Е.в 婚儀の準備と言うのは - 04
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おまけに、十周年記念の式典で着たドレスで、こちらは王立学園卒業祝いのドレスで、新年のドレスで――と、軽く十着ほど、過去の着ていたドレスを持ち込んだのではないだろうか。
普段、セシルの邸内では、外部からの出入りがほとんどない。だから、自慢できる話し相手が現れて、侍女達やお針子達が喜んでいる気持ちは分からなくはない。
それで、セシルも、みんなの“お披露目”を止めはしない――が、侍女達は、嬉しそうに、延々と、セシルのドレスが、ドレスを着たセシルがああだこうだと説明し、その説明が未だに続いている。
仕立屋の主人フレイとその後継ぎの娘カリーナは、その長い説明を聞きながら、一切、口を挟まない。
社交辞令と王宮マナーで、礼儀正しく口を挟まないのかしら? ――と思ったセシルの前で、どうやら、この二人も、見慣れぬデザインのドレスを見て、素直に目を輝かせている。
ええ、ええ、そうですわねえ……。
もちろん、そうですとも。
専門のドレス職人なのだから、自分達の知らないデザインのドレスを見て、その職人意識が触発されないはずがない。
レースが、宝飾が、刺繍が、この襟口が――留まるところを知らない“お披露目”でも、二人とも、実は、かなり興味津々だったのだ。
「こちらの藍のドレスは、マイレディーの正式な領主就任をお祝いしたもので、第三王子殿下がいらしていた時の豊穣祭に、マイレディーが身につけられたものなんですよ。それで、アトレシア大王国の夜会に招待されました時、第三王子殿下からのたってのご希望で、このドレスを、夜会でも身に着けられました」
「まあっ。そうでしたか」
これが、王妃アデラが話していた噂のドレスだったらしい。
一つ指摘するが、ギルバートは、一言だって、そのドレスを着てこい、とセシルに希望したことはない。
「その時に身に着けられていたネックレスは、第三王子殿下から贈られたものなのですよ」
「まあっ」
いやいや……。
そんなところで、いかに、あのギルバートが自分達の主を大切にしているか、など主張――自慢しなくてもいいものを。
おまけに、なぜ、邸の侍女達が、いかにも自慢げにそんな話をするのか……。
困ったものだ……。
「そのネックレスを、見させていただいてもよろしいですか?」
「もちろんでございます。こちらにご用意しておきました」
準備万端でやって来ていたオルガだった。
もう一人の侍女に手伝ってもらい、薄い箱を開けて、中身を見せるように、二人の前にその箱を並べていく。
「まあぁ……っ……!」
「おぉ……!」
ネックレスを見ただけで、二人は絶句したように、言葉につまる。
きらきらと、ダイヤモンドが並べられた中央にある大きなサファイヤ。そして、繊細な模様が、滑らかに首元を飾るように、精巧な技法で造られたネックレス。
きっと、希代一とも呼べる宝石彫刻師が手掛けたと言っても過言ではない、特注の逸品である。
王族が受け継いでいく、王家の宝石類と肩を並べるほどの、重厚な高級品だった。
「――ねえ、お父さんっ。これほど素晴らしいネックレスだもの。このネックレスに合わせて、ドレスも他のアクセサリーも、仕立てたらいいんじゃないかしら?」
「確かにね、それはいい考えだ」
興奮している二人は、ハッとして、その顔を上げる。
ドレスのデザインを決めるのは、セシルなのだ。仕立屋の二人ではない。
「ええ、その方向でお願いしますね」
だが、セシルは全く気分を害した様子もなく、静かで落ち着いた様子のままだ。
その答えを聞き、二人の顔も嬉しそうに綻んでいく。
「わかりましたっ」
「――失礼でございますが、こちらのネックレスは、カー・サルヴァソンの作品でいらっしゃいますか?」
「すみません。私は、王国での宝石彫刻師の方を存じ上げませんもので」
「あっ、いえ……」
隣国にいるセシルが、アトレシア大王国の宝石彫刻師の名など知らないのは、当然である。
「申し訳ございません……」
「いいえ、お気になさらずに。カー・サルヴァソンというお方は?」
「王国一の宝石彫刻師として名高い技術師です。まだ若い彫刻師なのですがね、独創的なデザインが多く、王都内でも、若いご令嬢たちに、とても人気がある宝石商です」
「まあ……、そうでしたの……」
まさか、あのギルバートが、そんな有名な宝石彫刻師から、セシルのネックレスを作らせたのではないだろうに……。
さすがに、お礼としてどうぞ――なんていう次元のネックレスではないではないか。
「もし、ご迷惑でなければ、確認することもできますが?」
「刻印でも刻まれているので?」
「ええ。確か……サルヴァソンの“S”を取って、それに、王国の象徴である剣を絡ませていた、というような話を耳にしますね」
「そうですか。では、お願いします」
「はい。失礼いたします」
落とさないよう、細心の注意を払い、フレイが薄い箱を手にとって、宝石に触れないよう、包まれている光沢のある滑らかな赤い布で、少しネックレスを持ち上げた。
留め金の部分を覗き込むようにして、
「――ああ、ありました。このネックレスですと、“S”が横に倒されていますが、“S”が剣にからまるような印が刻まれておりますね」
「そう、ですか……」
信じられないことである……!
あのギルバートは、いくら――セシルに惹かれていたからといっても、王国一とまで名を馳せる宝石彫刻師を選んで、わざわざ、セシルの為にネックレスを作らせたなど……!
今は、セシルはギルバートと婚約したから、一応、そんな高価な贈り物ももらっていいのかもしれない(セシルは気が重いのでやめて欲しい……) が、以前は、ただの知り合いである。
読んでいただきありがとうございました。
Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)
Fakamālō atu ʻi hoʻo lau e tohí ni.