かわいい弟 - 02
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(癒されるわねぇ……。これが、「萌え」 って言うのかしら?)
前世の記憶が蘇ったあの瞬間から、『セシル・ヘルバート』という貴族の令嬢になってしまった自分の過去。
そして、最高潮に困惑を極めて、精神的にやつれそうになっていたセシルの元には、いつもにこにこと笑顔を向けてくれる弟のシリルがいた。
天使のようにかわいい弟のシリルだ。
コトレアで仕事に追われていても、シリルは文句一つ言わず、大人しく会議室の隅のソファーに座って、おもちゃで一人遊んでいた。
疲れて、ストレスが溜まっているセシルが溜息をついていると、シリルが必ずやって来て、セシルに抱き着いてきた。
「おねーさま」
そして、にこにこと愛らしい笑顔を投げてくれるのだ。
本当に、どこにいても、この愛らしくかわいい弟のシリルがいたから、セシルも苦しい少女時代を生き抜いていけることができたのだろう。
今は、シリルも成長して、少年から青年に変わり始める年齢になりつつある。
それでも、サラサラと癖のない金髪がかった銀髪は変わらず、くりくりと大きな瞳はどこまでも深い藍色が映っている。
幼い時からずっとセシルと共に一緒にいて、一緒に行動して、セシルの影響を一番に受けているだけあって、シリルもセシルに劣らず、とても冷静沈着に育った。
その静かな面持ちは優し気で、警戒を呼ばず、その瞳は理知的で思慮深さを映し出しているような雰囲気だ。
顔のどのパーツをとっても見劣りがなく、昔は、セシルと並んで綺麗なお人形さんが並んでいるみたいだ、などともよく言われたことだった。
身内贔屓だけではなく、セシルの弟のシリルは誰が見てもハンサムで(超がつくほどの) 美麗な少年に育っていた。
(将来だけでなくても、今だって、十分に有望株ですわぁ……!)
自分の弟のことでありながら、セシルも自慢してしまうほどの弟である。
「この七年間、長かったのか短かったのか、アッと言う間に時間が過ぎていってしまいましたわ。その中でも、シリルはいつも私を支えてくれて、手伝ってくれて、それがどんなに私の励ましになっていたか、憩いになっていたか、言葉では言い尽くせません。シリルがいつも私の傍にいて笑っていてくれたから、私も無事に生き残ることができたのですよ。本当に、ありがとう、シリル。シリルが私の弟で、私は本当に嬉しく思いますわ」
セシルの真摯な思いを聞いて、少し驚いたようなシリルは、すぐに、その顔に嬉しそうに輝かしい笑顔を浮かべていく。
「姉上がそう思ってくださって、私もとても嬉しく思います。姉上は私にとって誰よりも大切なお方です。私でも姉上のお手伝いができて、本当に良かったです。姉上のこの七年間の苦労が報われて、姉上が自由になられて、私も心から安堵しているのと、嬉しさが止まりません……」
「ありがとう、シリル。シリルのような弟を持てて、私はなんて幸せ者なのかしらね?」
「私だって、姉上が私の姉である事実が、とても嬉しく思います。姉上は誰よりも大切なお方ですから」
「ふふ、ありがとう、シリル。私にとってシリルも誰よりも大切な弟です。ですから、これからは、シリルももっと自分の好きなことをしてくださいね? 私の仕事に縛られて、シリルの青春時代を無駄にしてしまいましたもの」
「無駄でなんかありませんよ。この七年間、姉上のお傍で、私だってたくさんのことを学びました。信じられないことばかりを学びました。それも、全て、姉上のおかげです。姉上のことを自慢できないのが、実は……いつも残念に思っていました」
本当なら、誰構わず、
「私の姉上は、本当に素晴らしい女性なんだっ!」
と大声で自慢したいくらいなのに。
「まあ、シリルったら」
「本当のことです」
「シリルがそうやって思っていてくれるだけで、私も十分に報われますわ」
自慢するほどの(超) 美形に育ったかわいい弟は、思慮深く、聡明で、姉思いで家族を誰よりも大切にする。物腰穏やかで、貴族であっても気遣いを忘れず、とても優秀な少年に育った。
自慢してもしきれないほどの、最良物件である。
「シリルは、本当に大きくなりましたね……」
「ふふ、姉上ったら。おかしなことをおっしゃるんだから」
そして、おかしそうに笑うシリルの輝かしい笑顔は、相変わらず天使のようにきれいで、偽りがなく、セシルの心を癒してくれる。
(あぁ、シリルは本当にかわいい弟ですわね……)
この世界に(無理矢理) 飛ばされてしまった悲惨な事実の前に、シリルはセシルに与えられた唯一の憩いと癒しなのかもしれない。
一番初めの味方は――たぶん、父親のリチャードソンだったのではなく、この誰でもない弟のシリルだったのだろう。
そう確信したセシルだった。
読んでいただきありがとうございました。
Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)
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