* 食は万国(異世界)共通 *
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シリーズ: Part1
場所: アトレシア大王国王宮の厨房にて
時: セシル達が監禁されて三日目の夕食時
「さすがに……、三日三晩続けてパンだけを食べているのは、もう、飽きてきましたね……」
うんざり……気味を隠しもせず、今夜もまた、セシル達は王宮の厨房にやって来ていた。
イシュトールとユーリカの二人は何も言わないが、その雰囲気から、セシルと同意見であるのが伺える。
バリバリ、バリバリ。
もう、歯応えだけがあって、硬いパン。バターはあっても、その味も飽きてきてしまった三日目。
王宮に監禁されてしまったせいで、セシルの食事事情は最悪である。
騎士に連れられて厨房にやって来たセシル達には、(やっと) 慣れ始めたのか、厨房を仕切っているシェフらしき男性が、寄って来た。
「こんばんは……。今、パンをお持ちいたしますね」
「ええ、よろしく」
それで、ここ三日ほど、同じ行動をするセシル達は、隅に置かれているテーブルに向かう。
セシル達は、夕食を準備している時間帯を避け、少し忙しさが落ち着いた頃を見計らって、夜は厨房にやって来る。
食事の準備を終わったシェフやコック達は、それから、自分達の夕食を作り出す。
「こちらを、どうぞ……」
皿一杯のパンを運んできたシェフだ。
初日から、パンはたくさん出してきてくれたシェフだ。
奇天烈な貴族だろうと、一応、貴族の令嬢が厨房にやって来ているので、文句を言われないように、山程のパンを切って、持ってきてくれるらしい。
今夜もまた、パンとバターだけである。
ああ、うんざり……。
溜息さえも出てこない。
セシルが、チラリと、厨房の方に視線を向けた。
今夜の夕食を作り終えたのか、台所の方は、それほど忙しい様子はない。
「すみませんが、あそこのオーブン、使わせてもらえませんか?」
「――――――――――――――――え……?」
さすが、王宮で働くシェフ。
この間よりも、更に長い時間で、優に、数分はあった。
ポカンと口を開けて、未だに、セシルの質問内容を理解していないようである。
「フライパンを借りるだけです。まあ――バター以外で、ハムとチーズでもあったら、最高にいいんですけれど」
「――――ハムとチーズ? ――ありますが……」
そりゃあ、王宮の厨房だ。
その程度の材料くらいは、揃っているだろう。驚くことでもない。
だが、その材料をセシル達に分けてくれるかどうかとなったら、話は別だろう。
「フライパンを借りるだけです」
「ですが……あの……ですが……」
貴族の令嬢が料理するなど、絶対に有り得ないと信じているだけに、まさか、セシルが料理するなんて発想も、シェフには思い浮かばないものなのだ。
もう、その手の反応は飽き飽きしているセシルは、大仰に溜息をこぼしながら、
「フライパンを貸して下さい。トースティー(Toasty、トーストサンドのこと) を作るだけですので」
「――トースティー?」
「ええ。チーズだけ、分けてもらえますか?」
「――それは……あの……、構いませんが……」
「じゃあ、お願いしますね。あっちの端っこを使わせてもらいますから」
これ以上の会話は無駄だと悟ったセシルは、さっさと椅子から立ち上がっていた。
皿に山盛りになっているパン皿を取り上げ、スタスタと、向こうにあるオーブン台の方に向かう。
イシュトールとユーリカも、セシルについてくる。
「今夜はトースティーにしましょう。簡単ですけれど、パンだけよりは、マシでしょうから」
「はい……」
実は、(ものすごく) ホッとしているイシュトールとユーリカだった。
パンだけだと、腹持ちも悪く、お腹は空くし、味気もない。
今夜は、セシルがトースティーを作ってくれるようなので、やっと、まともな食事ができるようだ。
一安心……。
「あの……、こちらは、ハムとチーズになっております……」
要求したわけではなかったが、ご丁寧に、親切に、シェフがハムまで用意してくれたようなのである。
「その好意は、とても有り難く受け取っておきますわ。ありがとう」
「い、いえ、滅相も、ありません……」
それで、ペコペコと、焦ってお辞儀を繰り返すシェフだ。
セシルは、そこまで大仰しく威張り散らした貴族の令嬢ではない。でも、そんなことを説明しても、時間の無駄なことを知っている。
溜息をこぼしながら、セシルはハムを持ち上げてみた。
現代で言えば、スーパーで売っているスライスハムのようなものではない。
ローストハムの塊で、王宮の厨房に置かれているだけはあり、きっと、特上のお肉を使用しているハムのはずだ。
これなら、少し厚切りにして、ハムのステーキにしてみたらおいしそうだ。
数枚は、ちょっと、ステーキにもさせてもらい、何枚かはスライスして、トースティーの中にも一緒にいれたら、今夜はかなりのご馳走になる。
「ああ、やっと、まともな食事にありつけますわぁぁ……」
なんて、心の中で踊り出してしまいそうだ。
セシルも、どんなに安堵していたか、その度合いなど、ユーリカとイシュトールを除けば、誰一人知らないことだろう。
「これ、どれが強火ですか?」
「あっ、こちらです」
この時代、この世界、厨房で使用しているオーブンや火力などは、中々、火の調節が難しい。
それで、弱火用、中火用、強火用とコンロが分かれているのが普通だ。
だから、セシルも料理をするなら、三つのコンロを借りることになる。
コンロの下は、薪木で火力を確かめなければならないのだが、ここにいるシェフなどに頼んでみれば済む話だろう。
たくさん積みあがっているパンを取り上げ、バターを丁寧に塗り、スライスしたチーズに、スライスしたハムの千切りも混ぜて行く。
二つのパンを少し押し合わせ、表側にもバターを塗った。
こうすると、表側が香ばしくカリカリっと焼け目がつくのだ。
(よし、今夜は、もらったパン全部を使って、トースティーにしましょう!)
さすがに、ここ連日連夜の食事事情が最悪だった為、うんざり気味を通り越して、ドヨーンと気分が落ち込んでいきそうだったのだ。
おいしそうなローストハムも、薄いステーキにして食べさせてもらうので、やっと、お肉にありつけた。
準備を全部済ませてしまいたいので、セシルは同じ動作を繰り返していく。
読んでいただきありがとうございました。
Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)
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