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Е.в 婚儀の準備と言うのは - 07

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 ハトレンがこの領地にやって来たのは、仕立屋のフレイが到着した一週間後だ。


 その時に、フレイとカリーナから、大まかなドレスのデザインの構想やら、その方向性を聞いた時は、ハトレンも内心では乗り気ではなかった。


 カー・サルヴァソンとは知らない仲でもない。親しい仲でもないが、商売(がたき)――に近い同業者である。

 ただ、お互いの請け負う宝石や宝飾の趣旨が全く違う為、敵対視している相手ではなかった。


 国王陛下が奨励する婚儀で、第三王子殿下の婚儀である。

 だから、王宮御用達(ごようたし)の宝石商として、長く王宮に出入りしているハトレンとしては、自分の他にもう一人、宝石商が呼び出されている事実には、あまりいい気はしていなかったのだ。


 だが、フレイとカリーナから説明されたその晩、フレイとカリーナのいる場で、セシルが藍のドレスを着て、カー・サルヴァソンが作ったらしい宝石を身に着けて、それをハトレンに見せたのだ。


 そのセシルの姿を見た瞬間、そして、その首元にかけられたネックレスを見た瞬間――ハトレンは、フレイとカリーナが、急遽、宝飾のデザインを変えた理由を、その場で完全に理解してしまった。


 ハトレンも、長年、貴族のご令嬢やご令閨を見てきたが、一瞬、言葉を失ってしまうほど、呆然としてしまったのは、セシルが初めてだった。


 セシルがあのネックレスを婚儀で身に着けるのなら、残りの宝石や宝飾も、同じ宝石彫刻師がすべきである。


 他の宝石彫刻師がでしゃばって作った宝石を身に着け、ネックレスとは合わない出来上がりになってしまったら、最悪である。


 その事実をすぐに理解したハトレンは、フレイから、婚儀の後の祝宴で身に着ける宝飾はどうでしょうか、と頼まれ、すぐに承諾していたのだ。


 セシルの人柄なのか、その風格なのか、まだ数日しか領地に滞在していないハトレンでも、セシルの婚儀が輝かしいものになるのは疑いようもなく、素直に、その日を祝いたい気持ちになっていたのだった。


 カー・サルヴァソン一人だけが、まだ状況についていけてない気がするのだが、それでも、依頼された仕事なので、カー・サルヴァソンは仕方なく、その三人を交えて、ウェディングドレスのデザインの話し合いを始めることにした。





「ようこそ、コトレア領へ。私が領主、セシル・ヘルバートです」


 颯爽と部屋に入ってきて女性が、カー・サルヴァソンに紹介を済ます。


「――――――――」


 そして、カー・サルヴァソンの反応も、全員同様、そこで無言である。

 セシルの男装(ではなくて、ただズボン姿なのに) を見て、一瞬、無言だったのだ。


 綺麗な顔立ちに、繊細で儚げな面影。スタイルも良さそうで、容姿は美人に入るであろうセシルなのに、なぜ、男装しているのか理解できず、カー・サルヴァソンもそこで無言だった。


「お疲れですか?」

「――いえ」

「そうですか。では、恒例となりましたので、今から、この領地の観光をしてもらいましょう」

「――は?」


 伯爵令嬢の前で、あまりに失礼な態度だったが、その反応が、無意識で出てしまっていたのである。


「それは、「時計塔」 を見逃してしまいましたね」

「ああ、でも、まだまだ滞在しているのですから、明日にでも見られることでしょう」

「ああ、そうですね」


 全く理解できない状況に投げ込まれたカー・サルヴァソンとは大違いに、フレイとハトレン宝石商の主人は、随分、呑気な会話をしている。


「私の人となりを知る為には、領地内を視察するのも、必要ではありませんこと?」

「――そう、かもしれませんが……」

「今日はそれほど時間がありませんから、明日一日は、領地の観光をしてもらいましょう」

「――仕事で来たのですが」


「一日程度、仕事をしなくても、死ぬわけではありませんでしょう?」

「えっ……?!」

「なにか問題がございまして?」


 セシルに振られたフレイとハトレンが、簡単に首を振る。


「いいえ。サルヴァソン殿、“観光”を楽しんできてくださいよ」

「ええ、そうですね」


 それで、王妃命令で仕事を依頼されたのに、初っ端からサボっても、誰一人、文句は言わない。

 一体、どうなっているんだ? ――すでに、カー・サルヴァソンにも、理解不能な状況である。


 婚儀の準備と言うのは、サボりを入れて簡単に済ませられるようなイベントでもなんでもないはずだ。

 王族の結婚式のはずだ。


 身に着ける宝飾が、昨日、今日でできるとでも思っているのか?


 ものすごい疑問符と文句が頭の中でグルグルと上がってきていたカー・サルヴァソンだったが、お貴族サマに立てつくことなどできず。

 あまりに納得いかない状況に陥って、次から“観光”である。





 理解不能なまま、到着当日の午後と夜、そして次の日一日、「観光」 なるものに参加させられたカー・サルヴァソンは、時計塔を見上げて、もう、驚愕で口がきけなくなるほど、人生初の経験で、完全に愕然(がくぜん)としていたのだった。



読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


Дякую, що прочитали цей роман

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