В.а 余計な - 06
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朝食の席には――なぜかは知らないが、邸の使用人全員が揃っていた。
普段、セシルは、正式なダイニングホールで食事をするのを嫌っているせいか、ギルバートがやって来ている時は、大抵、こぢんまりとした、プライベートの小さなダイニングテーブルを囲んで食事をすることが多かった。
なぜか、今朝は、普段使用しない正式なダイニングホールに、ギルバート達は連れて来られてきていた。
テーブルの端から端までを座るのではなく、ギルバートはセシルの横の席を用意されていた。
それで、向かい側にクリストフが。ギルバートとクリストフの両隣に、残りの騎士達が。
「お早うございます、セシル嬢」
「お早うございます、ギルバート様。皆様も」
椅子に座る前に、全員が騎士らしく、きちんとセシルに挨拶を済ます。
それで、ギルバート達が席についたのを見計らうかのように、執事のオスマンドがセシルの近くに寄って来た。
「マスター、お誕生日おめでとうございます」
「「マスター、お誕生日おめでとうございますっ!」」
オスマンドに続いて、全員が一斉にお祝いを述べて、そこで一礼した。
「ありがとう、みんな」
セシルはなんだか微苦笑を浮かべているが、ギルバートは、そこで、一瞬、固まっていた。
「――――えっ……? ――えっ?! 誕生日だったのですかっ?!」
「ええ、まあ」
まさか、今日がセシルの誕生日だったなど思いもよらなくて、ギルバートが目を丸くする。
「――――それは、申し訳ありません。お誕生日であったなど知らず……。お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
セシルと知り合う機会に恵まれて、今までたくさん話す機会も増えた。婚約が正式に決まり、手紙でも、セシルと話す機会がもっと増えた。
だが、あまりに基本的な、そして、最も大事な会話が抜けていたことを、ギルバートは、今日、身を以て自覚してしまった。
はっきり言って、お互いの誕生日など、全く知らないのである!
「申し訳ありません。あなたへの贈り物も用意しておりませんので……」
「そのように、お気になさらないでくださいませ」
ギルバートに誕生日を知らせたことはなかったのだから、ギルバートがセシルの誕生日を知らなくても、セシルが怒るはずもない。
ギルバートは、セシルの誕生日に祝いの贈り物を用意できなくて、かなり落ち込んでいるようである。
「ギルバート様のお誕生日はいつなのか、お聞きしてもよろしいですか?」
「ええ、もちろんです。私の誕生日は、1月27日です」
「そうですか。来年は、お誕生日のお祝いが言えますね」
その事実が嬉しくて、ほんわかと、つい、ギルバートの顔が緩んでしまいそうになる。
「今日がお誕生日であったなど知らず、本当に申し訳ありませんでした」
「いいえ、そのように、お気になさらないでくださいませ」
「セシル嬢、あなたがご多忙なのは存じておりますが、もしご迷惑でなければ、今日、一日、滞在を延期させていただいてもよろしいでしょうか?」
セシルの誕生日と判って、ギルバートは、そのままアトレシア大王国に帰ることを、申し訳なく思ってしまっているのだろうか?
セシルはギルバートの婚約者になったから、ギルバートとしても、さっさとトンボ帰りをしたくない、と思っていてくれるのかもしれなかった。
そこら辺は、本当に気遣いが優しい王子サマである。
だが、あたかも、セシルの誕生日を知って、ギルバートが滞在延期を考えたかのような口調だったが、執事のオスマンドとの昨日の会話のことは、全く持ち出さないギルバートだ。
それで、セシルの側で静かに控えているオスマンドも、ギルバートの機転の良さと、その気遣いに、微笑まし気にセシルとギルバートを見守っている。
「迷惑ではありません。ただ、皆様の方が――多忙になるのでは、と?」
なにしろ、これからすぐに王国に帰り、(余計な) こぶ付きの護衛の準備やら、旅の準備やら、色々忙しく取りかからなくてはならないはずである。
豊穣祭まで、あと二週間ちょっとだ。
一週間後には、余裕のある移動の為、王都を出発しなければならないだろうし。
「いえ、一日程度なら、問題ありません」
「そうですか」
お互いに、にこやかな笑みは崩さず、それで、面倒な話題にも触れない。
「今日もお仕事ですか?」
「ええ、一応は」
曖昧な返答で不思議だったが、ギルバートは、次のお願いも口にしてみる。
「お仕事に、一緒に付き添ってしまっては、ご迷惑になりますか?」
「いいえ、そんなことはありませんわ。ただ、領地中を引っ張り回してしまう形になってしまいますけれど」
「そうですか。なんだか楽しみですね」
そんな雑用な仕事の付き添いなどつまらないだろうに、ギルバートは嬉しそうだ。
なんだか――気のせいではなくて、ギルバートはセシルと婚約してから、包み隠さず、ギルバートの愛情をセシルに向けてくるような感じがする。
嬉しそうに瞳を細めセシルに微笑んでいる顔も、セシルを甘く見つめて、今にも蕩けそうな熱い眼差しを向けている瞳も、セシルに接する気遣いのある態度も、物腰が優しい仕草も、その全部が全部――惜しみなく、セシルだけに向けられていると思うのは、セシルの気のせいではないだろう。
こんなに――この世界で、異性から、素直に、惜しみない愛情を向けられたのは、セシルも初めてである。
朝食の場では、邸の使用人全員から誕生日のお祝いを受けたセシルは、その後、自分の護衛を連れて、早速、領地周りに出向くらしい。
だが、今回に限っては、イシュトールとユーリカは自分達の馬に乗らず、なぜかは知らないが、荷馬車を引いているのである。
読んでいただきありがとうございました。
Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)





