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Б.б 見限るしかない - 07

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 セシルを背中に庇い、背の高いリアーガが、背の低い中尉を、上から無感情に()め付ける。


「てめー、殺されたいのか」

「……ぃ……くっ……」


 本気の殺気を隠さず、本気の怒気を向けられて、中尉の顔が更に青ざめる。


 セシルに剣を向けたことで、子供達からも背筋が凍り付くほどの殺気じみた怒気が上がり、その場は――一触即発の緊張状態に変わってしまった。


「マスター」


 後ろから、イシュトールが小声でセシルに寄って来た。


「私が行きます」


 セシルはその視線だけをイシュトールに向けるが、絶対に、イシュトールの提案に賛成していない雰囲気がありありだ。


「このままでは、(らち)があきません。私とε(イプシロン)で出陣をすれば、この男の要求は叶えていることになります。それに、部族連合の戦況を確認するには、丁度いいかもしれません」


 セシルは何も言わないが、絶対に、それを許す気はないようである。


「大丈夫です。頃合いを見て、後方に下がり、部族連合の戦い方を確認するだけです。王国軍が競り合って焦っている混乱の中なら、すぐに退散できるでしょう」


 イシュトールとユーリカは――最悪の場合を考えて、重装備をさせてきてはいる。


 それは、解ってはいるのだ。


 だが、全く義理もなにもない隣国の戦に、二人を投げ込むつもりなど、セシルには毛頭ない。――それと同時に、この無茶を強制してくる能無し男のせいで、要求を呑まなければ、セシル達は、この場で拘束されたままになってしまう。


 強行突破はできないことはないが、荷馬車を引いている子供達は、どうしても足並みが出遅れてしまう。その間に、兵士達に囲まれて攻撃でもされたら、怪我どころでは済まないだろう。


 セシルは――あまりに珍しく、その苛立ちを隠さず、そして、あからさまな侮蔑も隠さず、中尉に向き直った。


「いいでしょう。二人、騎士を出しましょう」

「二人? 全員出せ」


「彼らは傭兵ですよ。一日、10アルジェンティ、そして危険手当で倍額。一人につき、20アルジェンティ払ってもらいましょうか」


「20アルジェンティ!? そんな金なんか払えるかっ」

「タダで傭兵をコキ使おうなど、奴隷並の使役でしょうね。ギルド商会での契約違反で訴えられたくないのなら、いい加減、その口を閉じることを提案するが?」


「あぁ? そんなもの、知るか」

「では、ギルド商会がアトレシア大王国の王宮に苦情を出して、この駐屯地に監査を派遣してもらいましょう」


「なっ……! なにを――そんなことは、言っていないだろう……。――もういいっ! さっさと出陣しろ」


 プンプンと、勝手に怒り出し、勝手に決めつけて、中尉はズンズンとその場を立ち去っていく。


「マスター」

「――仕方がありませんね……」

「大丈夫です。機を見て、後方に下がりますから」


 だからと言って、戦が勃発している正にその場に出陣させられて、退避する機会をうかがっていても――危険なことには変わりはない。


 道理も弁えない不当な扱いを強制されて、セシルの護衛は戦に強制参加だ。


 ゾワッ――と、側にいるセシルの付き人達だって、一瞬、身構えそうになった瞋恚(しんい)が肌を突き刺し、全員がセシルを振り返った。


 セシルは、普段からも感情的になったことはないし、いつも落ち着いていて、冷静沈着だ。感情も激しくなく、穏やかな態度を変えたことがない。


 だが、今は、その口に出されない静かな怒りが、沸々と全身から湧き上がっているかのようで、ここまで本気で怒りを露わにしたセシルを見るのは、全員が初めてだった。


「二人とも、気を付けて」

「わかりました」


 イシュトールとユーリカはマントを脱ぎ捨て、装備を確認しながら、その場を去っていく。


「二人の馬を」

「わかりました」


 全員が馬に乗り上げ、動き出す。セシル達は移動をし、今まで陣を取っていた場所に戻って行き、馬から降りていた。


「あの男、絶対にこの貸しを支払わせてやりましょう」


 肌の上がゾワゾワしてきそうな淡々とした――でも、怒ってもいなくて、あまりに端的な声音だけに、一緒にいるだけで、嫌な心拍数が上がりだす。


「マスター……」

「私を本気で怒らせた償いは、絶対に、支払わせてやりましょう」


 何をするのかは告げないのに、あまりに不穏な空気をまとい、淡々とした表情の中に、あまりに――不気味な薄い、薄い微笑が、口元に弧を描くように浮かんでいた。


 ゾワゾワと、無意識で、背中が震えてしまう。


 こんな――セシルを見たのは、初めてだった……。

 戦の不安よりもなによりも、不穏な不気味さが勝って――このセシルを警戒すべきなのだろうか……。



* * *



 昨夜、深夜になり始めての部族連合の襲撃。


 駐屯地に残っている王国軍は、両方の門の前で陣取って、兵士達の立ち並ぶ大仰しい壁は作ってはみても、所詮、統率もされていない躾もなっていない烏合(うごう)の衆。


 部族連合は領門を超えて、その場でまたも無情の虐殺が次々に行われていた。


 押し留まって、必死になってただ剣を構えて動かない王国軍をあざ笑うかのように、数十騎の騎馬がその山を飛び越え、崩し、穴が開いた場所に、一気に部族連合が攻め入ってきた。


 王国軍が攻防しようが、元から役立たず集団。


 おまけに、連なるように配置された兵士の山だけに、最前線の兵士達がパニックして逃げ出そうにも、逃げ道はなし。


 それで、仕方なく戦に参戦。


 だが、部族連合の兵士達は、好き勝手に進撃しているように見えて、一人一人の連帯が取れていて、王国軍の兵士達が、波のように一気になぎ倒されていた。


 前線では、またも、地獄絵と化した暗闇。


 だが、南東の砦と同じように、部族連合の兵士達は深入りはしてこない。


 一体、何が目的なのかは知らないが、前線にいる兵士達を斬り落とし――むしろ、尻込みしている兵士達を嘲弄しながら、まるで剣舞を踊りながら、蹂躙する様を酒の肴にしているかのような余裕さえあった。


 闇が深まり、膠着状態が続き、朝日が昇り始める頃には――やはり、予想された通り、負傷して倒れ伏す王国軍の兵士達、または、動かなくなった(しかばね)の山だけが残る。


 その日の駐屯地は、息もできないほどの緊張だけが続き――そんな状態が長時間も続けば、何かの拍子で、プツンと張り詰めた緊張が切れてもおかしくはない。


 ただ、互いに見合って、睨み合って、膠着(こうちゃく)状態。


 明け方、戦の強制参加をさせられたイシュトールとユーリカが、セシル達の陣の方に戻って来た。


 セシルは二人が出陣してからずっと、その場で一人立ったままだった。


 ただ、いつもと変わらないような冷静沈着な様相も、態度。それなのに――その内で、沸々(ふつふつ)と湧き上がっている静かな怒りだけが、その場の空気を制圧していたほどだった。


 ピリピリと、息が詰まるほどの、その静かな怒りだけが、セシルの感情を露わにしていた。


 二人は大きな外傷もないようで、戻って来た時に、擦り傷程度の傷の手当てをしてもらい、全員が、それから順で仮眠を取ることになる。



読んでいただきありがとうございました。

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