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Д.г 恥を知れ - 06

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「王宮に救済要請を出す場合、私の名前は伏せておいてください」

「どうしてでしょうか?」


「コトレアは、地理的に近隣の領地と言うことで、災害状況の確認には出向きました。ですが、王宮側からそのことについて、一々、詮索されるのは迷惑です」


 あまりにきっぱりと、疑う余地もないほどに、言い切られてしまった。


「わかりました。ヘルバート準伯爵のことは、一切、述べませんので、ご安心ください」


「ありがとうございます。私の領地の者が、まだボイマレに残っていますので、明日、またボイマレに発つ予定です」


「あの……私も、一緒に同行させてくださいませんか?」


「それは構いませんが、まずは、明日、私達が発つ前に、あなたのこれからの計画を聞かせていただきましょう。それにより、私の領地の者をいつ帰還させるべきなのか、こちらとしても、判断しなければなりませんので」


「あっ、はい。わかりました」


 そこで二人の会話が終わっていた。


 呼び鈴を鳴らしたセシルの元に執事のオスマンドが姿をだし、オラフソン伯爵家嫡男を連れて、二人が執務室を後にしていた。


 その気配が消えて、執務室にはセシルとギルバート達が三人だけとなった頃、ギルバートがセシルの方に向いた。


「随分、手をかけて、(しつけ)なさるんですね」


 先程の二人のやり取りを見やりながら、なんだか、あまりに親切なセシルの態度に、ギルバートも少々の不思議が上がっていたのだ。


 先程のセシルは、手厳しくではあるが、それでも、あの伯爵家の嫡男に、領主の何たるかを教え込んでいるように見えた。


 迷惑を押し付けられたのはセシルの方なのに、わざわざそんなことをして何の利益があるのか、ギルバートも、少々、不思議になってしまう。


「仕方がありません。彼には、しっかりと領主としての責任を持ち、ボイマレを統治してもらわなければなりませんから」

「なぜですか?」


「王宮側が救済要請に承諾しなかった場合、ボイマレの領民は、難民としてコトレアになだれ込んでくることでしょう。現状では、コトレアでは、難民を受け入れる対策は整っていませんし、私も、ただの同情から、他の領民を引き入れることはしません」

「なる、ほど」


 セシルはそこまでの先を読んで、そして、セシルがしなければならないこと、できることを、すでに決めていたのだ。


 だから、全く関係もないのに、オラフソン伯爵家嫡男に、領主の責任と立場というものを厳しく説いていた。


 なによりも、セシルのボイマレに対する対応も、決断も、もうすでに決めていたのだろう。


 セシルの領地は他の領地とは全く異なった政策もあれば、制限や規制もある。そして、領民達は、誰かれも、領地の領民として招かれるわけではない。


 人を選んで差別していると言われるかもしれないが、セシルの領地には、子供達がたくさんいる。

 その子供達の安全を一番に考慮するのなら、誰かれも、見知らぬ人間を領地に引き入れることはできない。


 そんな危険を冒し、今ある領地の平和を脅かすことは、セシルには許されていないのだ。


 だから、他領の難民を見放すような決断を迫られても、セシルは揺らがない。


 セシルの領主としての責任は、万人を救い、皆平和な世界を作ること、ではないから。


 領地を守り、領民を守ること――それだけが、セシルが最優先しなければならない、重要課題だったのだから。


 だからと言って、その決断を下す時に、「人」 として、個人として、その決断に苦しまないはずはないだろう。


 他人を見捨て、知り合いを優先させる。


 優劣をつけるのも、全てセシル一人の判断で、その肩一つに、一人の人間の生死がかかってしまうほどの、とても重い決断になってしまうのだから。


「あなたの行動には、本当に、一切の無駄がありませんね」

「そうでしょうかしら?」

「ええ、そうですね。ですから、私は、そんなあなたを、誰よりも尊敬しております」


 まさか、ギルバートからそんな言葉を聞かされるとは思わず、セシルもポカンとして、ギルバートを見返した。


 ギルバートはセシルと目が合うと、これでもか、というほど優しい表情を向け、セシルに微笑んだ。


「誰よりも、何よりも、あなたを尊敬しております。その尊い存在が、私の側にいてくれるという事実に、私は、誰よりも光栄に思っています」

「……あ、ありがとう、ございます……」


 なんだか、少し照れてしまいそうなセシルだ。


 セシルの態度や行動を見て、



「避難民を見捨てるなんて冷たい女だ、人でなし」



とギルバートは非難したり(ののし)ったりすることもなく、まさか、その態度を見て尊敬しているんだ、なんて言われるとは、セシルも思いもよらなかったのだ。


 そうやって、セシルを本当の意味で理解してくれるギルバートを見て、セシルもちょっと感動してしまった。


 この世界にやって来て、初めてのことだった。


「失礼致します」


 オラフソン伯爵嫡男を送り出した執事のオスマンドが、客室に戻ってきた。後ろにはメイドが控えていて、セシル達の前で深いお辞儀を済ます。


「お茶をお持ちいたしました」

「あら、ありがとう」


 一応、客人であるオラフソン伯爵嫡男にはお茶を出していたが、手つかずのまま、冷めたカップがテーブルの上に残ったまま。


 そして、ただオラフソン伯爵嫡男の確認にやって来ただけのセシルには、お茶が出されていなかった。今は必要ないから、という指示で。


「お二人も、どうぞ、お掛けになってください。小休憩代わりに、お茶でもいかがですか?」

「では、いただきます」


 セシルに勧められて、先程までオラフソン伯爵嫡男が座っていた椅子に、二人が腰を下ろす。


「マスター。お話はいかがでしたか?」

「予想通りと言えば、予想通りでしたね」


 邸に戻ってきたセシルは、オスマンドとフィロの二人からちゃんと昨日の報告を受けている。


「領民を見殺しにして確認にもやってこない伯爵とは違い、嫡男の方は、一応、良心の呵責はあるようですけれど」

「そうでありましたか」

「それにしても――なんだか、最初から最後まで、随分、腰の低い貴族でしたわ」


 それをこぼしたセシルの独り言を聞いて、オスマンドが少々ほくそ笑んだ顔をする。


「そうでしたか。それは、フィロのおかげかもしれませんね」



読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


Faafetai mo le faitauina o lenei talafatu

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