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В.а 余計な - 11

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 時計の針が正午に差し掛かり、長い針がゆっくりと真上を差した。


 ギーっと、大きな時計の両端にある扉がゆっくりと開いた。


 それから、ポロン、ポロン~と、金属音が(かな)でられ、開いた扉から――人形のような女の子が登場してきたのだ。


 時計の前に造られた平らなステージのような場所には、下から――花のようなものが上がって来る。

 そして、人形の女の子はそのステージの上を、クルクル、クルクルと、軽やかに回って行く。


 真っ白なドレスを着た、髪の長いお姫さまだ。



(あっ……、セシル嬢だ……!)



 クルクルと、時計の前で踊っている人形の女の子を見て、咄嗟に、その考えがギルバートの頭に浮かんでいた。


 人形の女の子は、長い銀髪の髪の毛を下ろし、頭に冠を付け、クルクルと踊っている。

 遠目からははっきりとは見えないが、人形の女の子の顔は、可愛らしく笑っている。

 そして、遠目からでもはっきりと分かる、藍の瞳。



(かわいいっ……!)



 ポロン、ポロン~。

 キンコン、カンコン。


 軽快な音楽に合わせ、お人形の女の子が、左の扉から出て来て、右の扉に入っていくまで、クルクルと踊っている。


 そして、お人形が消えて、扉が、ギーっと、自動的に閉まっていた。


 その場に集まった全員が、あまりの驚きで、口をポカンと開けたまま、時計塔を見上げて立ち尽くしている。


「どうでしょう?」


 セシルが期待の眼差しを向けて、ギルバートを振り返った。


「―――すごいですね……! とても、可愛いです……」


 もう、心から素直に出ていた賛辞だった。


「人形が、クルクルと……。なぜ、あのように、クルクルと動いているのですか?」


「それは、「からくり仕掛け」 という仕掛けで、人形の下にはめてある、歯車の回転を利用しているのです。ですから、正午になりますと、自動的に扉が開き、花が登場し、お人形が歯車の回転で、クルクルと回っているように見えるのですのよ」


「すごいですねっ……! 私は、あのような――からくり仕掛け? ですか? ――そのようなものを、初めて見ました」


 今のギルバートは、騎士団の騎士であるとか関係なく、とても素直に感動しているようだった。

 うふふと、セシルも、そのギルバートの反応を見て、嬉しそうだ。


「なにか、金属音が鳴っていたのは?」


「あれは、「オルゴール」 です。この場合、金属板を違う厚さに造り、中央を削ったりして、違う音階を出し、それを鳴らしながら音楽を奏でるという機器なのです。この時計塔制作の為に、優に、三年近くもの期間がかかりましたわ」


「そうですか。ですが、三年分の成果が、素晴らしいものですね」


「喜んでいただけで、私も嬉しく思います。この時計塔は、これから、領地の観光名物にしたいと考えておりますの」

「ああ、それは名案ですね。とても素晴らしいものでした」


 朝早く、アトレシア大王国に向けて発たなかったのは、大正解だった。


 正午まで、少しだけ滞在が伸びても構いませんか? ――なんて、セシルが申し訳なさそうに頼んでくることなどなかったのに。


 こんな素晴らしいものが見られると知っていたら、ギルバートだって、喜んで、自分から滞在を伸ばしていたことだろう。


 なるほど、これが「時計塔」 なのか。


 うわぁ……と、感動から目が覚めたような見物客が、それぞれに、興奮したように、歓声を上げ始めていた。


 領民達は軽く拍手を上げて、満足している様子だ。


「お人形が、あなたでした。とても可愛かったです」


 その一言に、セシルが困ったような、そんな顔をちょっと浮かべる。


 どうやら、ギルバートの推測は間違ってはいなかったようだ。


「やはり、十周年記念ですから、領主のあなたが登場しなければ、始まらないでしょう」

「そう、かもしれませんが……」


 お人形制作は、ハンスとケルトだけではなく、お針子達も一緒だ。


 それで、全員で、



「やっぱり、マスターを作らなきゃっ!」



なんて、意気揚々と、意気込んで、十周年記念用の“ミニ・セシル”を作ったのだ。


 それを領民達にお披露目している時に、全員が揃って、



「ああっ、かわいいマスターだ!」

「マスターが、時計塔に入るんですね!」



と更に大喜びされて、セシルも……その大騒ぎを止めるに止められず、それで、(少々恥ずかしいのだが) 記念の時計塔には“ミニ・セシル”が作られたのだ。


「瞳も藍色で、あなたにそっくりでした」


 その発見を嬉しそうに語ってくれるギルバートの前で、セシルも微苦笑を浮かべている。


「遠巻きでしたが、ドレスも本物のように見えました。刺繍も豪奢で」

「そうですね。お針子達が、丹精込めて作った人形ですから」

「そうですか」


 なるほど。それなら、納得がいける。


 お針子達だって、十周年記念となるセシルのお人形だから、きっと、丹精(たんせい)込めて作ったお人形だろう。


 大好きな領主を飾るのだから。


「とても可愛かったです。時計塔も、素晴らしかったですね」

「ありがとうございます」


 時計塔を見られて、ホクホク顔のギルバート達は、通行門までセシル達を送り、そこで別れを告げている。


 今回は、アトレシア大王国に戻っても、またすぐにセシルに会いにやってくることができる。

 だから、その別れも、特別、寂しいものではない。


「いやあ、十周年記念の時計塔が、あれでしたからねえ。これなら、豊穣祭も、かなり期待できそうですねえ」


 軽快に馬の足を速めているギルバートの隣で、クリストフが感心した様子で、それを口に出した。


「そうだな。私も今から楽しみだ」


 ()()()お荷物と世話の件を除いては……。



読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)

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