Б.д まずは、土台造り - 03
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侯爵令嬢であっても、高飛車で、伯爵令嬢のセシルに呼び出されて、知り合いでもないのに、勝手に話しかけられても、今のところ、腹を立てている様子はないらしい。
その様子を隠している気配もない。
「では、このようにお知り合いになれたことですし、どうか、ガルブランソン侯爵令嬢も、お気軽に質問などなさってくださいね? お互いに、初めて会いますものね」
令嬢からの返答はなく、なぜか、微かにうつむいているその横顔が、無理難題を押し付けられて困ってしまっている……と、その苦悩がくっきりと浮かんでいるようなのだ。
セシルの口元が、つい、おかしくて、上がりそうになってしまったが、気を取り直して、セシルが会話を続けていく。
「ガルブランソン侯爵令嬢リドウィナ様。お名前で呼ばせていただきましたら、失礼でしょうか?」
「………………い、いえ……。そのような、ことは、ございません……」
なぜ、セシルが自分の名前を呼びたいのか理解できず、令嬢の顔が更に困惑を極めていく。
「では、リドウィナ様?」
「……はい……」
「私の自己紹介を済ませておりませんが――」
セシルはその先をわざと続けず、リドウィナがどう反応するのか、その出方を見守っている。
シーンと、会話が途切れて、沈黙だけが下りている。
だが、その程度の(気まずい) 沈黙など、セシルは全く気にしていない。それで、優雅に、紅茶のカップを取り上げて、一口、口に含んでいく。
シーンと……、きまずい沈黙だけが続いていた。
その沈黙に耐えられないのか、微かに眉間を寄せだしたリドウィナの横顔は、苦悩がありありとしている。
他国からやって来たセシルの情報は、アトレシア大王国内では全くないに等しい。
それなのに、他国の令嬢が、いきなり、夜会に呼ばれただけではなく、今度は、第三王子殿下の婚約者として王国にやって来たほどだ。アトレシア大王国内の貴族達が、誰一人、知らなかった令嬢が。
そのセシルを見つけたのなら、根掘り葉掘り、情報を聞き出そうと躍起になる令嬢達や、夫人達がいても全く不思議ではない。
その機会がやって来ているのに、ガルブランソン侯爵令嬢の態度は、この場にいること自体が気まずくて、会話に参加するどころか、セシルの情報を聞き出そうともしてこない。
最初の反応から、ガルブランソン侯爵令嬢は、高慢ちきで偉そうな貴族の令嬢ではない、とセシルも判断している。
セシルを前にしても、ガルブランソン侯爵令嬢は礼儀を外さず、丁寧に接してくるくらいだ。
ガルブランソン侯爵家は、第三王子殿下の妃候補として、名を挙げていたほどだ。突然、王国にやって来たセシルが邪魔だろうから、なにかにつけて、チャンスがあれば、セシルの弱みを探り出してくることだろう。
だから、セシルの予想していた反応としては、二つのパターンを考えていた。
一つ目は、予想もしていないお茶会だったとしても、この機会に、セシルにわざとらしく友好的に接してきて、あたかも、アトレシア大王国の貴族代表のような態度を取って、セシルに近づいてくること。
それで、セシルから情報を聞き出すのに必死になる、とか。
二つ目は、他国の令嬢が第三王子殿下を盗み取ったのが腹立たしくて、格下であるセシルを無下にし、見下して、格の差を見せつけてセシルを完全無視する、とか。
リドウィナは、そのどちらの行動も取っていない。
なるほど。
そうなると、妃候補として挙がっていたほどの令嬢なのに、今の所、目の前のリドウィナは、セシルに対して敵意満々という気配がないようなのだ。
それなら、ダラダラとくだらない会話で時間を無駄にせず、さっさと本題に入っていくべきだろうか。
「リドウィナ様」
「……は、はい……」
「少々、お聞きしたいことがございますの?」
「……なんで、ございましょう……?」
恐る恐る……といった様子で、リドウィナが少しだけ顔を上げ、セシルの方に視線を向けてきた。
セシルはその視線を捉え、静かな藍の瞳を真っすぐにリドウィナに向ける。
「私のことは、ご存知ですか?」
あまりに普通な質問なのに、その質問がものすごい衝撃だったのか、リドウィナの顔が更に動揺をみせる。
「…………あの……。それは……」
そこでまた、会話が途切れて、嫌な沈黙が下りてしまう。
リドウィナの表情は困り切っていて、沈黙も気まず過ぎて嫌な様子で、どうしようか……、どうしようか……と、その視線がさまよっている。
(あらあら。侯爵令嬢ともなる令嬢なのに、この程度の会話も交わせなくて、随分、可愛い方なのねぇ)
侯爵令嬢であるから、社交術は叩き込まれているだろうに、今のリドウィナは、そんな余裕もないようだ。
「私は、ノーウッド王国、ヘルバート伯爵家長女、セシルです」
「……は、はい……」
「私が、突然、王国にやって来て、腹を立てていらっしゃいませんの?」
「……えっ……!?」
その時だけは、あまりに素直な驚きを映した顔をパッと上げて、リドウィナがセシルを見返した。
「あの……あの……それは……。その……もしかして――変な、噂など、お聞きになったかもしれませんが…………それは、その……事実、では、ありませんの……」
「第三王子殿下の妃候補として、婚約が進められていたのではありませんの?」
「あの……あの、それは……そのっ……」
アトレシア大王国側の貴族令嬢達なら、セシルは憎き恋敵になるはずだ。麗しの第三王子殿下を横からかっさらっていたセシルには、全くいい思いをしていないことだろう。
なのに、リドウィナは、婚約話が事実ではないと、わざわざ、セシルの為に気を遣っているほどだ。
この様子だと、リドウィナには、ギルバートに対する恋愛感情が育っていなかったのは、確かである。
それなら、執着心はどうだろう?
恋愛感情を抜きにしても、子供の頃から、きっと、第三王子殿下の妃になるべきだと、周囲に教え込まれ、躾されたのなら、ある程度の、執着心くらいは生まれてきていてもおかしくはないはずだ。
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