В.а 余計な - 03
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王族で、おまけに、現宰相で、現王太子殿下サマで、その上、小さなこぶ付きの第一王位継承権を持つ王子殿下までだ……。
ギルバートは新年を明けて、臣籍降下することになっていても、今はまだ、第三王子殿下である。
そんな王族の王子達が一か所に揃って集まるなど、
「さあ、狙ってください。どーんと来いっ!」
と言わんばかりの愚行である。
王宮から王国騎士団の護衛が付き添ってこようが、セシルの領地側だって、細心の注意を払い、警備を強化しなくてはならない。
邸の中で世話をするのに、更なる侍女や侍従の仕事を増やし、王族に対して失礼のないよう、躾の再教育だって必要となってくるだろう。
全員分の食事だって、一気に、倍以上用意しなくてならないではないか。
時間も労力も全く余裕のないセシルに対しての、嫌がらせなのだろうか……。
あのレイフのせいでっ――!
はああぁぁぁ……と、セシルにしてはあまりに珍しく、ものすごい長い溜息が吐き出されていた。
ギルバートもクリストフも、今のセシルの苦悩がよーく理解できてしまって、かける言葉が見つからない。
同情なんていらない。
泣きたいのは、セシルの方だ………。
はああぁぁぁ……と、その長い溜息だけが吐き出されていた。
「――――百人など、現実問題から言って無理です。ですから、五十人まで……」
「わかりました」
「もう……、仕方がありません。邸の出入りを許可しましょう……。ですが、邸内をうろつくことはやめてください」
「もちろんです。その点は、しっかりと言いつけておきますので」
「邸内及び、領地内での帯刀も許可しましょう。ですが、全員私服で。王子殿下達には、豊穣祭や後夜祭で着る軽略装程度にしてください……」
「わかりました」
「この地には、常備の医師がおりません。その際の責任は、一切、取れません……」
「もちろんです」
ギルバートだって、その点は、しつこくレイフに言い聞かせたものだ。
まだ幼いオスミンまでコトレアにやってきて、万が一、体調を崩したり、具合が悪くなってしまったのならどうするんだ――と。
だが、「南西側の国境側に、医師を常備させておこう」 など、レイフの計画に付け込む隙はない。
「豊穣祭で五十人もの護衛を引き連れて歩いてしまったら、通りがごった返しになってしまいます。最も信頼できる騎士だけ、せめて――十人だけに絞って、残りは散ってください」
「わかりました」
もう、それが、セシルが妥協できる最低限の要求だ。――それでも、セシルは、全然、喜んでもいない。
「五十騎、そして、馬車まで乗りつけたら、宿場町では通りきれません。一度、北上して、ノーウッド王国の王都側から通じる道で、コトレアに入ってこなければならないでしょう」
「わかりました。馬車も目立たないように、注意いたしますので」
「お願いいたします……。後で、北上する迂回路をお教えしますので……」
「ありがとうございます」
「馬の世話と飼葉が、間に合わないかもしれません……」
「それは――うーん……、では、数週間前に、こちらから送ることはできませんか?」
「そうしていただくより、他はありませんわね……」
「わかりました」
「騎士の方々に、馬の世話もお願いしてください……」
「わかりました。その点も言いつけておきます」
アトレシア大王国の騎士達は、元々、いつも騎馬の訓練も多いから、自分達の馬の世話をすることだってある。厩務員ばかりに世話を任せているだけではない。
「ガルブランソン侯爵令嬢は、お一人だけ、付き人を付き添わせても構いませんが、王子殿下達の世話役は、こちらで用意します。――これ以上の人数は、許容できません……」
「いえ、もちろん構いません。どうか、よろしくお願いします」
「宰相閣下には、王子殿下と一緒に寝室を共にしていただきましょう。王子殿下は、まだ幼く、親元を離れたこともないでしょうし、まして、王宮からお出になられたこともないのでしょう?」
「そうですね」
「それなら尚更のこと、見知らぬ土地にやってきて、見知らぬ大人達に囲まれては、不安になられても不思議はありません。護衛も兼ねて、大人が一緒にいれるのなら、宰相閣下が一番適任でいらっしゃるでしょうから」
「確かに、そうですね」
レイフがオスミンの面倒をみる責任を取るのは、一理ある。
おまけに、レイフが言い出した余計な問題のせいで、周囲の人間全員が困っているので、その程度の責任は、レイフが持つべきである。
テキパキと指示を出しているセシルだったが、もう、完全に心の中で泣いているのではないだろうか。
さっきから、全然、顔を上げないほどだ。
「申し訳、ありません……」
「――――なぜ……、私が……」
いや、その気持ちは、よーく理解している。
ギルバートもクリストフも、あまりに申し訳なくて、謝罪を口にするのも、失礼な状況になってしまった。
読んでいただきありがとうございました。
Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)





