* Б.в 戦場で *
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「うーん……、困りましたわねえ……」
セシルの前で、母のレイナが真剣な面持ちで、真剣に悩んでいる。
今日は、今夜の婚約の儀に向けて(しっかり) 準備中。
セシルが持参してきたドレス選びで、母のレイナと二人の付き人の侍女達が、セシルの客室にやってきていた。
三着のドレスを着終わったセシルの前で、レイナも、どのドレスにしようか困ってしまう。
だが、突然、うふふと、なんだかおかしそうに、レイナが笑い出すものだから、セシルも不思議そうだ。
「どうしたのですか、お母様?」
「いえね、このように、セシルさんのドレスを選ぶ機会など、今までありませんでしたでしょう? ですから、母親として、娘のドレス選びができるなんて、嬉しいですわぁ」
そう言えば、セシルはあまりに自立しているので、おまけに、セシルの洋服の好みが(かなり) 違っているので、セシルのドレスは、セシル自身がいつも選んでいるものだ。
セシルの洋服も、セシル自身が選んでいるものだ。
そのどれもセシルに似合っていて、文句のつけどころがないけれど、母親としては、娘のドレス選びに、一つや二つくらいの楽しみはあってもいいはずだ。
それで、今夜の為にドレス選びをしているこの状況が、レイナには嬉しかったのだ。
セシルが試したドレスは三着(ついつい、説明。想像しやすいように)。
まず初めに、エンパイア・スタイルのドレス。
• 胸下のハイウェストが基本で、ドレス地がオリーブグリーン(Olive green)
• 柔らかな布が流れるように滑り落ち、女性らしいラインを見せている
• その上に、前開きで、赤身のかかったローズグレイを基本とした飾りだけのドレスの上着を着こみ、豪奢な刺繍が一面に縫い込まれている
• 鈍い金色に見えがちな刺繍は、ウィローグリーン(Willow green)だ。下のグレイの色に反射して、鈍い金色に見えるものだ
• このドレスは、しっとりとした大人の魅力を引き出すにピッタリなドレスで、刺繍は豪華にしているが、暑苦しくないデザイン
次に、ロココ調後半、またはヴィクトリア時代にさしかかるような、ローグ・ア・ラングレーズに近いドレス。
• 清潔さが漂うライトブルーのローグ・ア・ラングレーズの上着は、襟元と袖口にレースをつけて
• 下に履くジュップ(スカート、ペチコート)は、クリーム色のふっくらと自然な膨らみを
• パニエやヴァトプリーツを取り払って、身軽な形
最後に、ヴィクトリア時代のオフショルダードレス。
• 形的に言えばシンプルで、ドレスのスカートが、何枚にも重ねられたペチコートで膨らんでいる、優しい雰囲気のドレスだ
• ダークグリーンのドレスは光の反射で、ところどころが、青みがかった色合いを輝かしている
• ドレスのスカートには、豪奢にダークゴールドの刺繍を縫いこんでいる。ウェストを強調させる為に、ウェストの部分にも、刺繍を縫い込んだ飾りをつけ、肩にも同じような飾りをつける
• あまり“可愛らしさ”ばかりを強調しないように、それでも、シンプル過ぎない女性らしさを加えて、ドレスのスカートの裾には、刺繍と同じ色のレースも少しだけ取り入れて
「そうですわねぇ……。どのドレスも素敵ですけれど、2番目に着たドレスは、お茶会などにピッタリですわよね。午後の明るい日差しの元なら、とても生えると思いますわ。ですが、婚儀は夜からで、シャンデリアの灯りの元では、薄い色が、少々、かすんでしまうかしら?」
「そうかもしれませんわね」
「1番目と3番目のドレスかしら?」
どちらも甲乙つけがたいのだが、今回は、3番目のドレスだろうか。
3番目のドレスは、流行のフワフワしたドレスではないが、それでも、ペチコートで含ませたスカートのボリューム感が出ていて、存在感が強調できる。
深いダークグリーンは、セシルの藍色の瞳にもよく生えていた。
刺繍も豪華なので、格式があるように見え、深いダークグリーンは趣が感じられる。
「やっぱり、3番目でしょうかしら? セシルさんは細身ですから、目立つ為には、少し、スカートでボリュームも見せるべきですものね」
「わかりました」
どうやら、今夜のドレスは決まったようである。
「セシルさんのドレスも決まりましたし、ミイナ、あれを持ってきてくれない?」
「かしこまりました」
後ろ手控えていた年配の侍女が頭を下げ、向こうの飾り棚に置いていた箱を持ってくる。
「どうぞ、こちらでございます、お嬢様」
「なにかしら?」
「セシルさんの宝飾ですわ」
「宝飾?」
それは予想していなくて、セシルが手の中にある重厚そうな箱を開けてみた。
「このような、豪奢な宝飾……。わざわざ、用意してくださったんですか?」
「ええ。オルガから、大体のドレスの構想は、聞いていましたのよ。それで、旦那様にお願いして、急いで作らせましたのよ。鈍いガーネットと金を合わせてありますから、3番目のドレスのダークグリーンでも、合うと思いますの」
「まあっ……! ありがとうございます、お母様」
読んでいただきありがとうございました。
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