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食は万国(異世界)共通 - 03

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 カリッ、と最初の一口は耳に部分の硬さが混ざり、すぐに、トロトロに溶けたチーズが口の中に流れて来る。


「ああ……、チーズがとろけて、おいしいですねえ……」


 それでかなり気分を良くしたのか、シェフが一気にモグモグとトースティーを食べ始めてしまった。


「立っているのもなんですから、まあ、そこに座って?」

「よろしいのですか?」

「ええ、どうぞ」


 貴族のご令嬢と同席など、絶対に有り得ない。

 不敬罪もどきで処罰されるのは当たり前だ。


 だが、貴族の令嬢でありながら、毎日、この裏方である厨房にやってきて、隅っこでパンを食べて行くセシル達には、厨房にいる従業員全員から、「謎のご令嬢!」 と噂になっているほどだ。


 今は、不敬で怒っている様子もなく、親切にも、シェフにトースティーを分けてくれた。

 それで、シェフもまた、普段では絶対に有り得ない、しないであろう行動にでていたのだ。


 三人が座るテーブルの端っこに行き、シェフがそこで腰を下ろしていた。


「外側はカリッと焼き上がっていて、バターが香ばしく、中はとろけたチーズがバターと絡まって、濃厚です。ハムの塩加減も上手く出されていて、おいしいものです」


 そして、アトレシア大王国の王宮にまでやって来て、天下の“食レポ” を聞いているセシルだ。


「そうですわね。皆さんは、トースティーなど作りませんの?」

「いえ、このようなお料理は初めて食べました」

「私の領地では、家庭料理として人気がありますの。簡単に作れ、手頃な材料ですぐにできますもの」

「そうでありましたか。具の中身は、ハムなのでしょうか?」

「なんでも合いますわよ。余ったお肉などを細切りにして混ぜてもいいですし、干し肉などを小さく刻んで入れてもおいしいですわよ。バターとチーズだけでも、とろとろとして、おいしいですしね」

「なるほど」


「時間がない時になど、ほっこりと温かなご飯ができて、人気がありますのよ」

「なるほど。確かに、すぐに作れて、すぐに食べることができる、便利な料理です。あの……あの、非礼を申しているのは、重々に承知しておりますが……もし、ご迷惑でなければ、私に、是非、このお料理のやり方を教えていただけないでしょうか?」


 お願い致しますと、ガバッと、シェフが座ったままテーブルに向かって頭を下げたのだ。


「教える……って、教えるほどのものではありませんけれど」

「いえっ。このような家庭料理は、私も初めていただきました。時間がかからず、残り物も使用でき、それで、サクサクとした外側のパンと、とろけたチーズの濃厚さが混ざって、お腹が満たされる料理は、なかなかあるものではございません」


 トースティーに、そこまで熱弁されてしまい、セシルも反応に困ってしまっている。


「非礼を働いているのは、重々に、承知しております。もし、ご迷惑でなければ、是非、トースティーの作り方を教えていただけませんでしょうか?」

「別に、迷惑では、ありませんけどね……」


 まあ、初っ端から、奇天烈な貴族の令嬢がやって来ても、文句も言わず、山のようにパンを持ってきてくれて、バターも出してくれた。


 今夜は、最高級であろうローストハムもセシル達に出してくれたから、セシルも、そこまでシェフのことを悪く思ってはいない。


「どうか、よろしくお願いいたします」

「まあ、いいでしょう……」


 ガバッと顔を上げたシェフが、また嬉しそうに頭を下げて行く。


「ありがとうございますっ」


 それで、セシルは二つ目のトースティーを食べ終えて、残りはイシュトールとユーリカに任せることにした。


 また、オーブンがある方に戻り、隣に立つシェフに、トースティーの作り方を簡単に説明する。

 ふむふむと、真剣に話を聞いているシェフは、セシルに勧められて、自分でも一つ作ってみた。

 ハムもあるので、そのハムも入れて。


「ハムがない時は、卵を使用することもありますのよ」

「卵はどのように入れるのでしょうか?」

「生のままで焼くんです?」

「そのようなことが可能ですか? 生なのに?」


「ええ。こう、真ん中部分を押し込んで、潰した上に、卵を落し、チーズを振りかけ、上のパンを乗せる方法もありますし、真ん中部分を四角くくりぬいて、穴の部分に卵を落すこともできますのよ。生の卵を押し潰さない程度に上から押さえ、チーズが入っていますので、すぐに、パンをくっつける役割になりますしね。熱さで卵も焼かれて、半熟の卵など、とろけておいしいですわよ」


 なるほど、なるほどと、ものすごい真剣な様子だ。


「卵のトースティーを作る時は、チーズの前に塩・コショウなどを少し振りかけて、味をつけてもいいかもしれませんね。私の領地では、トマトケチャップを少し入れて、味をつけるんですのよ」

「トマトけちゃっぷ? それは、一体、なんでしょう?」


「トマトをこして、砂糖や塩、お酢に色々な香辛料を混ぜて、煮込んだソースです。病みつきになりますわよ。私の領地でも大人気ですしね」

「おお、そのようなソースが!」


 そして、皆に愛されるトマトケチャップは、この世界には存在しない。


 だが、セシルは味が足りない食事に辟易していたので、かなり早い時期から、トマトケチャップやトマトソースの生産に力を入れていたのだ。


 今では、かなりの量のトマトケチャップが生産できるようになったから、嗜好品(しこうひん)だけではなく、家庭でも手に入るお役立ち商品となりつつある。


 問題は、保存容器がまだないという点だけだ。

 ガラスでできた密閉容器は、蓋周りにゴムが必要となる。ゴムはない。ガラスも安価ではない。


 それで、仕方なく、数日から一週間ほど日持ちするだけのトマトケチャップではあるが。

 その状態でも、味がなにもないよりは、数段マシである!


「あの……、ご令嬢は、どちらの出身であられるのでしょうか?」

「隣国ノーウッド王国です」

「隣国……?!」


 その一言で、ものすごいガックリと落胆を示すシェフだ。


 もし、アトレシア大王国内だったのなら、トマトケチャップの作り方について、教えを乞いに行こう――などという期待があったのかもしれない。


 そして、なぜかは知らないが、その晩は、ものすごい熱心なシェフの情熱に負けて、セシルはトマトケチャップの作り方まで(口頭で) 伝授する羽目になったとさ。


 食事を終えたセシル達は、大喜びでシェフに見送られ、部屋に戻って行った。


「やはり、国は(たが)えど、食は一番大事な生活の基本ですわね」

「ええ、そうですね」


 などと、三人揃って感心していたのだった。


読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


أتمنى أن تستمتع بالحلقة.

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