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В.г 後夜祭 - 06

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 何度、あの姿のセシルを見ても思うが、あれはもう、上に立つ者の資質――といっても過言ではないのだろうか。


 あれは、絶対に、“王者の資質”なはずだから。


 今でも、会場に集まった全員からの歓声が止まない。


 それなのに、熱狂的な支持を受けているセシルが、その手をゆっくりと下ろしていくと、ピタリ、と歓声が止み、一気に静寂に変わる。


「――すごいっ……!」


 周囲の雰囲気に影響されて、オスミンも囁き声になっていた。


 スッと、優雅に、セシルがドレスの裾を掴み、ゆっくりと膝を折りながら、セシルが会場の全員に向かってお辞儀をした。


「みんな、ありがとう。私と共に生きてくれて、本当にありがとう」


 うわぁっ――と、また一斉に大歓声が(とどろ)いていた。――かと思うと、感涙したかのように、泣き出す群れも出てくる。


「マイレディー……!!」

「マイレディーっ……!?」


 大声で歓声を張りあげていた数秒前、そして、今は感涙(かんるい)しきって、泣き出している群衆。


 そのどの光景をとっても、あまりに信じられない光景で――レイフが意味もなく、パっと、ギルバートに向き直っていた。


「すごいでしょう?」


 だが、返事は返ってこない。


 なにかを言いかけたのか、口にしたかったのか、それでも、口をきっちり閉じているレイフは、喋らなかった。


「すごいでしょう? レイフ兄上までも、言葉を失うなんて、滅多に見られない光景だ」


 いや、一生見られない貴重な光景だろう。


 壇上の上で、セシルの元に、執事を含め数人の侍女達が上がっていく。


「おじうえ……、あれはなんですか?」


 なんだか、トレーの上に山のように連なっている物体が不思議で、オスミンが目を凝らして見ている。


「『祝福』 だよ」

「しゅくふく?」

「そう。すぐに判るさ」


 壇上での用意ができ始めたようだが、向こうの列の端で座っているシリルが、ギルバートの方に視線を投げて寄越した。


 「どうぞ」 と、その口の動きが理解できて、ギルバートも微かに驚いていた。


 ギルバートが、最初の『祝福』 を受け取れるらしい。


 ギルバートはセシルの婚約者になったけれど、それでも、この領地で、その立場や身分を見せびらかすつもりはなかったのだ。


 会場全体が静かになったようで、『祝福』 を待つ領民達の前で、ギルバートがオスミンを隣に下ろし、スッと立ち上がった。


 全員の視線がギルバートに注がれていく中、ギルバートはゆっくりと壇上に上がっていく。


 セシルがそっと微笑んで、執事から手渡された小さなケーキを差し出した。

 ギルバートは慣れた様子で、ケーキを両手で受け取っていた。


 それから、スッと、膝を折り屈んでみせる。


 セシルが一歩前に近寄って、少し屈みながら、そっと、ギルバートの髪の毛に唇を寄せた。


「次の一年も健やかに。そして、強く、前に進んでいけますように」

「ありがとうございます」


 ゆっくりとセシルが離れていくと、重さも感じさせず、ギルバートが立ちあがった。


 会場全体が静まり返っていて、全員が、この光景を見守っている雰囲気が伝わってくる。


「この場を少しお借りしても、よろしいですか?」

「ええ、どうぞ」


 礼の代わりにギルバートは頷いて、それから、会場全員に向き直るように姿勢を正す。


「ここに集まったコトレアの領地の皆さん」


 お腹に響き渡るような、強く、低いギルバートの声音が会場中に届く。


「もう知っているかもしれませんが、私は、こちらのヘルバート伯爵令嬢と婚約をしました」


 シーンと、一気にその場が静まり返る。


「ポッと湧いて出てきたような余所者(よそもの)が、皆さんの大切にしている領主であるご令嬢を横取りした、奪ったと思われるかもしれませんが、私は、皆さんから彼女を奪いにやって来たわけではありません」


 きっぱりと言い切ったギルバートに、会場全員の目が釘づけた。


「私は、皆さんほど、ご令嬢を存じていません。それでも、私は、ご令嬢を心から敬服しております。その存在自体がとても稀有(けう)なものだと、このような立場の私が、一番に理解しているつもりです」


 ギルバートの視界の前で、領民達が、全員ギルバートの話に耳を澄ましている様相と気配が伺える。


「ですから、私の事情で、ご令嬢をこの地から離すことになるかもしれませんが、引き離すつもりはありません。この地は、ご令嬢が最も愛した地であり、そして、心の()(どころ)なのですから。その場所を、私は奪うつもりもありません。取り上げるつもりもありません」


 だから、もうすぐ、この領地は、アトレシア大王国に加入するのだ。


 セシルがアトレシア大王国に嫁いでいっても、この領地の属する国は、セシルの所在地と全く変わらない。


 もう、これからは、ノーウッド王国からの介入なんて、全く関係もない話だ。


「私は、ご令嬢が愛したこの地の皆さんに、今、ここで誓います。私は、いかなる時でも、いかなる場でも、私の命ある限り、必ずご令嬢を護ってみせます。絶対に、護り切ってみせます。そして、ここにいる全員に、私の誓いが嘘でないことを、必ず証明してみせます。不肖ではありますが、皆さんに受け入れてもらえるまで、私は誠意を尽くし、皆さんの愛するご令嬢を大切にします」


 それをはっきりと言いきったギルバートが、セシルに顔を向ける。


 スッと、セシルの前に手袋をした右手が差し出され、セシルも自分の手をその上に置くようにした。


 そっと、セシルの手を握りながら、ギルバートがその誓いを込めて、指にキスをしていく。


 うわぁ……っ!


 感激したような、そんな歓声が上がると同時に、パチパチ、パチパチと、拍手も上がった。


 それが引き金となったのか、パチパチと、また違う場所からも拍手が上がり、それがすぐに会場全体に広がって行った。


「ありがとうございます」

「私の本気で、本心です」


 躊躇(ためら)いもなく言いきって、セシルを優しく見つめてくるギルバートに、セシルも瞳を細めたように微笑んだ。


 その光景を見て――感動したように、また会場で泣き声も上がりだす。


「では、他の全員に壇上を譲らなければ、大変なことになってしまいますね。――それでは、また」

「ええ」


 その言葉を残し、登って来た反対側から、ギルバートが壇上を下りていった。


 それを見て、シリルが立ち上がり、オスミンの元にやってくる。


「よろしければ、どうぞ」

「ぼく、がですか……?」


 はい、とシリルは優しく手を差し出した。


 困って、隣にいるレイフに顔を向けると、レイフは頷いてくれる。


 それで、おずおずと、オスミンがシリルの手を取った。

 オスミンの手を繋いで、シリルがゆっくりと壇上を上がっていく。



読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


Täname, et lugesite seda romaani

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