Б.а ブレッカの地にて - 05
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だが、動き回るセシルに口出しすることは、もう諦めたジャールだったが、セシルに付き添って、セシルの付き人が待っている場所にやってきて、その考えは完全に一掃された。
「「――――子供っ?!」」
ジャールとリエフが、口を揃えて叫んでいた。
セシル達に付き添って、確認がてら領境に戻って来た二人の目の前に、セシルや護衛が着ているマントと同じようなマントを身に着け、スッポリと全身を隠しているような塊が――とてもではないが、大人には見えない、子供の集団だったのだ。
まさか、付き人が子供で、子供連れで――戦場の近辺まで、警戒態勢の土地にやっていくなどとは思いもよらず、ジャールとリエフも唖然としたまま、言葉を失っている。
「ええ、今回は仕方がありません。彼らが、一番、動ける者でして」
「――――おいおいおいおい」
眉間を押し付けるように指で摘まんでいるジャールが、渋面をみせる。
「戦は遊びじゃないだぜ」
「誰が、遊びだって言ったんですか?」
淡々と、冷たく、それを言いつけて来た子供がいる。
それで、眉間から指を外したジャールが、その子供を見下ろした。
「いい加減、子供だから、子供のくせに、っていう戯言は聞き飽きました。私達には、私達の覚悟があるんです。他人が、一々、口を挟んでこないでください」
なんてこ生意気なクソガキが――と言い返したいところだったが、残りの四人も、ジャールとレイフを睨みつけてくる――その意気込みが、本気だった。
本気で、セシルに同行して戦が勃発しかねない危険地帯に向かう覚悟があるようで、マントにスッポリと隠れていようが、そのマントの下では、全員が武装している気配が紛れもない事実だった。
ジャールが真剣な顔つきになり、
「お前ら、戦がいつ起きたって、おかしくないんだぜ。死んだらどうするんだ?」
「死なない為に戦うんですが? 死を前提として、死地に赴くわけでもない。自殺行為じゃありません」
「聞きたいことはたくさんあるだろうけど、子供達の尋問は、そこまでにしてもらいましょうか。時間が押しているので、私達はこのまま動きます」
セシルがその場に割って入り、余計に、ジャールが嫌そうに溜息をこぼす。
「本気なのか?」
どう考えたって、どう見たって――狂った所業、としか言いようのない状況だ。
セシルが引き連れているのは、大人が三人。セシルは成人していようが、貴族サマのご令嬢。そして、残りは、大人よりも数が多い、子供ばかり。
お遊びではない、と全員が覚悟を決めているのなら、それこそ――狂った所業、ではないのか?
はあぁ……と、あまりに嫌そうに、あまりに疲れたように、またも、ジャールが溜息をこぼす。
「信じられん……」
「では、特別報酬で、次の仕事の依頼を?」
それを聞いて、ジャールは、完全に、そこで脱力していた。
「――――わかったよ……」
「ありがとうございます。リエフはどうするのですか?」
「なんだよ? 俺だけ仕事を引き受けなかったら、腰抜け、ってなるだろうが」
「なりませんよ」
あっさり否定するセシルに、思いっきり嫌な顔をみせるリエフ。
「別に、傭兵のプライドを競い合っているのではありませんから」
「信じられねー……」
リエフも、全くジャールと同じ反応だった。
「では、話は決まりましたね。目的は、ブレッカの駐屯地で、軍からの正確な情報を入手することだけです。その為、一時的に軍の駐屯地に滞在する可能性がある為、一応、“義勇軍”ということで、軍に参加でもしましょう」
「はあ……、そうですか」
「ですが、戦が目的ではありません。危険な状況、または、そう言った場面では、手を抜かず、殺し合いになるかもしれませんが、それ以外では、戦に参戦するつもりはありませんので。一応、数日から一週間の予定ではありますが、それも状況次第でしょう」
「はあ……、そうですか」
セシルの仕事の依頼を受けるのは、なにも、今回が初めてではない。
かなり――昔から、セシルの依頼を受けて来たジャールには、こんな態度のセシルももう慣れたものだ。慣れているとは言え、とんでもないオジョーサマに付き合わされて、今度は、ブレッカの戦地にレッツゴー、である……。
全く、手に負えないオジョーサマだ。
「ここでは、極力、私達の素性を隠し通しましょう。下手に名でも知れ渡れば、余計な恨みを買ってしまう恐れも出てきてしまいますから。ですから、決して本名では呼ばないように、皆さんには、コードネームを付けましょう」
「こーどねーむ?」
なんだそりゃ? ――と、ジャールとリエフが不思議な顔をする。
「指令や任務に就く時に使用する、偽名のようなものです。左から、リアーガ、ジャール、リエフで、α、β、γ。イシュトール、ユーリカは、δ、ε。ジャン、ケルト、フィロ、ハンス、トムソーヤは、ζ、η、θ、ι、κよ」
「わかりました」
「おいおい。俺たちに、そんなややこしい名前を覚えさせようなんて、考えてるんじゃないだろうな。無理だぜ、無理」
いやいやいや。
そんなややこしい偽名なんて使ったことがないだけに、ジャールはすでに覚えることも諦めている。
リアーガの方に指を指して、
「アルファ? それで、リエフが――なんだって?」
「ガンマだよ」
「ガンマ、な。俺が、ベータ(注:発音的には、“ビータ”なので、“ベータ”と呼びたくない……うぅ(葛藤)……)だろ? それだけで十分だ。後は、おい、で呼ぶからいいだろ?」
「まあ、いいでしょう」
領地の騎士達は、全員、“コードネーム”を使用した仮想訓練を受けているので、今回の偽名も耳慣れているものだから、問題はない。
「――どうせ、俺達の荷物だって準備してきてるんだろう?」
「そうですね」
初めから、ジャールやリエフがセシルの隊に混ざることを想定していたなんて――相変わらず、抜け目のないオジョーサマだ。
がっくりと肩を落とすジャールの心境も、今のリエフなら、痛いほど解るぞ。
ポンポン。同情的に、肩を叩いてやるリエフだったのだ。
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