Б.в 戦場で - 05
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本当に、セシルは亡くなったセシルの母親に、よく似て来たものだ。
そんなセシルの姿を見つめながら、じーん……と、ついつい、リチャードソンも感動してしまっていたのだった。
「父上ったら」
その様子に気付いたシリルが、ちょっとだけ笑ってしまう。
「ああ、そうだねぇ……」
なにしろ、公式の場に出ることを極力避けていたセシルだから、社交界などの集まりにも出席したことはない。
舞踏会だって、絶対に参加などしない。
背の高い見目麗しい貴公子と一緒に踊っている姿は、遠巻きからでも目を引いて、煌々と輝いているシャンデリアの下でのセシルは、上品で、本当に美しいものだった。
「ああ、あのセシルがダンスをしているんだねぇ……」
「父上ったら」
「まあっ、旦那様ったら」
母と息子が揃って、つい、笑みを漏らしてしまう。
二人のダンスが終わり、互いに頭を下げながら挨拶を済ます。
次のダンスは、侯爵家筆頭のヴォーグル侯爵夫妻が出て来た。そして、以前と変わらず、騎士団の団長や副団長がパートナーを連れて。
この国では、本当に、騎士団は国の中枢を担う高位とされている国家だ。
異世界やファンタージの話で思い出すものは、騎士は貴族ではないが、貴族程度の地位は高く、それでも、高位貴族としては扱われていない内容が多かった。
または、騎士団が国家の軍事力とつながっていた場合は、別格で扱われているか、など?
アトレシア大王国は軍事国家ではないけれど、それでも、王国騎士団を設立した現国王陛下は、国王陛下直属の部下となる騎士団を、絶対的な立場に確立することに成功したようだった。
そんなことを考えているセシルの前で、三番目のダンスは、ゲストとして招待されているヘルバート伯爵夫妻が、礼儀としてダンスをすることになっている。
その時には、他の高位貴族も混ざるらしいが。
セシルの両親の顔を見る限りでも、これだけの衆人環視(と敵意がバリバリ) の場所であっても、二人とも、緊張している様子は見られなくて、ホッとする。
なんだか、隣国で苦労をかけてしまいます……。
もちろん、ものすごい敵意が混じった攻撃的な視線攻撃を受けていても、リチャードソンは、大抵、その手の煩わしい扱いは、無視することができる性格だ。
対する、妻のレイナは、にこやかな笑みが崩れない。
もちろん、娘の人生最大とも言える重要な場所で、ヘマなど見せていられない。
絶対に、アトレシア大王国の貴族達に、セシルを貶させる隙など作ってなるものか!
その鬼気迫る意気込みは……、セシルも、遠巻きからちゃんと感じています……。
(お母様、ありがとうございます……。ご迷惑をおかけしますわ)
セシルの独り言も、ちゃんとレイナに届いているだろうか?
やはり、明日にも、もう一度、ちゃんとお礼を言っておかなくてはいけないだろう。
「では、少し失礼します」
「はい」
ここで、次のダンスは、ギルバートが、セシルの母親であるレイナを誘う場面だ。
王子殿下であっても、伯爵家の夫人とダンスをする。
これから身内となる相手の母親とのダンスで、隣国のヘルバート伯爵家は、王族に認められたことになるらしい。
色々、複雑で堅苦しい習慣があるんですのね、ホント……。
その間、セシルの父親がセシルの前にやってきて、スッと、気取ったようにお辞儀をした。
「ダンスをよろしいですか?」
「はい、お父様」
父のリチャードソンにエスコートされ、セシルもまた中央に戻って来た。
視界の端では、ギルバートにエスコートされた母のレイナが、ダンスのステップを踏み出した。
「セシル、おめでとう」
「ありがとうございます、お父様。こんなにダンスを踊ったのは、初めですわ」
そうだね、とリチャードソンも感慨深げだ。
「このような、ものすごい重圧の中で我慢して下さって、ありがとうございます」
「ああ、私はそんなこと気にしていないよ。今夜を終えれば、ほとんど顔を合わす機会もない貴族に、どう思われようと、ね?」
さすが、セシルの父親は、そういった煩わしいことを簡単に振り払える人だ。
「ああ……、セシルとこんな風に踊るのは、本当に久しぶりだね」
「はい、そうですね」
「ああ……、大きくなったんだねぇ……」
「ふふ、お父様ったら」
もう、セシルの結婚が決まってからというもの、父のリチャードソンは、毎回、こんな感じだ。
ふーむ……と、寂しそうに気落ちしていたり、感慨深げにしていたりと。
「とても綺麗だよ、セシル。アリアーネに、本当によく似て来たね……」
「そうですか? ふふ。ありがとうございます」
今日この頃では、リチャードソンが、亡くなった妻であるセシルの母親の名前を出すことは、滅多になかった。
それでも、今夜、正式に着飾ったセシルとダンスをしながら、昔の懐かしい記憶を思い出していたのだろうか。
亡くなったセシルの母親は、ほとんど社交界に顔を出さなかったから、父のリチャードソンに誘われて舞踏会に行った時、夢のように楽しかった――と、ずっと昔、セシルがまだ幼い時に、そんな話をしてくれたことを、セシルも思い出していた。
きっと、その舞踏会は、婚約を終えたばかりの若い二人が、淡い恋心を抱きながら、思い出に残る、素敵な二人の逢瀬だったのだろう。
二人のダンスが終わり、セシルが頭を下げながらお辞儀を済ます。
そして、セシルの元には、ギルバートが。父のリチャードソンは、母のレイナの元に向かう。
ギルバートの腕に手を添え、その場から立ち去るセシルの耳元に、そっとギルバートが囁いた。
「なんだか、お父上はとても嬉しそうでしたね」
「ふふ。こうして親子でダンスをするのは、デビュタント以来なのです」
セシルも小声でそんなことを返していた。
「ああ、そうでしたね」
それで、こんな衆人環視で、ものすごいプレッシャーの中にいたはずなのに、セシルの父親は、随分、リラックスした様子で、そして、娘であるセシルに、これでもか、というほどの愛情を向けて、優しそうに微笑みながらダンスを楽しめたのだろう。
読んでいただきありがとうございました。
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