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* Е.г 思いはそれぞれ *

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「――――っ……」


 カー・サルヴァソンは息を詰めて、そこで、身動き一つしない。

 それから、はっ……と、喉から息を無理矢理吐き出したかのようで、ジッと、その一点を凝視している。


 その眼差しが凝固するほどに一点だけに向けられ、なぜか、カー・サルヴァソンの喉が渇いていることにきづく。

 カー・サルヴァソンが、ゆっくりと、深く頭を下げていく。


「――――とても良く、お似合いです……。ありがとうございます――」


 何に対しの礼だったのかは分からないが、カー・サルヴァソンが深く頭を下げたまま、そこから顔を上げない。


 今のカー・サルヴァソンにとって、自分が創作した宝石を身に着けているセシルの姿を見て、あまりに自分の想像した通りの出来栄えと、そして、あまりにその宝飾が自分の描いた通りだった事実に――感動していたのだった。


 宝石彫刻師というのは芸術家に近い。


 この時代では、宝石彫刻師というのは宝石を扱う技術師のような扱いで終わってしまっているが、宝石も宝飾も、自分のイメージを入れ込んで、魂を埋め込んで、創り上げていくものなのだ。


 だが、大抵は、地位だけ偉そうな貴族が、宝石をゴテゴテと飾り立てているだけで、カー・サルヴァソンが創り上げた傑作品や逸品に見合うだけの人間など、今までお目にかかったこともない。


 だから、自分のイメージする宝石や宝飾が無駄に売られていく現実に、諦念(ていねん)する気持ちがいつもある。

 でも、セシルのドレス姿を見て、身に着けているネックレスを見て――初めて、自分の創作品が真の主を見つけて、感動していたのだ。


「顔を上げてください」


 カー・サルヴァソンが顔を上げていく。


 そのカー・サルヴァソンを見返している静かな瞳。深い吸い込まれそうなほどの藍の瞳が、真っすぐに向けられ、強い意志を映しているかのような力強い眼差し。

 儚げな外見とは全く反して、威厳ある美しい立ち姿から目が離せない。


 セシルの首元にあるネックレスを見やり、カー・サルヴァソンは、感慨深げに、その瞳を細めた。


「――ああ……、王子殿下のおっしゃる通りでした……」

「王子殿下がなんと?」


「私は、仕事の依頼を受ける前には、必ず、質問することがあります。「一番初めに、頭に浮かんでくる印象はなんだ?」 と。大抵、一番初めに口に出てくる人物像というのは、心がいつも感じている、心に残っている一番強い印象なんです」


 考えもせず、無意識に出てくる、一番、本心に近い感情。


「ですから、考えもせずに出てくる一番初めのイメージが、私は知りたい。お飾りや、上辺だけの言葉ではなく、本心を確認するために、私はいつも質問します。王子殿下がいらした時も同じです。そして、王子殿下はこうおっしゃったのです。「月から舞い降りて来た女神のような女性だ」 と」

「……っ……」


 そんな……恥ずかしいことを、ギルバートは、本気で口にしていたのだろうか。

 まさか、ギルバートに、そんな風に思われていたなど、露にも思わないセシルだ。


「私が知る限りでも、いつも出てくる返答は、容姿で言えば、きれいだとか、金髪だとか、外見の目に見えるだけのものばかり。性格で言えば、優しいとか、たおやかだとか。それは、性格ではなくて、醸し出す雰囲気から察するもので、本当に優しい性格なのかどうかも判断できません。大抵、一番初めに出てくる印象は抽象的で、その人間の人柄や人となりを表してはいない」


「生き様、ですか?」

「たった一度の面会で――私も、そこまでは期待していません。ですが、王子殿下のおっしゃった一番初めの印象は、とても興味深いものでした。ですから、私も依頼を引き受けたのです」


 ギルバートの最初に浮かんでくる一言が、本当に興味深いものだったから。


「外見の特徴でもなく、抽象的な雰囲気でもなく、王子殿下が一番強く感じられた印象が“女神”だったのですから。“女神”と聞いて、何を連想されますか?」

「色々、かと……」


 ふっと、カー・サルヴァソンが微かに笑う。


「“女神”と聞いて連想する形容は、「神々しい」、「気高い」、「強さ」、「美しさ」、そういった印象が浮かんできます。そして、“月から舞い降りた”のであれば、「神秘的」、「幻想的」などが連想されるでしょう? 一番初めの印象だけで、そんなに色々な、そして、沢山の形容が出てくるなど、私には初めてのことで、それで依頼を引き受けさせていただきました」


「――そのように言っていただいて、光栄です……」

「いえ、光栄なのは私の方です。遅ればせながら、この度は、ご結婚が決まり、心よりお喜び申し上げます」


「ありがとう」

「微力ではございますが、私も、全力で創作に及ばせていただきます」

「そう言っていただいて、心強いですわ」


 セシルに挨拶を済ませたカー・サルヴァソンは、一人きりになりたい、とその場を後にし、それから数日は客室に籠りっぱなしで、部屋から一度も顔を出さなかった。




読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


Wutrobny dźak, zo sće tutón roman čitał

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