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В.г 後夜祭 - 02

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 レイフのせいで、レイフ以外の人間には多大な迷惑と心配をかけ(まくって)いるのに、そのレイフと言えば、一人だけ、随分と満足した観光を続けている。


 ヘルバート伯爵夫妻も揃い、全員が大広場の会場に向かう。


 ヘルバート伯爵夫妻とシリルは、身内用の特等席がいつも用意されているが、もちろん、王子殿下達とゲストにも、一番真ん前の特等席が用意されている。


 ステージの真ん前にあるベンチだ。

 向こう側にヘルバート伯爵一家が。そして、少し隙間を空けて、隣のベンチにゲストが。


 ゲストが座るベンチの二列目には、王国騎士団の騎士達が護衛として座ることとなる。そして、すぐ間近で、立ちながら周囲を警戒して護衛する騎士達。


 少し離れた場所にも、ちゃんと護衛が配置されている。


 私服を着ていようが、王国騎士団の騎士達がどこにいても帯刀をしているだけに、この厳重な警戒と護衛体制に気が付いている住民達は、何人もいる。


 だが、セシルが招待したゲスト達だけに、住民達は一切そのことについては何もいわない。


 全員が全員、きっと尊いお方達なのだろう、と判断しているので、無闇に口を開かなかったのだ。


 豊穣祭の閉会式も始まり、式典の進行役の挨拶も簡単に終えていた。

 そうなると、これから待ちに待った夕食の時間である。


「皆様にこれを」


 領民達の夕食“争奪戦”が始まって、シリルが向こう側のベンチからやってきた。

 その手の中に、見慣れた小袋が何個か乗っていた。


「これは何ですか?」


「これは、領地で開発された“携帯用食事セット”です。袋の中には、フォークとナイフとスプーンが入る持ち運び用の器があり、おしぼり用のタオル、塩・こしょうを入れられる、小さな小瓶も入っています。それから、飲み物用のカップが。領民は、これで今夜の食事をするんです。残りの準備は皿だけになりまして、随分、手間が省けますので」


「ほう。それは、便利な代物だなあ」

「ガルブランソン侯爵令嬢と付き人の方は、きちんとカトラリーを用意させてありますので」

「あ、ありがとうございます……」


 さすがに、生粋の貴族のお嬢様であるリドウィナには、“初挑戦”でも、携帯食事用セットの簡素なカトラリーでは、抵抗があるかもしれない。


 だから、リドウィナ達には、ゲスト用に用意されているきちんとしたカトラリーだ。


 だが、今回は、ギルバートから、シリルはちょっとだけお願いされていたのだ。


 オスミンと兄のレイフはきっと試してみたくなるから、お願いできないだろうか? ――と。


 ついでに、ギルバート達の分もあったらいいなぁ、とは密かにギルバートも望んでいたことだったが、さすがに、そこまで押しつけがましくはできない。


 でも、シリルは四人分の小袋を持っていた。


 ギルバートも携帯用食事セットを試してみたいなあ、なんて密かなギルバートの望みも、シリルはちゃーんと見抜いていたらしい。


 セシルの弟だけあって、気が付くところが早くて抜け目がなくて、きっと、セシルのような鋭い観察眼も持っていて、それでも厚かましくはない。


 配られた小袋をもらうと、ギルバートもちょっと嬉しくなってしまう。


 やはり、オスミンとレイフは待ち切れないようで、さっさと小袋を開けだしてしまった。


 中からは木の箱が出て来て、箱の蓋を開けると、木で作られたフォーク、ナイフにスプーンが入っていた。少々、小さめにできていて、携帯用、という理由がよく分かる。


 でも、かわいいものだ。


 それから、小さな木の小瓶。コルクで蓋が閉めてある。小さなタオルが一つ。

 最後に、木のコップ。


 これは、ちゃんととってのついたマグカップ式だ。きっと、外で食べている時に、滑って落とさないようにしたのだろう。


 こんなおもちゃのような食事セットを目にしたのは、全員が初めてだ。――密かに、食事が待ち遠しくなってしまう。


「ウェイド」


 ギルバートは、ただ一言、傍で(影のように) 控えている護衛の一人を静かに呼んだ。


 すぐに気が付いた騎士が、駆け寄って来る。


「どうなさいました?」

「私達が食事を始めたら、交代で、お前達も食事を取るように」


「――いえ。それは問題ありませんが」

「せっかくのご馳走が並んでいるのに、見逃してしまうのは勿体ないだろう?」

「――――それは、ありがとうございます、ギルバート様」


 護衛を任された騎士達は、大抵、いつも食事にありつけないことなどが頻繁だ。


 護衛中に口をモグモグさせているなど不謹慎で、食事の為に場所を移動などしていられないし、時間外で夜遅くから朝早く、どの時間帯だって食事は関係ない。


 だから、今回、王家の三人が揃った場所で気を抜けない護衛をしている騎士達は、たくさんのご馳走が並べられていようと、仕方なく、食事抜きでの任務が常だと、全く疑いもしなかったのだ。


 それなのに、午後、オスミン殿下が休憩を取るからと、全員が邸に戻ったので、騎士達は順番で予想もしていなかった休憩時間をもらい、この(にぎ)わった豊穣祭をちょっと覗くことができた。


 露店での食事も買うことができた。


 今夜もまた――ここに並んでいるものすごい数の料理を食べていいなど、なんだか、護衛の任務なのに、ご褒美を貰ってしまった気分だった。


「7時半には後夜祭が始まるから、それまでに食事を済ませておくように。カトラリーなどは、ゲスト用にあるらしいから、それを使わせてもらえばいいだろう」

「はい、わかりました。ありがとうございます」


 会話が終わり、ほんの微かに首だけを動かしたような仕草でウェイドが頭を下げ、すぐにその場を離れていく。


 あまり近くにい過ぎて護衛していては、大目立ちし過ぎてしまうので、今日は、(かなり無理難題でも) 少し離れた場所からの護衛を任されていたのだ。



読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


Tak fordi du læste denne roman

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