Б.в 戦場で - 08
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婚約の儀も無事に終わり、ここから、ギルバートの溺愛が更に苛烈していきます。お楽しみに
(これ……、墓穴を掘ったかも……)
赤裸々に――このセシルを誉めたて上げてくるギルバートに、セシルだって、かなり恥ずかしくなってくるものだ。
「……あり、がとうございます。そのように、おっしゃってくださって……」
「冗談ではなく、事実です」
「――――そのように、褒めてくださったのは……、ギルバート様が初めてです……」
はた、とギルバートの反応が止まっていた。
照れてしまったのか、困っているのか、そんな様子を微かに見せ、パタパタと、瞬きをするまつ毛の影が優しく揺れ、セシルがその顔を少し上げ、ギルバートを見上げてくる。
深い藍の瞳が真っすぐにギルバートに向けられ、(本人は全く意識していないだろうが)、随分、無防備に、このギルバートを見上げてくるものだ。
まさか、隙も無ければ、隙も見せない“完全無敵”に近いとさえ思えるセシルが、こんな無防備な顔をさらけ出してくるなど、一体、誰が知り得ようか。
ギルバートは婚約者となったから、婚約者の前では気を張る必要もなくなった、と思ってくれているかもしれない(嬉しい) 事実はさておいても、こんなに間近で、二人きりの場で、無防備に顔を上げ、微かに照れているような瞬きをしながら、ギルバートを見つめてくるなんて――これは、絶対に、ギルバートの理性が試されているのは間違いなかった。
神秘的な藍の瞳が真っすぐに向けられ、見つめているだけで吸い込まれそうな夜を思わせるのに、お化粧をしていても、潤んだ唇が艶めかしく色っぽい。
(……なんだ、この状況はっ!? あまりに可愛すぎる……。おまけに、この色気――――)
絶句しかかっていたギルバートの理性が飛んで、このままセシルを押し倒さなかっただけでも、褒めてやるべきではないか。
「――――私が初めて口にした男で、本ー当に、良かったです」
「そう、ですか?」
「そうです」
セシルはこんなに美しくて“絶世の美女”とまで賞賛されるほどの美貌を持ち合わせていながら、なぜ、当の本人は、その自覚がほとんど欠けているのだろうか。
おまけに、自分は男を喜ばせるような言葉を簡単に口にしていながら、自分自身が似たような誉め言葉をもらうと、照れているなんて――ああ、なんて可愛すぎる……。
理性が切れるのも、絶対に時間の問題だった。
ギルバートは(半ばヤケクソで)、ちゅっと、音を立てて、セシルの額にキスをしていた。
セシルが微かに目を丸くする。
「ああぁ……! ――私が初めてあなたを褒めた男で、本ー当に良かったです。ですから、これからも、あなたの誉める男は、私だけにして欲しいですね」
いや、それは絶対に無理な話だったが、これ以上、セシルの魅力に魅せられてしまう男達を相手にするなど、絶対にしたくはない!
「ギルバート様、だけだと思いますけれど……?」
そんなことが、絶対にあるはずはない。
「ギルバート様は、私がどのように呼ばれていたのか、ご存知ではいらっしゃらないのですか?」
「あなたがどう呼ばれていた、ですか?」
「私など、根暗で、華やかさに欠け、目立つところも何一つない地味な女で、それから、陰湿で、男一人も悦ばせられないような女だ、と言われましたけれど」
「ほう? 一体、どこのどいつが、そんなことを言ったのです?」
ギルバートの眉間が揺れ、その目が色をなくして――大マジである。
だが、セシルはあの時の茶番を思い出すように考えていたので、一気に絶対零度にまで落ちたギルバートの怒気に気づかない。
「元侯爵家のバカ息子ですわ」
「ほう?」
その男、殺しても殺したりない――などと、ブワッと、ものすごい凍り付きそうな殺気が、ギルバートの背後から放たれていた。
「本当に、くだらないバカ息子でして」
「確かに」
そして、ギルバート自身の手で絞め殺せないのが、本当に悔やまれるものだ。
だが、セシルの今の話を聞いて、ギルバートは全て納得していた。
そうだった。
思い返せば、セシルはあの元侯爵家のバカ息子と婚約解消をする為だけに、若い半生を(無駄に) 費やさなければならなかったのだ。
報告書でも、書いてあったではないか。
――性格は大人しく、地味で、目立たない生徒と認識され、主だった行動も活動も記録されていない内気な令嬢だ、と。
婚約解消にこぎつける為に、若い少女だったセシルは変装をし、かつらまで被り、そんな様相で、王立学園に通っていた。
目立たぬように存在を消して、誰からの目もつかぬように。
ギルバートが初めてセシルに出会った時も、セシルは顔を隠すかのように前髪が長く、(見た目からなら) 少々、野暮ったい――とは思える様相をしていたのだ。
そんなセシルに向かって、ギルバートのように、セシルを褒めてくる男など、今までいるはずもないことは明確だった。
領地では変装を解いて、普段通りの姿をしているセシルでも、「領主様、大好き!」 の領民達がセシルの容貌を褒めても、「身内贔屓ね」 などと、セシルが簡単に締めくくっていたとしても、全くの不思議はない。
道理で、こんなにも美しい容姿を持ち、あまりに魅力的な女性なのに、セシルはそこら辺の感覚が、全く欠けているはずである。
ちゅっと、また、ギルバートがセシルの額にキスをしていた。
「私があなたを手に入れることができて、私は本ー当に幸運な男です。下手すると、タイミングを間違い、一生、あなたとはお会いできなかったかもしれませんから。その状況を考えるだけで、背筋が凍り付きそうです」
「ギルバート様は、その……、表現が大袈裟でいらっしゃるのね……」
「そんなことはありません。ですが、これから私は、毎回、あなたの素晴らしさを口にしますから、是非是非、その私に慣れてくださいね」
「いえ――そのような……ことは、なさる必要などは……」
「いいえ、必要、ではありません。私の趣味です」
そんな趣味は、聞いたこともない。
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