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* Д.г 恥を知れ *

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 アリー・オラフソンは、 オラフソン伯爵家の嫡男で、まだ若い青年だった。20代前半くらいの年齢で、青年らしい若々しい印象を受ける男性だ。


 ヘルバート伯爵家から飛ばされた急使を受け取り、自領の非常事態を聞いて、王都からコトレア領までやって来た青年だった。


 領境(りょうざかい)の検問を受け、活気ある領地内に入っても、また、門の前で検問を受け、やっとヘルバート伯爵家の邸に通されたものだ。


 随分、念入りに、入場の手続きがされていたように思えたが、まあ、他領のしている習慣や決まりごとに口を出す為に、アリーがわざわざ遠方まで訪ねて来たのではない。


 邸の前で馬車が止まり、馬車から下りて行くと、その前に執事らしき男性がアリーを待っていた。

 自分がオラフソン伯爵家嫡男である旨を話し、ヘルバート伯爵に面会を求めてみた。

 執事は、確認を取りに行かなければならないと、アリーをその場に残し、邸の中に戻って行った。


 しばらくして、アリーは客間のような部屋に案内されていた。

 執事が押さえている扉を通り過ぎ、部屋の中に入っていたアリーは、そこで足を止める。


 ヘルバート伯爵は年配の男性を予想していたので、全く自分の予想とは違った――随分、若い青年を見て、アリーが足を止めていたのだ。


 部屋に入って来たオラフソン伯爵家嫡男を、フィロは無表情に見返していた。


 セシルがボイマレの災害救助作業で多忙な為、領地内での問題は、フィロと執事であるオスマンドの二人で扱っている。


 その時に、オラフソン伯爵家の者がコトレア領にやって来た場合、セシルの父であるヘルバート伯爵を呼び出す必要はないと、フィロとオスマンドはそうセシルから説明されている。


 非常事態の急使は、父であるヘルバート伯爵家の名前で飛ばしてもらったが、この領地にやって来る外部の人間の扱いは、セシルの管轄内である。


 ヘルバート伯爵家の名前だけを聞いて、コトレア領がまだヘルバート伯爵領だと思い込んでいるような貴族なら、他家の情報も手に入れず、その程度の調査も済まさずに、このコトレア領にやって来たことになる。


 まずは、王都で起きた王立学園卒業式でのハプニングは、どれだけ噂になっているのか、どのくらいの噂になっているのか、その最初の態度で判明するだろうと、セシルから説明されていたのだ。


 どうやら、この若いオラフソン伯爵家嫡男は、コトレア領が“準伯爵”の位を授かった、ヘルバート伯爵家の長女・セシルが領主となっている事実を認識していないらしい。


 初歩の初歩である内情調査も済ませず、自分の宿題もやって来なかったようである。

 そんな無知のまま、よくも、コトレア領に足を一歩踏み込めたものだ。


 全く関係もない他領の民を救う為に、わざわざと、セシル自身が多大な労力を()ぎ込んでやっているというのに。


 あまりに無表情にオラフソン伯爵家嫡男のアリーを見返している若い青年の前で、シーンと言気まずい沈黙だけが降りている。


 椅子を勧められたのでもないので、足を止めたアリーは、その場で立ち尽くしている状態だ。


 若い青年は、黒の燕尾服に近い――制服(?) を着ていた。クラバットの代わりに、洒落た濃紺のスカーフが首に巻かれ、濃紺と銀の刺しゅうがされたベストとジャケットは(しわ)一つない。


 履いている黒い靴は、一点の曇りがないほどにきれいに磨かれているものだ。

 どこから見ても、一切、乱れのない完璧な整いだった。


 フィロは、今まで執事見習いとして、オスマンドと同じ黒い燕尾服を着ていた。


 だが、フィロの16歳の誕生日を迎え、成人を迎えたフィロは、領地の正式な「執務官」 として、領地の(まつりごと)を任される立場になった。


 その時に、セシルがフィロの制服を作り直したのだ。



「あら? 新しいポジションができましたもの。せっかくですから、新しい制服でも作ってみましょう?」



 要は、セシルの趣味で新たな制服を作りたい、という個人的な望みだったのだろうが、フィロは制服があたるのなら、洋服を買い替える必要がなく簡単で、文句もない。


 与えられるものがあるのなら、もらうだけだ。


「――私は、オラフソン伯爵家嫡男、アリー・オラフソンと言います」


 だが、最初の挨拶にも、全く返事が返ってこない。

 ただ、あまりに冷たい眼差しが、ジーっと、向けられているだけだ。


 気まずい沈黙に、気まずい雰囲気で、アリーも困っているようだった。

 それで、その沈黙が嫌なのか、無言の圧力に押されたのか、また口を開いた。


「実は……今日は、ヘルバート伯爵より知らせていただきました、ボイマレの災害の件にて、こちらに伺わせていただきました」

「遠路遥々、よくお越しくださいました」


 そして、全くそんな風には思っていないだろう口調だ。感情など微塵もなく、無表情で、その冷たい眼だけが、ジーっとオラフソン伯爵家嫡男を見返している。


「私は、領地の執務官を務めております、フォルテと申します」


 まだ少年に見えなくもない、あまりに若い執務官を前に、オラフソン伯爵家からやって来た男性も、かなり度肝を抜かれてしまって、微かに唖然とした様子が垣間見える。


 アリーは、貴族の子息である。通常なら、領地の執務官と言えど、オラフソン伯爵家嫡男の方が位が上なのは明らかだ。


 領地の執務官が元貴族だったとしても、“伯爵”より上の高位貴族を、ただの領地の執務間にするはずもない。王族に仕えるのならまだしも、わざわざ、高位である立場を捨てて、領地程度の執務官になるような、そんな奇異な行動を取る貴族などいないだろうから。


 執務官が貴族ではなく平民だったのなら、尚更に、相手の方がオラフソン伯爵家嫡男にきちんと礼を取らなければ、不敬罪ものだ。


 そのどちらにしても、オラフソン伯爵家嫡男よりは位が低い立場にいるはずの執務官は、アリーの前で頭を下げることはなかった。



読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


Spas ji bo xwendina sees romanê

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