Б.а ブレッカの地にて - 06
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大きな荷馬車を引き、騎馬でブレッカまでやってきた一行は、ポツポツと立ち並ぶような商店街を通り過ぎ、駐屯地が置かれているという場所までやって来た。
ブレッカは町自体がすでに寂れていて、古びた家屋や住居地が、長い時間、誰にも触られず置き去りにされたかのような、荒廃地が続いているようだった。
脇道では雑草が伸び切り、すでに、ガーデンなどと呼べない、ワイルドな状態に変わっている。
商店街の方では、人の出入りも見えた。賑わってはいても、町全体で荒廃し乾いた土地の色や雰囲気があるせいか、人も通らないような田舎の寂しさだけが、目についたものだ。
民家や商店街を少し過ぎると、またワイルドな雑草地帯と化し、一応の道はついているのだろうが、獣道並みの整頓のなさで、ゴロゴロ、ガタガタと、荷馬車が激しく上下左右に揺れる。
それから柵が見えて来て、柵の後ろで立っているような兵士の姿が目に入って来た。
兵士達の方も、滅多に人が寄り付かない場所に、何騎もの騎馬と荷馬車がやって来るものだから、すぐに彼らの注意が注がれる。
内門の前で、セシル達が馬から降りた。
「我々は、ノーウッド王国からやってきた者です。ブレッカでの戦により、これから、ノーウッド王国の南方が受けるかもしれない影響や被害の確認として、飛ばされてきました。ここにいる指揮官に、面会をお願いしたい」
「ノーウッド王国?」
その名前は、聞いたことがある。
もちろん、すぐ隣国の国の名前だ。
だが、なぜ、わざわざ隣国から、こんな果ての僻地まで、隣国の者がやって来たのかあまりに謎で、二人の兵士は頭に“?”を浮かべたまま、ひどく首をひねっている。
「この地の指揮官に、面会をお願いしたい」
「はあ……。それで、あんた達は誰なんだ?」
「ノーウッド王国ヘルバート伯爵家代行の者だが」
「――伯爵家?」
えぇぇっ?! ――と、二人の兵士が腰を抜かさんばかりの勢いで、目が真ん丸だ。
こんな辺鄙な辺境に、お貴族サマがやって来るなんて、初めてのことである。
そして、そんな――あまりにくだらない兵士達の反応を見ているセシルも、うんざり、ゲッソリ、呆れを通り越して、指摘もしたくない。
用件は話した。面会の要請もした。
なのに、目の前の二人の兵士達の反応が、あまりにくだらなさ過ぎて、話が、全然、進まない。
一体、いつまで、セシル達の時間を潰せばいいというのか?
さっさと、セシル達を駐屯地内に入れれば済むだけの話ではないか。
「この地の指揮官に面会をしたいのだが」
「え?」
おい、何度も言わせるなっ!
こんな場所で、セシルの辛抱強さを測られても、全く嬉しくもなんともない。
「面会をしたいので、駐屯地に入れてもらいたい。今すぐに」
「えっ? ――あ、ああ……。それなら、問題はないと思うけど――」
問題ないなら、さっさと入れなさいよ、まったく!
後ろでも、かなり、ゲンナリとした気配が伝わってくるが、セシルは、仕方なく兵士達の反応を待っている。
「中に入りたいのだが?」
「え? ――ああ、そうだったな。今、門を開ける」
門と言っても、柵にある木枠の門だ。町の方から襲われる心配がないのだろうが、なんだか、家の前にあるガーデン用の柵、と言っても過言ではないはずだ。
こんなもの、馬で蹴り散らせば、バタバタバタと、一気に柵が倒れ落ちるのではないのだろうか?
ずさん――なんて、言うべきなのかしら?
簡単に門が開けられて、検問もなかった。荷物の検査もなかった。
セシルの身元確認もしないんですか? ――仕事もできないような兵士達に、そんな親切に、わざわざと教えてなんてあげませんよ。
「指揮官は誰ですか?」
「ダーマン中尉です」
「その人はどこに?」
「ここを通り抜けて、真っすぐ行ったら、青い屋根の大きな司令塔がありますよ。他の宿舎とは見栄えが違うから、すぐに見つかるでしょう」
「勝手に訪ねていってもいいんですか?」
「司令塔の前にも、兵士はいます。そこで説明すれば、いいんじゃないかと?」
そうですか。
そこまで仕事がずさんで、管理もなく、統率も取れていないのなら――セシルは、これ以上、指摘なんてしません。
警護の役割も全く成り立っていない無能集団に、一々、時間を割いてやるほど、優しい人間ではないもので。
話は終えたとばかりに、セシルはまた身軽に騎乗していき、全員に合図して、足を進める。
騎馬で通り過ぎていくのは大人だったが、荷馬車には体の小さな――子供っぽい姿が見える。
だが、全員が全員、真っ黒なマントに身を包み、おまけに、頭には、首も隠してしまいそうなハットに、布で隠した覆面だ。目だけは少し見えても、真っ黒な塊に隠れている姿など見えない。
門番の兵士達が、荷馬車を引く子供達を、物珍しそうに、ジロジロと不躾に観察しているが、そんな兵士達を完全無視して、セシル達は駐屯地の奥へと足を進めた。
兵士達の居住区なのか、兵士達は“宿舎”と言っていた。たぶん、昔は普通の民家だったのを、今は、兵士達が使用しているような家屋が、結構、たくさん並んでいる。
突然、駐屯地にやって来た、あまりに見慣れない真っ黒な団体が道を通り過ぎていくので、外に出ている兵士達が、物珍しさに、ワイワイ、ワイワイと、行列を為して、セシル達を観察しにきている。
戦が勃発して、緊張状態じゃないんですか?
なに、この平和さ。
全然、戦に備えている様子でも、態勢でも、雰囲気でもない。
「なんなんですかね? 戦は勃発していなかったのですか?」
さすがに、気味悪そうに、イシュトールが、少しだけセシルの方に寄ってきて、それを漏らす。
「ええ、なんなんでしょうね、一体」
居住区を少し抜けた先には、門番の兵士達が口にしたように、少し高い建物がすぐに目に入って来た。青い屋根で、二階建てのきちんとした洋館が、ドーンと、この駐屯地のど真ん中に建っていたのだ。
いや……指揮官なのだから、兵士達とは違って、立派な居住区をあてがわれるのは不思議でも何でもない。指揮官やら上級士官など、特別室をあてがわれるのも、結構、普通のことだ。
だが、駐屯地のど真ん中。そこだけが、周囲とは全く違った派手さを見せて、いかにも貴族の洋館が建っていますよ~! ――とでも見せびらかしたいのか、あまりに飛び抜けてキラキラとした建物なんて、駐屯地に作っていいの?
これなら、敵に、
「さあ、狙ってくれ~っ!」
と、公言しているようなものではないのか?
なんだか――アトレシア大王国なのか、それともただ単に、王国軍だけなのか、セシルの知っている軍隊の基準とは全く当てはまらないような場所にやって来て、セシルもかなり先行き不安だ。
残りの全員も、司令塔という館の前にやって来て、そのキラキラと飾り立てられた建物を見上げて――全員が言葉なし。
そのキラキラさに、その荘厳さに、目も奪われ、言葉もなく――なんて、あるわけないでしょう!
全員、あまりに場違いな館を目にして、完全に白けているだけですわよ。
なぜ、外なのに、立派なシャンデリアもどきがぶら下がっているのだろうか。――いや、もう、その質問はしない。
時間の無駄だろう……。
風が吹かないから吹き飛ばされないんだな、という結論に達する。
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