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В.в 豊穣祭 - 04

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* * *



 ゾロゾロと、案内役の指示に従って、長い行列が開会式の会場から去っていき、その場は、忙しくパーティションポールを回収している大人達や子供達、指示を出している騎士達などが動き回っていた。


 だが、オスミン達とは反対の列に並んでいたような子供達が、たくさんその場に残っていたのだ。


 貴族の子供達は見たことがある。集まりにもたくさん集まってきて、子供がたくさんいるのは初めて見ることではない。


 だが、平民の子供達がたくさんいる光景を見たのは――実は、オスミンは今日が初めてだったのだ。

 それで、目を真ん丸にしたまま、ジーっと、向こうの団体を凝視している。


 対する孤児達も、全く見慣れない小さな男の子が、大きな大人達や騎士達に囲まれているので珍しく、ジーっと、オスミンを凝視している。


 右と左で、ジーっと、無言で凝視したままの子供達だ。


「さあさ、皆、今年の“初めてのお買い物”ができる子供達は、どなたかしら?」


 壇上から下りて子供達の前にやって来たセシルに、全員の注意が戻された。


「“初めてのお買い物”ができる子供達は、前に並んでください」


 世話をしている女性だろうか――から背中を押されて、小さな子供達が前に出て来た。


「今年は六人ですか? 例年より少ないのですね」

「そのようですね」


 セシルの隣に紳士が並んでいた。きちんとした黒のコートを着ている紳士だ。


「では、名前を呼ばれたら、前に出てきてくださいね。ここにいるアブレルさんから、今日の大事なお金を受け取って、次に私からの贈り物を差し上げます」

「はいっ」


 それで、アブレルと呼ばれた紳士の隣で、木箱を持っていた年配の女性が、箱の中からなにか布の入れ物を取り上げた。


「では、ダグ君」

「はいっ……!」


 緊張した様子の小さな男の子が、一歩、前に出て来た。


 アブレルが、布の入れ物を、まず初めに男の子に手渡す。しっかりと受け取ったのを見て、一枚の紙きれも渡した。


 男の子がその紙きれを握りしめながら、感動しているようだった。





「――あれはなんだい?」

「子供達が稼いで貯めていた給金ですよ。そして、紙切れが、今までの預金明細です。豊穣祭で預金を下ろしてしまうので、その明細書ですね」


「預金、明細?」

「ええ、そうです。彼は――確か、領地の銀行の頭取、だったと思います」

「ぎんこう……! ああ、話に聞いていた通りだっ」


 レイフが視界の前の光景を見ながら、感激している。


 ギルバートも、つい、微苦笑が上がってしまう。


「ご令嬢から渡されているのは、この領地で流行っている、「ショルダーバッグ」 と言うものです」


「お前も持っているじゃないか」

「ええ、そうですね。とても便利ですから」


 今日のギルバートもクリストフも、実は、以前にこの領地で買った、ショルダーバッグを身に着けていたのだ。


 この領地でよく見かける、肩から斜めに落とし前でバッグを抱えるのではなく、ギルバート達は、ウェストバッグ形式で腰にかけており、剣の邪魔にならないように、バッグは背中側にぶら下がっている。


「“初めてのお買い物”をする子供達は、ご令嬢から、ショルダーバッグをプレゼントされるのです。あちらの紳士から受け取ったのは、給金が入った「財布」 なのですよ。それで、子供達は自分達のお金を入れ、落とさないように、ショルダーバッグに入れて持ち歩くんです」


「素晴らしいっ!」

「ええ、そのような発想があるなど、私も全く知りませんでしたから」


 犯罪防止、盗み防止、金銭感覚をきちんと養って、お金の使い方、使い道までも、小さな子供のうちから教え込んでいるセシルに、本当に、自分一人でも生き抜いていきましょう――の信念と絶対的な指針が変わらない。


「おじうえっ!」

「うん? どうしたんだい、オスミン?」


「おじうえっ! ぼくも、その――バッグがほしいです」

「ショルダーバッグのことかい?」


「そうです。ぼくも、ほしいですっ」

「そうだね。とても便利そうだから、お店を見つけたら、買って帰ることにしよう」


「ほんとうですかっ、おじうえっ?」

「もちろんだ」


 オスミンの顔が、嬉しさで、嬉々と赤らんでいく。


「私も買って帰ろうかな」

「便利ですよ。私もクリストフも、毎回、領民や騎士達が身に着けているのを見て、便利だなと思い、買って帰って来たんです」


 どうやら、セシルの領地では、「次の新しいお客さまもゲット!」 である。


 今年のお買い物組の子供達は六人だけなので、セシル達の儀式も、アッと言う間に終わっていた。


 セシルが子供達全員に向いて、

「では、豊穣祭で移動する時の決まりごとはなんですか?」


「「「おにいちゃんと、おねえちゃんと、ぜーったい、てをはなさいこと、ですっ!」」」

「そうですね。楽しいものがあるからと言って、一人で走りだしてはいけませんよ」

「はいっ!!」


「お金を使う時は、どうしますか?」

「ちゃんと、おさいふをてにもったまま、はなさいんですっ」


「そうです。では、お金を使い終わったら?」

「ちゃんと、おさいふにしまって、バッグにいれるんですっ」

「その通りです。皆、よくできましたね」


 うわぁーいっ、と小さな子供達が大喜びだ。


「では、付き添いのお兄ちゃんやお姉ちゃんは、しっかり面倒みてくださいね」

「はあいっ」


 それで、大きな子供達からも行儀のよい返事が上がる。


「他の皆は、“初めてのお買い物”が終えたら、露店回りをしていいですよ。ただし! ――なにをするんですか?」


「グループで行動すること」

「じゅんじゅんに」

「必ず、人数をかくにんして」


「その通りです。さあ、皆で、豊穣祭を楽しんできましょう?」

「「「はいっ」」」


 子供達が、全員、嬉々として歩き出す。


「教育が徹底しているなあ」

「そうですね。子供には、何度も繰り返し説明し、教え込むことが重要だそうでして」


「なるほど。いやあ、まだ豊穣祭が始まったばかりだと言うのに、本当に、興味深いことだなあ」

「ええ、そうですね。まだまだ序の口です」


 勢いよく公園を去っていく子供達を見送ったセシルが、ギルバート達の元に戻ってきた。


「では、皆様、豊穣祭を満喫なさってくださいね」

「ああ、楽しみですねえ」


「期待は裏切りませんので」

「ああ、楽しみですねえ」


 今回は、アトレシア大王国から王子殿下が二人も来訪しているだけに(ギルバートも王子殿下なので三人にはなるが)、さすがに、セシルも、



「では、ここで」



などと、ゲストを置き去りにして、仕事に戻ることもできない。


 ゲストのもてなしの為、セシルは午前中の予定は全部空けておいてある。



読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


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