Е.д 楽しみ - 03
ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります! どうぞよろしくお願いいたします。
ギルバートとセシルの婚儀が済むまで、セシルはギルバートの婚約者として、しばらく王宮住まいになる。
ギルバートの住んでいる館のゲストルームは、ギルバートの指示で、完全に整えられている。
一切の埃も見当たらないし、家具や置物はピカピカに磨かれ、王宮でしか見られない王族専用のバラも、豪華に花瓶に生けられていた。
セシルの滞在予定は数か月程度なのに、セシルが居住する部屋は、新しい壁紙が張り替えられていた。
違う家具も揃えられていた。洗練された女性向きの家具だ。
もちろん、ゲストルームを整える指揮を取っていたのは、ギルバートに仕える筆頭執事であるアーリーである。
お仕えする大切な王子殿下の婚約者が館にやって来るのだ。そのご令嬢が住まわれるお部屋とあって、大張り切りで、セシルの居住する部屋を整えて(改装) していたアーリーである。
もちろん、セシルに喜んでもらうのであれば、ギルバートは何でもする。だから、ほとんど無駄になりそうな出費が嵩もうが、アーリーには、
「上限なし!」
と言いつけて、セシルが到着するその時まで、一切の抜かりなく、ゲストルームを整えていたのだった。
ギルバートとセシルが結婚すれば、二人とも新居に移ることになっている。臣籍降下したギルバートは、王宮に居座ることはできないし、本人も居座る気はない。
なにしろ、セシルとの新居に移っていくのだから。
セシルと結婚……。
ギルバートの妻になる女性……。
そんな状況や場面が本当にやって来るなど、未だに、ギルバートは夢でも見ているのだろうか……と、自問自答してしまう。
思えば、セシルに初めて出会ってから二年半以上になった。
初めて、ギルバートがセシルに真っ逆さまに恋に落ちてしまってから、セシルに会えない日々が長かった。苦しかった。恋しくて、ただただ胸がしめつけられた。
なのに、これからセシルはギルバートの隣にいてくれる。
腕を伸ばせばすぐ届く場所に、セシルがいてくれる。
それを考えて、にやけ顔が止められない。
ほんわかと胸が温かくなって、セシルと一緒にいることができる将来が嬉しくて、喜びが止められない。
だから、早く会いたい……。
豊穣祭でセシルと一緒にいられたからって、そんなことは関係ない。
早く、早く、セシルに会いたい……。
その声を聞いて、その姿を見て、今、自分が感じている幸せが夢ではないと、感じたい。
待ちきれなくて、楽しみなのだ。
「セシル嬢」
案内されたゲストルームにやって来たセシルの周囲では、ギルバートの執事であるアーリーに指示されて、ギルバートの館に揃っている使用人達は大忙し。
コトレア領から運ばれてきたセシルの私物や荷物など、たくさんの木箱がゲストルームに運ばれて来ているのだ。
それはこっちだ。あれはそこに。この箱はどこへ――
使用人達が忙しく荷物を運び、荷を解き、それぞれの場所へと片付けていく。
セシルはその多忙な使用人達の邪魔をしないように、ただ大人しく、ゲストルームにある長椅子に座っているだけだ。
館中で大引っ越しの片づけがされている中、さすがに、その使用人達を無視して一人で仕事を済ませる訳にもいかず、フィロは仕方なくセシルの向かいの椅子に座って、待機中。
オルガとアーシュリンは、アーリーに手伝いを申し出てみたが、アーリーではなく、館の侍女頭である女性から、しっかりと断られてしまった。
「長旅でしたでしょう? 今日は、わたし達に任せて、しっかりと休んでくださいね」
館の侍女頭はかなり年配の方に入る女性だった。ユーラ・ラスクと紹介された。
それで、オルガとアーシュリンも手持無沙汰で、静かにセシルの後ろで控えている。
ギルバートが部屋に入って来て、セシルが立ち上がった。
残りの全員も一斉に仕事の手を止めて、その場で深々とお辞儀をしていく。もちろん、セシルに付き添ってきた部下達も丁寧に頭を下げていく。
「ギルバート様」
「セシル嬢」
スタスタと大股で部屋を横切ったギルバートは、すぐに、セシルの前までやって来た。
「お久しぶりです、ギルバート様」
「ええ、お久しぶりです。旅路はどうでしたか?」
「快適に過ごさせていただきました」
「それは良かった」
そして、本当に嬉しそうに、ギルバートの顔に笑みが浮かんでいく。
きらきらっと、輝かしいほどの眩しい笑顔を投げられて、なんだか一気にその場の雰囲気が輝いてしまったほどである。
少し体を起こした館の使用人達がその光景を目撃してしまって、ものすごい衝撃を受けていたなど、セシルは夢にも思わないだろう。
アーリーや、年配の侍女頭であるユーラ以外、ギルバートが笑っている場面など、ほとんどの使用人達は見たことがない。
アーリーとユーラは、ギルバートが子供の時から第三王子殿下の館に配置され、ギルバートに仕えてきたから、子供の時の素直で可愛らしいギルバートをよく知っている、ほんの数少ない使用人になる。
なにも、“氷の王子様”という異名は、ここ数年で呼ばれたあだ名ではない。
だから、自分達の使える“氷の王子様”が笑顔を見せただけに、実は、館の使用人達はものすごい衝撃を受けていたのだ。
読んでいただきありがとうございました。
Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)
Yuumbo'otik xook le novela