表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
524/539

Е.д 楽しみ - 07

ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります! どうぞよろしくお願いいたします。

「ええ、その程度でしたら、問題はありません。宰相閣下も、ヴォーグル侯爵も、お二人とも抜け目のないお方ですからね。会議に参加しただけで、もう、なにもかもを暴かれてしまいそうですわ」

「いえいえ。私は、そこまで込み入ったことに首を挟むつもりはありませんので」


 いや、レイフだってこのハロルドだって、二人揃って抜け目のないやり手の敏腕官僚だ。

 些細なことでも絶対に見逃さないだろうし、説明されなくても目ざといだろうし、気づいてない振りをして、大抵の人間が気づかないことを、簡単に見抜いていそうである。


「あの……」

「どうしました?」

「私はアトレシア大王国の貴族ではございませんので、皆様のことをまだ良く存じ上げておりません。ですから、先程――侯爵夫人を、領地の視察にお誘いしてしまいましたが……」

「妻が問題ですか?」

「いえ……」


 ほんの少しだけ、セシルが言いにくそうに口ごもる。

 ギルバートも、そのセシルに首を傾げてみせた。


「どうしました? ヴォーグル侯爵夫人も、きっと、観光をお喜びになりますよ」

「もしかして、そのようなことを懸念なさったのですか?」


「ええ、まあ……。観光自体は、たぶん、問題はないと思うのですけれど、さすがに、大王国の侯爵と侯爵夫人を邸に招待したことなどありませんので、私の邸の者達がお世話をするのに――足りないところもあるかもしれませんし……」


「ああ、そのようなことは気になさらないでください。迷惑を言って押しかけていくのは、私達のほうですからね」


 セシルの領地は、小さな町ほどの大きさだと聞いている。

 だから、伯爵家の邸でも、ゲストを迎えたり、外部からの招待客を呼んだりすることは、きっとなかったであろう環境を、ハロルドもすぐに察知していた。


 前回は、豊穣祭に突然の王族参加が決まって、それで、王族の王子達をもてなしたのだろうが、それは例外であって、普段の邸の仕事ではなかったはずだ。


「それに、私の領地では、王国の貴族のご令嬢やご夫人が経験したこともないことが多いと思いますので――少々、気分を害されるのでは、と……」


 詳しく説明しないセシルに、ハロルドも、セシルが懸念しているであろう問題が何か、すぐに気が付いた。


 要は、王国の貴族令嬢や夫人が、今まで馬車の移動は絶対であるし、護衛はついているだろうし、社交場以外の町々など訪ねてきたこともないだろう――と、言いたいのだろう。


 だから、視察や観光で領地内を巡る際に、平民と同じことをしたり、平民が集まっている場に行くことを気にしているのだ。


 レイフの話からしても、セシルの領地は、そういった貴族意識や差別がほとんど見られない、随分、前衛的な考えをする土地だと言っていた。


 平民も同じようにお店に出入りし、買い物をし、レストランだって、“貴族席”などという特別扱いが全くない土地だと言う。


 だから、偉そうな貴族令嬢や夫人が、気分を害してしまうかもしれないな――と、セシルが危惧しているのだろう。


「そのような心配は、全く必要ありませんよ」

「そう、でしょうか……」

「ええ、そうですね。特に、私の妻は」


 なんだか、随分、含みのある口調だったが、セシルには、なぜハロルドがそんなに自信満々に断言できるのか、そこまで侯爵夫人のことを知らない。


「そのようなことは、全く気になさらないでください。あなたの領地に視察に行けると知れば、大層、喜ぶことでしょう」

「そうですか……。それなら、いいのですが……」


 そして、外務大臣ヴォーグル侯爵との会話は、あまりに簡単に、簡潔に、そこで終えていた。





「お疲れではありませんか?」


 なんだか、この頃では、ギルバートはいつもセシルに一番にそれを聞いてくる。

 その優しさが温かくて、セシルは簡単に首を振った。


「いいえ。それよりも、このようにギルバート様とご一緒する時間など、初めてではないかと思っております」

「ああ、確かに、そうですね」


 セシルがアトレシア大王国に戻ってきた翌日からすぐに、ウェディングドレスの仮縫いやら調整やらが始まった。


 それと並行して、礼儀作法やマナーのレッスン、臣籍(しんせき)降下(こうか)での儀式の後での貴族への挨拶やら、儀式参加の招待客の確認やらと、一日中、色々な者の出入りが激しいのだ。


 こうやって、二人きりでゆっくりと椅子に座って会話できるなど――セシルがやって来て以来、初めてのことだった。


「先程、ヴォーグル侯爵が、あまり気にする必要はないとおっしゃっていましたけれど、ギルバート様は、侯爵夫人にもお会いしたことがありますわよね」


「私の場合は、大抵、公式な場で挨拶程度のものですが。母――王太后や現王妃なら、親しくなさっていらっしゃるので、侯爵夫人のことをよく知っていると思いますが」


「他国の辺鄙(へんぴ)な田舎町にやって来ても、本当に、大丈夫なのでしょうか? つい、いつものように、気軽に招待してしまいましたけれど」


「それは、大丈夫だと思いますが。あなたの領地は、本当に興味深いですからね。たくさん知らないことがあり、見知らぬものがあり、見聞きしないものがあり、驚いてばかりです」



読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


Mo lérò pé o gbádùn ìṣẹ̀lẹ̀ yìí

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Funtoki-ATOps-Title-Illustration
ランキングタグ、クリックしていただけたら嬉しいです (♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
小説家になろう 勝手にランキング

その他にも、まだまだ楽しめる小説もりだくさん。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ