В.в 豊穣祭 - 04
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ゾロゾロと、案内役の指示に従って、長い行列が開会式の会場から去っていき、その場は、忙しくパーティションポールを回収している大人達や子供達、指示を出している騎士達などが動き回っていた。
だが、オスミン達とは反対の列に並んでいたような子供達が、たくさんその場に残っていたのだ。
貴族の子供達は見たことがある。集まりにもたくさん集まってきて、子供がたくさんいるのは初めて見ることではない。
だが、平民の子供達がたくさんいる光景を見たのは――実は、オスミンは今日が初めてだったのだ。
それで、目を真ん丸にしたまま、ジーっと、向こうの団体を凝視している。
対する孤児達も、全く見慣れない小さな男の子が、大きな大人達や騎士達に囲まれているので珍しく、ジーっと、オスミンを凝視している。
右と左で、ジーっと、無言で凝視したままの子供達だ。
「さあさ、皆、今年の“初めてのお買い物”ができる子供達は、どなたかしら?」
壇上から下りて子供達の前にやって来たセシルに、全員の注意が戻された。
「“初めてのお買い物”ができる子供達は、前に並んでください」
世話をしている女性だろうか――から背中を押されて、小さな子供達が前に出て来た。
「今年は六人ですか? 例年より少ないのですね」
「そのようですね」
セシルの隣に紳士が並んでいた。きちんとした黒のコートを着ている紳士だ。
「では、名前を呼ばれたら、前に出てきてくださいね。ここにいるアブレルさんから、今日の大事なお金を受け取って、次に私からの贈り物を差し上げます」
「はいっ」
それで、アブレルと呼ばれた紳士の隣で、木箱を持っていた年配の女性が、箱の中からなにか布の入れ物を取り上げた。
「では、ダグ君」
「はいっ……!」
緊張した様子の小さな男の子が、一歩、前に出て来た。
アブレルが、布の入れ物を、まず初めに男の子に手渡す。しっかりと受け取ったのを見て、一枚の紙きれも渡した。
男の子がその紙きれを握りしめながら、感動しているようだった。
「――あれはなんだい?」
「子供達が稼いで貯めていた給金ですよ。そして、紙切れが、今までの預金明細です。豊穣祭で預金を下ろしてしまうので、その明細書ですね」
「預金、明細?」
「ええ、そうです。彼は――確か、領地の銀行の頭取、だったと思います」
「ぎんこう……! ああ、話に聞いていた通りだっ」
レイフが視界の前の光景を見ながら、感激している。
ギルバートも、つい、微苦笑が上がってしまう。
「ご令嬢から渡されているのは、この領地で流行っている、「ショルダーバッグ」 と言うものです」
「お前も持っているじゃないか」
「ええ、そうですね。とても便利ですから」
今日のギルバートもクリストフも、実は、以前にこの領地で買った、ショルダーバッグを身に着けていたのだ。
この領地でよく見かける、肩から斜めに落とし前でバッグを抱えるのではなく、ギルバート達は、ウェストバッグ形式で腰にかけており、剣の邪魔にならないように、バッグは背中側にぶら下がっている。
「“初めてのお買い物”をする子供達は、ご令嬢から、ショルダーバッグをプレゼントされるのです。あちらの紳士から受け取ったのは、給金が入った「財布」 なのですよ。それで、子供達は自分達のお金を入れ、落とさないように、ショルダーバッグに入れて持ち歩くんです」
「素晴らしいっ!」
「ええ、そのような発想があるなど、私も全く知りませんでしたから」
犯罪防止、盗み防止、金銭感覚をきちんと養って、お金の使い方、使い道までも、小さな子供のうちから教え込んでいるセシルに、本当に、自分一人でも生き抜いていきましょう――の信念と絶対的な指針が変わらない。
「おじうえっ!」
「うん? どうしたんだい、オスミン?」
「おじうえっ! ぼくも、その――バッグがほしいです」
「ショルダーバッグのことかい?」
「そうです。ぼくも、ほしいですっ」
「そうだね。とても便利そうだから、お店を見つけたら、買って帰ることにしよう」
「ほんとうですかっ、おじうえっ?」
「もちろんだ」
オスミンの顔が、嬉しさで、嬉々と赤らんでいく。
「私も買って帰ろうかな」
「便利ですよ。私もクリストフも、毎回、領民や騎士達が身に着けているのを見て、便利だなと思い、買って帰って来たんです」
どうやら、セシルの領地では、「次の新しいお客さまもゲット!」 である。
今年のお買い物組の子供達は六人だけなので、セシル達の儀式も、アッと言う間に終わっていた。
セシルが子供達全員に向いて、
「では、豊穣祭で移動する時の決まりごとはなんですか?」
「「「おにいちゃんと、おねえちゃんと、ぜーったい、てをはなさいこと、ですっ!」」」
「そうですね。楽しいものがあるからと言って、一人で走りだしてはいけませんよ」
「はいっ!!」
「お金を使う時は、どうしますか?」
「ちゃんと、おさいふをてにもったまま、はなさいんですっ」
「そうです。では、お金を使い終わったら?」
「ちゃんと、おさいふにしまって、バッグにいれるんですっ」
「その通りです。皆、よくできましたね」
うわぁーいっ、と小さな子供達が大喜びだ。
「では、付き添いのお兄ちゃんやお姉ちゃんは、しっかり面倒みてくださいね」
「はあいっ」
それで、大きな子供達からも行儀のよい返事が上がる。
「他の皆は、“初めてのお買い物”が終えたら、露店回りをしていいですよ。ただし! ――なにをするんですか?」
「グループで行動すること」
「じゅんじゅんに」
「必ず、人数をかくにんして」
「その通りです。さあ、皆で、豊穣祭を楽しんできましょう?」
「「「はいっ」」」
子供達が、全員、嬉々として歩き出す。
「教育が徹底しているなあ」
「そうですね。子供には、何度も繰り返し説明し、教え込むことが重要だそうでして」
「なるほど。いやあ、まだ豊穣祭が始まったばかりだと言うのに、本当に、興味深いことだなあ」
「ええ、そうですね。まだまだ序の口です」
勢いよく公園を去っていく子供達を見送ったセシルが、ギルバート達の元に戻ってきた。
「では、皆様、豊穣祭を満喫なさってくださいね」
「ああ、楽しみですねえ」
「期待は裏切りませんので」
「ああ、楽しみですねえ」
今回は、アトレシア大王国から王子殿下が二人も来訪しているだけに(ギルバートも王子殿下なので三人にはなるが)、さすがに、セシルも、
「では、ここで」
などと、ゲストを置き去りにして、仕事に戻ることもできない。
ゲストのもてなしの為、セシルは午前中の予定は全部空けておいてある。
読んでいただきありがとうございました。
Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)
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