?」

「……えっ……?」


 兵士がその一言で、やっと顔を上げた。


 兵士を覗き込んでいる深い藍の瞳は、憎悪があるのでもない。怒気を映しているのでもない。

 ただ、どこまでも深い藍の瞳が、揺れず、穏やかで、静かだった。


「隣国からやってきた貴族に対し、一体、この無能集団は、何をしたと言うのです? 度重(たびかさ)なる非礼を働いただけではなく、侮辱罪、不敬罪、窃盗罪、不法侵入罪、脅迫・恐喝、食糧の強行要請、略奪行為、契約違反行為、強制的戦の参戦、意思に反しての強制軟禁」


 信じられない話を聞いて、兵士の顔が見る見る間に青ざめていく。


「……っは……申し訳、あり、ません……」


「あなたに謝罪されたからと言って、事実は消えません。その上、自国の兵士達を見殺しにし、職務(しょくむ)怠慢(たいまん)、軍律違反を犯し続け、この駐屯地は、ほぼ壊滅状態。なぜ、そんな能無し集団に、私が、わざわざと手を貸してやらなければならないのですか?」


「……っぁ……申し訳、あり、ません…で、した……。本当、に……」

「我々はこの地に慈善事業でやってきたわけではありません。自国で、自領で、私は民を護らなければならない責任があります。お遊びで、命を懸ける気などありません」

「……っぁ……うっ……」


 ただ静かな声音で、とても落ち着いた態度で、叱り飛ばしているのでもないセシルを前に、兵士の瞳から、ボロボロと涙がこぼれだした。


「死体の回収を頼むのであれば、あの能無し中尉に掛け合うべきですね。どうせ、大した期待などできませんが」



読んでいただきありがとうございました。

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