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В.д 後祭りも、お楽しみ満載 - 03

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「オスミン様。バッグのお金を払ったら、そのまま身に着けられますよ」

「いいんですか?」

「もちろんです」


「ぼくはっ、こじいんのこどもたちみたいに、まえにしてくださいっ。ギルバートおじうえのように、うしろではないんですっ」


 息せきって説明するオスミンに、セシルも優しく頷いていく。


「ええ、わかりました。では、ここで待っていてくださいね。他のカバンも見ていていいのですよ」

「はいっ」


 それでギルバートが会計を済ませに、カウンター側に進む。


「お包みいたしますか?」


 店主の奥さんが緊張した様子で、カウンターの奥で立っている。


「包む?」

「贈り物用などに、少し飾りのついた包装などもできるんですよ」


「ああ、なるほど。ですが――いえ、それは必要ないですね。バッグは柔らかくて、持ち運びが簡単ですから、このままで」


「では、包装は気にしないでね」

「はい……、マスター……」


 お店の奥さんから値段を聞いたギルバートが会計を済ませている横で、カウンターの上に乗っている籠に、セシルの視線が移った。


「あら? ハンカチも売ることにしたのね?」

「はい……。それは、まだお試し用なんですが……」


「いいんじゃないかしら? バッグの柄に合わせたり、バッグを買うついでに、小物ももう一つ、と言う感じで。ね?」

「はいっ!」


 セシルは、いつもこうやって、お店を訪ねたりすると、商売繁盛の秘訣や、ちょっとしたアドバイスをくれたり、店主達に新しい案を譲ってくれたりする。


 それで、店主達もトライしてみようかなと、更に意欲が湧いてくるのだ。


 セシルが籠の中にきれいに並べられているハンカチをパラパラと確認しながら、二つのハンカチを取り上げていた。


「これがいいわね。剣の刺繍が、とてもかわいいわ」

「ありがとうございます、マスター」


 セシルの取り上げたハンカチは、模様付きではなく、シンプルな白のハンカチだったが、四隅に剣の刺繍がされていて、かわいらしいものだった。


「では、これをいただくわ」

「ありがとうございます」


 セシルも会計を終え、ギルバートと共に――まだか、まだか……と、待ちきれないオスミンの元に戻っていく。


「さあ、オスミン」

「うわぁ、ギルバートおじうえ、ありがとうございますっ」


「オスミン様、これは、私からの贈り物です」

「セシルじょうの?」


「ええ、どうぞ。ハンカチです。男の子用に、四隅に剣の刺繍がされていて、とてもかわいいものですので、良ろしかったらどうぞ」

「ありがとうございますっ」


 思ってもみなかった贈り物をもらい、オスミンの頬が盛り上がっていく。


「そのハンカチをショルダーバッグの中に入れて持ち歩けば、手を拭いたり、汚れを落とす時に、いつでも、ハンカチを取り出すことができますね」


 うわぁぁっ、と思ってもみなかった使い方を知って、オスミンの瞳は、きらきらと輝きっぱなしだ。


 それからセシルに手伝ってもらい、自分用のショルダーバッグが胸の前にぶら下がっているのを見て、更に感動してしまうオスミンだ。


 自分でバッグの口を開け、ハンカチを丁寧にしまった時の感想といったら――自分が、随分、大人にでもなった気分で、オスミンはショルダーバッグを見つめたまま動かない。


「このハンカチは、そちらのバッグへ」

「イングラムにもいただけるのですか?」


「もちろんです。子供になにかを贈る時は、兄弟姉妹揃って、全員にあたるようにするのが一番ですもの。それも全員が同じものを。それができない場合は、模様や柄が違っているものや、似たようなものを。そして、全て、値段が近いものでなければいけません」


「そう、なのですか?」


「ええ、そうですわね。親や大人が子供の為に、と買ってくれる贈り物もあるかもしれませんが、兄弟姉妹がいる子供達からしてみれば、一人一人が違うものを受け取るのは、差別になってしまいます。あっちが欲しかったのに、こっちが良かったのに、などと。ですから、年齢が離れていようと、こう言った贈り物は、全員に同じものをするのが、一番ケンカにならない方法ですのよ」


「はあ……。そうですか」


 ギルバートは、兄達と一緒の贈り物をもらったことはないし、「お揃い」 などというものも、もらったことはない。


 セシルと話をする度に、ギルバートの知らない考えや概念が上がってきて、いつも驚かされてばかりだ。


「リドウィナ様は、なにかいいものがございましたか?」


 じぃっと、棚に並べられているバッグを凝視しているようなリドウィナに、セシルが声をかけた。


 ハッと我に返ったのか、リドウィナがセシルを少し振り返る。


「いえ……あの、こちらの袋のようなものが珍しく……」

「それは巾着です」

「きんちゃく?」


「ええ、女性用の手持ち袋のことなんです。棚に並んでいる商品は、少し大きめのサイズで、手提(てさ)げ袋としての形にしてありますのよ」


 セシルが棚から一つ巾着を取り上げる。


「ここの両紐を引っ張ると、袋の口が閉じる形になりますの。そして、開ける時は、こう上から、袋の口を引っ張るだけでいいんですのよ」

「まあ……」


「ちょっと出かける時などに、とても便利なんですよ。布ですから、柔らかく持ち運びにも簡単ですしね」

「ええ、そうですわね……」


「よろしかったら、リドウィナ様も、なにか選んでみては? ――そうそう、お付きの侍女の方と、お揃いとか?」

「えっ……?!」


「それとも、使用人と一緒のバッグは、いけませんでした?」

「いえ……あの…そのような、ことは、ございません……」


 平民や使用人が使うようなバッグを使いたくないと、リドウィナは言ったのではない。


 ただ、自分の――侍女と「お揃い」 のものなど……今まで、考えたこともなかったのだ。


 それで、ただの提案だったのに、リドウィナが、ものすごい真剣な様子で考え込んでしまった。


 いやいや……そこまで、真剣に悩むほどの問題でもないと思うのですけれどねえ。


 なにしろ、この世界の女性用のバッグなど、籐で編んだバスケット ばかりだ。


 高貴の貴族令嬢になどなると、ほとんど、自分で小物を持ち歩くことも、持ち運ぶこともない。



読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


merci d’avoir lu ce roman

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