Д.г 恥を知れ - 03
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サブタイトルにも、章のタイトルを一緒にいれてみることにしました。今まではアルファベットとナンバーだけでしたが、どうでしょうか? 少しは読みやすくなったでしょうか?
「自領の民を見殺しにし、全く無関係な他領を救う為に多大な迷惑をかけられている我が領主様に対し、伯爵自ら挨拶とお礼にも顔を出さず、一体、どんな重要な所用があると言うのです? 国王陛下にでも召集されているのですか?」
ぐっ……と、痛いところを突かれて、アリーもそれ以上何も言えない。
「災害による食糧難で、これからの冬越えに必要となる食糧の供給が最優先だと、ヘルバート伯爵の手紙に記されていたはず。その食料は、今、一体、誰が補ってやっていると思っているのですか? 無関係の他領の問題であるから、民を見殺しにしようが、我が領主様には一切の関係はない。それなのに、領主様の慈悲のおかげで、オラフソン伯爵領の民は生き延びることができた。怪我の手当てをされた。生き抜く為に、我が領主様に保護された。その感謝は、一体、どこにあるのです?」
冷たく感情もなく叩きつけられて、グッと、唇を噛んだままアリーは黙り込んでいる。
「恥を知れ」
「――!」
あからさまな侮蔑を含み、感情など一切見られない冷たい態度でそれを言い捨てられて、アリーの瞳が飛び上がっていた。
「なにを――」
「恥を知れ」
フィロは淡々と、あまりに冷たく、あまりに軽蔑した態度で、またそれを言いつける。
「領民を見殺しにするような情けない領主が、偉そうにふんぞり返っているなど、恥を知れ」
苛烈な責めを投げられて、アリーは唖然としたまま立ち尽くしていた。
アリーの経験から言っても、伯爵家という高位貴族であるアリーに、こんな風に、あからさまな軽蔑を含み感情もなく叱り飛ばされたのは、今日が初めてだったのだ。
さすがに、自分より身分の低い執務官に叱り飛ばされただけに、激怒して、執務官であるフィロを不敬罪で罰してしまっても、誰も文句は言えないはずだった。
だが、信じられない経験をしてしまったせいか、アリーは立ち尽くしたまま、言葉を失ってしまっている。
傍で控えていた執事のオスマンドも、顔には出さず、フィロの態度を見て、心底困ったような顔をしていたのは言うまでもない。
一つ間違えれば、フィロの言動のせいで、フィロがその場で罰せられても、誰にもフィロを庇い立てすることなどできないのだ。領主であるセシルは、今は不在。そんな場で、貴族に対して不敬を働いてしまったフィロの立場は、とても危ういものだ。
(本当に、困ったものだ……)
フィロの憤りも、激怒も、オスマンドには痛いほど理解できるものだ。豊穣祭を終えたばかりのセシルに、全く余計な無理と迷惑をかけて、今のセシルは、もう、どこでもぶっ倒れてもおかしくないほどの過労が溜まっているはずだった。
おまけに、この領地の物資も食料も、おまけに、余計な資金源も食い潰し、その礼もなければ、感謝もない。五日も経って、やっと、顔を出したオラフソン伯爵家の者は、領主でもなんでもない、ただの貴族子息。
セシルの慈悲と行為を馬鹿にしているのか、とフィロが激怒する気持ちは、オスマンドだって重々に理解している。
その気持ちは理解していても、その行動は――少々、奨励できるものではない。
貴族を相手にしている平民や、使用人は、どんなに理不尽であろうとも、どんなに不公平であろうとも、貴族に立てつくことは許されていない。
セシルはそんな悪癖を奨励していないからこそ、コトレア領だけは、民が保護されている場所なのだ。他の貴族が全員セシルのように寛大か、と言えば、絶対にそんなことはあり得ない。
この場で、フィロの首が即座に飛ばされなかっただけでも、幸いだろう。
「頼まれてもいない多大な迷惑を被っているのは、領主様です。あなたは伯爵家の嫡男だと言いましたね? では、今すぐ、この領地が貸し出した物資及び食料全て、返済してもらいたいですね」
「それは……!」
「そして、災害救済にかかった費用全額を。今のあなたに、その裁断権があるのですか? オラフソン伯爵家の資産を動かす権利が、今のあなたにあるのですか?」
グッと、アリーは口籠る。
なにしろ、領主である父親は、ボイマレの災害の件に対し、全く関与する気がない態度を示している。
そんな父に、ヘルバート準伯爵に借りた借金や物資などを返せと頼んでみても、あの父親がそんな要請に耳を貸すはずもないことは、アリーが一番に理解していた。
「コトレア領にやって来ていながら、食料もなければ、救済資金も持ってきていない。我が領主様が、無償の救済をしてやっているとでもお考えなのですか?」
「そのような、ことは、ない……」
だが、アリーは身一つでコトレア領にやって来たはいいが、実際の所、災害救済できるような援助金も用意してなければ、物資も食料も運んできてはいない。
役にも立たないアリーがコトレア領に顔を出しても、本気で自領を心配しているなどとは、誰も考えはしないだろう。ただの社交辞令で顔を出した、なんて傲慢で失礼な奴だ――程度の認識だろうから。
「領主様不在の間、外部の者をこの邸に留まらせておくことはできません。領主様の帰りをお待ちになると言うのでしたら、宿場町で宿を取るより他はないですね」
容赦のないフィロは、不敬罪もどきの失礼な態度も変わらず、その場でアリーをすっぱりと切り落としていた。
勝手に追い払われてしまい、アリーの立場もなにもあったものじゃない。
「では、宿場町の宿屋までご案内致します」
絶妙のタイミングで、執事のオスマンドがその間に入っていた。
チラッと、執事を振り返ったアリーの顔は苦々しく、何かを言いたげな表情ではあったが、この場で、アリーが文句を言える立場ではないことを、一応は理解しているようだった。
それから、執事のオスマンドに連れられ、邸を後にしたアリーは領地の騎士達に案内され、宿場町に向かっていった(追い出されていた)。
読んでいただきありがとうございました。
Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)
Vă mulțumim că ați citit acest roman





