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Д.а 予期せぬ - 10

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 男自身がパニックしてしまい、そのまま自分の荷車を引いて、コトレアまで逃げ出してきた形だっただけに、山に残して来た息子と甥のことを、すっかりと忘れてしまっていた。


「ボイマレの入り口は土砂で塞がれているようですが、子供達が心配して、土砂の中を登り始めないといいのですが……」


 どうやら、セシル達にもあまり時間の猶予はないようである。


 子供達がどのくらいの年齢なのか定かではないが、土砂崩れの現場を目撃して、この男のようにパニックして、村に入ろうと、必死に土砂崩れの場を登ってしまったのなら、最悪の状況である。


 土砂崩れがどれほどの規模で、どれほどの強さで起きたのかは知らないが、土砂が安定していない場をうろつき、足場を失い、その場で土砂に埋もれてしまったとしたら、怪我どころか、地中に埋もれて死んでしまう第二災害だって想定できる。


「私達の領地でも、今からその準備をしなければなりません。その間、ここで休んでいてもらいます」

「は、はい……。わかりました、領主さま……」


 護衛の騎士一人を残し、全員がその部屋を後にする。


「オスマンド。軽食でも出してあげて。温かいスープなどがいいでしょう」

「かしこまりました」


「それから、今すぐ全員を召集してください。お父様達も入れてね」

「かしこまりました」

「では、取り掛かって」


 オスマンドはすぐにその場を立ち去り、セシル達は会議室へと足を向ける。


「あまり時間がないようですので、説明を終わり次第、たぶん、私達はボイマレへ()つことになるでしょう」

「そうですか」


 セシルの隣を歩いているギルバートも、非常事態に近いボイマレの現状に、難しい顔をしている。


 セシルのこの行動力なら、現状を把握する為に、セシル自身がボイマレに()つのは目に見えている。


「ゲストの皆様のお世話ができなくなってしまい、申し訳ありません」


「そのようなことは気にしないでください。天災など、滅多にあることではありません。我々の手に及ぶ現象でもありませんので、セシル嬢が謝罪なさる必要など、どこにもありませんよ」


 理解あるギルバートの優しさに、セシルもほっとする。


「ありがとうございます、ギルバート様」

「そこは、礼を言われる場でもないと思うのですがね」



* * *



「ボイマレで土砂崩れが起きたようです」


 会議室に召集された全員が、その一言で、驚くと同時に、予期せぬ災害などという恐ろしい事態に心配そうに顔を歪めてしまう。


「ボイマレから離れていた民が、偶然、土砂崩れを目撃したようです。それで、ショックで混乱したまま、コトレアに逃げ込んで来たのでしょう。簡単な事情の説明を聞く限りでも、かなり大規模の範囲で土砂崩れが起きたようです」


 ボイマレも小さな農村地に近い。コトレアからは、一応、地理的で言えば隣接した村ということにはなるが、馬で2時間ほどはかかる距離にある。


 セシルはコトレア近郊の地理を確認する為に、以前から、コトレアに近いノーウッド王国の南方は、全て調べ済みである。


 だから、コトレアに繋がるボイマレの道――まあ、ガタガタの田舎道で、ほとんど他に誰も行き来がない為、その一本道をずっと南下していけば、ボイマレに到着する。


 ボイマレの村の入り口は、特別、領境(りょうざかい)となるような柵などが建ててあるのでもない。ただ、粗末な木のサインが入り口側にあるだけだ。


 そこから、ポツポツと農村が広がり、農家があり、領民が住んでいた場所だった。


 それでも、入り口から視界に入る全域が土砂で塞がってしまったのなら、かなりの広範囲で土砂崩れが起きたことになる。


 あの村は、両側に傾斜があり、丘が続いているような土地柄だ。入り口側の道が全部塞がれたのなら、片方側の丘からでも、両方の丘からでも、ものすごい量の土砂が崩れてきたはずだ。


 そして、村の外から村の様子が見えないほどの視界が塞がれてしまったのだから、土砂崩れの高さも、家屋以上のものだろう。


 たぶん、付近にあった家屋も、土砂崩れの下敷きになっていてもおかしくはない。

 土砂のスピードにもよるが、平らな場所に広範囲に広がっている可能性も高い。


 おまけに、山に残して来た子供達が村に近づく可能性が大で、土砂崩れを理解していない子供達が、村に戻ろうと土砂を登り始めてしまう恐れがある。


 ボイマレの領民達の安全の確認と、子供達の確認を早急に済ませなければならない。


 セシルの説明を聞いているギルバート達は、円卓には混ざらず、壁側のソファーで待機している。


 だが、さっき、セシルは簡潔な質問をしただけなのに、あれだけの質問で、すでにかなりの状況を把握している事実に、ギルバートも驚きが隠せない。


「それで、皆さんの協力が必要になります」

「ああ、問題ないよ。私達の滞在もしばらく伸ばそう。今は緊急事態のようだからね」

「ありがとうございます、お父様」


 そして、その視線が残りの全員に向けられるが、全員、セシルの指示を待っている様子を確認して、セシルが全員に頷いてみせる。


「では、まず初めに、フィロには、ボイマレとコトレアとの連携役を務めてもらいます。皆も、ボイマレからの村人が避難してきた場合、または、新たな状況変化や情報が送られてきた場合、フィロを必ず通してください。フィロを中継点として、情報統制は、この邸で必ず行うように」


 はい、と全員が返事する。


「シリル、あなたには、豊穣祭の後片付けを任せます」

「お任せください、姉上」


「お父様には、オラフソン伯爵へ、急使を送っていただくことになると思いますわ。それも、今日の状況確認次第ですけれど」

「ああ、そうだね」


「オラフソン伯爵とは?」

「それほど親しい間柄ではないよ」

「そうですか」


 王宮から離れているセシルは、貴族社会の繋がりをほとんど蹴っているも同然だ。


 昔から、もう目立たないように、目につかないように――と、その少女時代の大半を、存在感のない令嬢として偽って来たので、隣にある他領を治めている伯爵家とは、全く関りがない。



読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


Þakka þér fyrir að lesa þessa skáldsögu

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