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Б.в 戦場で - 02

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 贈り物でもらった宝飾は、鈍い金縁のガーネットがふんだんに使用された、ネックレスとイヤリングだった。


 チョーカー型に近く、それでも、3連のネックレスが垂れ、その間にガーネットが敷き詰められた、とても豪奢なネックレスだった。


「肩を出しているドレスですから、きっと似合いますわよ」


「ありがとうございます、お母様。お父様にも、後でお礼を言っておきます。ですが……、たった一度きりの式典に、このような豪奢な宝飾を用意してもらって、なんだか申し訳ないですわ」


「なにをおっしゃっているんです、セシルさん?」

「なぜですか?」


 「まあっ!」 と、セシルの反応に、レイナは本当に驚いているようだった。


「セシルさん、もう、ここは隣国なのですよ。他国で、周りにいるのは、見知らぬ貴族ばかり。敵同然ですのよ。伯爵家から王家に娘を嫁がせるのですから、味方もいない場所で、しっかりと、伯爵家の娘を盛り立てなければ、すぐに足元を見られてしまいますわ。宝飾の一つも持っていないような貧相な令嬢だ、などと」


「はあ……そうですか」

「ええ、そうですわ。もう、ここは戦場ですのよ」

「戦場……?」


「ええ、そうですわ。ですから、一時たりとも気を抜けませんものね。ドレスも一緒ですわ。ですから、伯爵家から王家に嫁ぐセシルさんが格下に見られぬよう、恥をかかぬよう、セシルさんをしっかりと着飾らせなくてはいけませんもの」


 レイナの熱弁に、うんうんっ! と、付き人の侍女二人も、意気込んで賛同している。


 戦場――は、セシルも、ある程度、予想していたものだ。


 “最優良物件”サマである第三王子殿下をかっさらう他国の令嬢として、きっと、敵意満々の(視線) 攻撃が襲ってくるだろうなあ、とはセシルも予想していることだ。


 だから、“戦場”という形容は、とてもピッタリ当てはまっている。


 ただ、それが、ドレスと宝飾にまで当てはまっていたとは、知らなかった話だ。


「では、オルガ、ネックレスをつけてくれませんか?」

「はいっ、マイレディー」


 いそいそ、浮き浮きと、オルガがセシルの元に駆けよってきて、ネックレスを丁寧に取り上げ、髪を上げたセシルの首元にネックレスを止めていく。


 髪の毛を下ろしたセシルの前で、全員の厳しい審美眼が、じーっと、向けられる。


「どうでしょう?」


 レイナの口元に、(とても) 満足げな笑みが浮かんでいく。


「とてもお似合いですわよ、セシルさん。本当に、王国中を探しても、どの貴族のご令嬢にも負けないくらい、とてもお綺麗ですわぁ」


 うんうんと、二人の侍女も大きく賛同してくれる。


 それはですね、身内贔屓(びいき)、というものだと思うのですけれどね。


 でも、この場では、それを口にしないセシルだ(なんと反論が返って来るか判らないから)。


「ああ、とてもきれいですわよ、セシルさん」

「ありがとうございます」


「これで、第三王子殿下も、セシルさんに見惚(みと)れて、目が離せなくなってしまいますわね!」


 いえ……、それは当初の目的ではないので、セシルもコメントしない。


 セシルは、今夜の婚約の儀で、まずは生き延びること。ヘマをしないこと。母親の言った通り、格下に見られないこと。


 それができれば――ギルバートを見惚(みと)れさせる、なんてことはなくてもいいと思うセシルだ。

 ギルバートに恥をかかせなければ、それでいい。



* * *



「失礼します」


 扉が開くと、向こうから姿を出したギルバートが、室内に入って来た。



(うわぁっ……!!)



 そして、一歩足を踏み入れただけのギルバートの姿を目にして、セシルも(珍しく) 感嘆めいた呟きを、胸内でこぼしていたほどだ。


 騎士団の正礼装の時でも、あまりに華やかで、あまりに(あで)やかなほどに、キラキラと(まぶ)しい副団長サマの出で立ちだったが、王族の正礼装を(まと)い室内に入って来たギルバートは、その歩く姿だけでも、風格も威厳も(かも)し出しているような雰囲気だった。


 目に覚めるような緋色のコートはお尻くらいまでの()けで、腰にベルトがされている。豪奢な金色の刺繍の入った立襟、何本も絡みついた飾緒(しょくお)、金色のボタンがついて、胸の周りには、何個もある勲章が飾ってある。


 そして、斜めにかかったブルーのサッシュが輝き、ピッタリとした真っ白なトラウザーズに、真っ黒な皮の膝上まであるブーツ。


 手袋もトラウザーズと同じ真っ白な手袋で、どの部位も輝かしいほどの宝飾が施され、シミもない、曇り一つない輝かしい出で立ちだ。


 ギルバートは副団長の正礼装の出で立ちの時だって、あまりに輝かしいほどに目立つ容姿が引き立って、見目(みめ)(うるわ)しい貴公子だった。


 王族の正礼装を身に着けたギルバートは、それ以上に磨きがかかって、その姿を一目見るだけで、溜息(ためいき)がこぼれてきそうなほどの美貌だ。


 セシルもそんなギルバートを目の前にして、改めて、ギルバートが、アトレシア大王国の貴族令嬢や夫人から、壮絶な人気を占めている理由を、目の当たりにしていたのだった。



読んでいただきありがとうございました。

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Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)

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