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Д.д 心配だから - 04

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「そのような辛い中でも、あなた達は、今ここで、簡単に諦めてしまうのか、それとも、必死で生き抜いてみせるのか、その決断をしなければなりません。自分一人だけが生き延びるのも良し。そうでなければ、あなた達は、一体、自分達で何ができるのかを学ばなければなりません。冬支度の前に、食糧確保を心配するのなら、それもそれで良し。ただ、そこまであなた達が生き延びれば、の話でしょう」


 ひっ……と、領民達がひどく怯えてしまっている。


 だが、セシルは態度も変わらず、ただ、どこまでも落ち着いたその静穏な藍の瞳を全員に向け、


「冷たいことを言っていると思うかもしれません。ですが、現実を、現状をしっかりと把握しなければ、今のあなた達は、自分達だけで生き残れるのですか?」


 もう、状況確認も、災害や被害状況も、全ての確認は終えた。


 この状況なら、セシル達は今すぐこの場を去っても、文句を言われる筋合いはないのだ。善意だけで世界を、民を救えるのなら、そんな簡単なことはない。


 この世界は、そんな甘い世界ではないのだ。


 焦心に駆られたように、領民達が顔を見合わせて、どうしようか……、どうしようか……と、迷ったまま何も答えが上がらない。


「……申し訳、ありませんでした……」


 セシル達の前で、年老いた村長が、深く頭を下げてきた。


「謝罪は、必要ありません」

「いえ……。コトレア領の、領主さま……。どうか、伯爵がいらっしゃるまで、われわれに、お力を貸していただきたいのです……」

「あっ……おねがいします……」

「……おねがい、いたします…………」


 バタバタバタと、その場に集まっていた領民全員が、村長と同じように、地面に頭をこすりつけていくかのように、頭を垂れていく。


 おねがいします……と、必死で、悲壮な様相も露わらに、全員が頭を下げていた。


「顔を上げてください」


 だが、誰一人として頭を上げる者がいない。

 それで、沈黙だけが降り、次の言葉も、なにもなかった。


 ただ、シーンと、沈黙だけが続いていて、頭を下げている領民達も――どうなっているのか……、不安げに、つい、顔を上げてしまった。


 頭を上げた先で、セシルは、ただその静かな眼差しを領民達に向けているだけだった。


「…………?」


 今度は、この状況が理解できず、半部だけ顔を上げたような領民達は、更に困惑をみせる。


「顔を上げてください。二度は言いませんよ」


 命令されているのでもない。

 厳しく叱られたのでもない。


 ただ、どこまでも落ち着いた、穏やかな、そして、静かな口調で、セシルが繰り返しただけだった。


 意味が分からず、領民達が、一応、顔をゆっくりと上げてみた。


「このような非常事態では、わらにもすがりたい気持ちはよく解ります。ですが、今のあなた達は、誰かにすがって、自分の生きる責任を押し付け、ただただ、救済を待っているだけです。待っているだけでは、生き抜いて行くことなどできませんよ」


 そんな風に断言されても、領民達は何をすればいいのかも分らず、どうすればいいのかも分からない。


 不安げな瞳がセシルを見上げている。


「あなた達は、自分達で生きていく責任を持ち、前に進んで行かなければならないのです。領主様がしてくれなかった。隣の領主様がしてくれなかった。そのような他人任せの甘ったれた考えでは、生き抜いて行くことはできません。なんにでもしがみついて、明日を見てみたいのなら、自分自身で生き抜いて行かなければならないのです」


 セシルの迷いのないはっきりとした声音が、セシルの言葉を伝えていく。そして、その意志の強さを映した藍の瞳が、一度だって揺らいだことがない。


「その行く道が分からないのであれば、私達が手助けをしましょう。生き抜いていく力がなければ、私達がその知恵を授けることを手伝いましょう。あなた達は、自分達でその決断をしなければならないのです。見捨てて欲しくないのなら、その意地を見せてみなさい」


 セシルを見上げている領民達は――まるで生まれた初めてそんなことを聞かされた、というような、あまりに間の抜けた表情を浮かべ、ただセシルを見上げていた。


 自分達で――責任を持つ? ――それは、一体、どういうことを意味するのか、領民達には考えも及ばない。


 だが、見捨てて欲しくない。生きて、いたい……。

 それだけは、誰もが変わらない事実だった。


「…………どうか、よろしく、お願いいたします……」


 村長が、今度はさっきとは全く違った意味で、しっかりと頭を下げていた。

 それに見習って、他の領民達が頭を下げていく。


「……よろしく、おねがいします……」

「……よろしく、おねがいいたします…………」


 その様子を見ていたセシルの瞳が細められ、


「いいでしょう」


 ああぁ……その言葉を聞いて、領民達が安堵して、少しだけ涙を浮かべる者もいた。


「あなた達は、これから辛い時を過ごすことになるかもしれません。ですから、これからの数か月、そして、冬越え。生き抜いて行く為には、まず、全員が互いに力を合わせなければなりません。さあ、顔を上げてください」

「……はい……」


 全員がおずおずと顔を上げる。



読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


Thanks sa reading ya kak..

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