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В.а 余計な - 05

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「母と弟が、早めに手伝いに来てくれると言ってくれまして。ですから、明日には――ギルバート様がお発ちになってからになると思いますが、邸に到着する予定だと思います」


「そうですか。皆様には、本当にご迷惑をおかけします。ご挨拶はできないかもしれませんが、豊穣祭でお会いできることを楽しみにしています」


「ええ、皆も、ギルバート様にお会いできることを、楽しみにしていると思います。豊穣祭で――全員が会えますので……」

「そうですね……」


 そして、二人とも、それ以上のことは突っ込まない。


「残りの騎士達は、外で待たせていらっしゃるのですの?」

「そうです」


「では、中に入ってもらいましょう。部屋を用意させますわ」

「今日は、宿場町で宿屋を探しますので」


 前回だって、全く予定していなかったギルバートの登場でも、いつものように、セシルは全員の部屋を用意してくれた。


 突然、訪ねてきてしまったギルバート達は、その好意をありがたく受け取り、客室に泊まらせてもらった。


 だが、今日はもう豊穣祭まで数週間を切った一番多忙な時期だから、セシルにも、邸の使用人達にも、ギルバート達の面倒をみさせるような、余計な仕事を増やしたくはないのだ。


 兄のレイフのせいで、セシルは、今まで以上の余計な仕事を押し付けられてしまった形である。


 だから、ギルバートはセシルに会えて嬉しかったが、さすがに、部屋まで用意してもらって、使用人達の更なる仕事量を増やすのは、ものすごく気が引けていたのだ。


「いえ……、その程度は、問題ではありません」


 むしろ、ギルバート達は、いつも邸に宿泊する度に礼儀正しくて、無理難題を言いつけてきたこともないし(それは、いつでもセシルの前で礼節を保つよう心がけているから)、出された食事をそのまま全部食べて、それで礼を言って、邸を発っていくだけだ。


 王族の余計な追加分の手間(てま)(ひま)を考えれば、ギルバート達の世話など、取るに足らない問題だ。


「よろしいのでしょうか?」

「ええ、構いません……」


 その顔には、すでに諦めと、疲れ切って、これ以上、レイフ達のことを考えたくないという様相が、ありありと浮かんでいた……。


 セシルは、テーブルの上の呼び鈴を鳴らした。

 それからすぐに、執事のオスマンドが姿を出し、丁寧にお辞儀をする。


「お客様のお部屋を用意してあげて? 外でも待っていらっしゃるから、もう、中に入ってもらっていいわ」

「かしこまりました」


 オスマンドは一礼して、部屋を後にする。


「セシル嬢」

「なんでしょう?」


「これからもお仕事に戻られると存じておりますが、何か、私にできることはございませんでしょうか?」


 アトレシア大王国から早馬で駆けて来たはずなのに、そんな疲れを見せず、おまけに、そんな親切と心遣いまで見せてくれるなんて、ギルバートは、本当に、いつもセシルを気遣ってくれる。


「そのようにおっしゃって下さって、ありがとうございます。ですが、そこまで、皆様にはご迷惑をかけられませんわ」

「迷惑ではありません」


 むしろ、迷惑をかけてしまっているのは、王国側の方だ……。


 それに、セシルの両親と弟がやって来ると、セシルは身内であっても、猫の手を借りたい時は全く容赦がない。

 しっかりコキ使う気満々だった。


 ギルバート達はゲストだから、そこまで、押しつけがましく要求はしてこないのかもしれなかった。


 だが、ギルバートは、今は、セシルの婚約者になったから、そこまでの遠慮をされずに、コキ使ってくれても、ギルバートには全く問題もなかったのに……。


 そこまでの親しい仲でもないだけに、やはり、遠慮されているのだろうか。――少々、その事実も寂しいことである。


 それからすぐにセシルは仕事に戻ってしまい、ギルバート達は、ここ二日、強行軍で馬を飛ばしてきた疲れを取るのに、客室でのんびり休息をもらってしまっていた。


 夕食は一緒にできず申し訳ありません……と、申し訳なさそうに謝罪するセシルに、気にしないでください、と安心させ、騎士達だけで夕食を済ませ、今夜も、また参加させてもらう定例の報告会まで、少し時間を潰す。


 定例の報告会の時間近くになり、執事のオスマンドが、ギルバート達を迎えにやって来て、その場で、珍しく、オスマンドがギルバートに声をかけて来た。


「副団長様、申し訳ございませんが、少しばかり、お時間を頂けないでしょうか?」

「それは構わないが」


「ありがとうございます。皆様は、明日すぐに王国にお発ちになると、伺っております」

「ああ、そうだ」


「ご多忙であられるとは存じますが、もし可能でございましたら、一日だけ、滞在を伸ばしていただくことは、無理でございましょうか?」


「滞在を伸ばす?」

「はい」


 あまりに珍しく声をかけられて、あまりに予想もしていなかったお願いをされて、ギルバートも素直に不思議がっていた。


 だが、執事のオスマンドは、なぜ滞在を伸ばして欲しいのか語らない。


 なにか、セシルに問題があったのだろうか?


 すぐにそんなことが頭に浮かび、ギルバートは迷いもなく頷いていた。


「わかった。一日を伸ばし、明日も滞在させてもらうことにする」

「ありがとうございます。このように、私ごときがお願いしてしまいましたことを、心よりお詫び申し上げます」


「いや、気にしないでくれ」

「できれば、明日まで、マスターには内緒にしていただければ、幸いなのですが」


「わかった。明日の朝食後、その話を頼んでみることにする」

「ありがとうございます」


 それで、その夜は定例の報告会も参加し、セシルの仕事はまだまだ続くようで、ギルバートは手伝いもできずに申し訳なくも、仕方なく部屋に戻っていた。




読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)

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