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Б.б アトレシア大王国 - 06

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 セシルが着ていたドレスは、そのどれもギルバートには見慣れないドレスばかりだったが、そのどれも、いつも、セシルに良く似合っていた。


 似合い過ぎていたから、いつも……見惚(みと)れてしまっていた。


 とてもきれいだ……と素直に思えるほどに、見惚(みと)れてしまっていた。


 だから、セシルが婚約の儀で着るドレスが、変なドレスのわけがない。きっと、セシルに良く似合っていることだろう。


 そんなこと、考えなくても、ギルバートにはすぐにその光景が頭に浮かび上がって来るほどだ。


「そのような心配などしないでください。祭務官もご令嬢のドレスが問題ないと言っているのですから、ご令嬢もそのような心配をなさる必要などありませんよ」

「そう、かもしれませんけれど……」


 まだ納得してなさそうなセシルの反応だったが、ギルバートもちゃんとこの点を強調する。


「くだらない文句を言ってくるような輩は、国王陛下に盾突く行為をしていることを、すぐに理解するでしょう。そして、私の婚約者となるご令嬢に向かい、そのような侮辱を吐いて、私の婚約の儀を台無しにするような者は、私が絶対に許しはしません」


 かなり冷たい不穏な気配を上げているギルバートの目は、本気である。


 王子殿下の婚約者に対して侮辱を働くなど、王子であるギルバートの性格も、プライドも、許してなどおけない。第三王子殿下だろうと、王族として育てられた立場もプライドも、もう、無意識でも体に身についているものだ。


 自分の最も大切にしている女性が舐められるなど、絶対に許しておけないのだ。


「絶対に、後で叩き潰します」

「とても、心強く、思います」


 そこまで本気でセシルのことを思ってくれているギルバートの言葉は、冗談でもなんでもない。


 ギルバートが少し遠慮がちに、両手でセシルの手を握りしめた。


「アトレシア大王国に、そして、王家に嫁ぐことになるご令嬢にとっては、周りは全員敵ばかりと思われるかもしれませんが、それでも……私は、あなたのことを必ず護ります。くだらない貴族になど、耳を貸さないでください」


「その程度の雑音は、気にしておりませんわ」

「ですが、もし、そのような状況が出て来た場合、必ず、私に知らせてください。ご令嬢を傷つける輩は、絶対に許しはしません」


「ありがとうございます。副団長様がそうおっしゃってくださって、とても心強く思います」

「良かった……」


 セシルがギルバートに嫁ぐことによって、きっと、セシルはいらぬ攻撃を受けるはずだろう。それで、傷つくことだってあるかもしれない。


 だが、そんなことは、ギルバートが一番許せないことだった。セシルを護る為ならどんなことでもするし、どんなことも厭わない。


 王家に嫁いで来てくれるセシルに、ギルバートができることなど限りがあるだろうが、それでも、ギルバートはセシルを望んだ。望んだ分だけ、絶対に、セシルを護り切ってみせると誓った。


 ぎゅっと、セシルの手に重なっているギルバートの手を、セシルがそっと握り返していた。


「副団長様が傍にいてくださるのなら、私も百人力ですわ」

「そう、ですか。良かった……」


 セシルのその言葉を聞いて、ギルバートも、つい、嬉しそうに顔が綻んでしまう。


 その笑顔を見ていると、セシルの方だって、ふふと、笑んでしまいそうだった。


「王族のドレスのデザインという話は別にしましても、副団長様の好みのドレスなど、ございますか?」

「私の好みのドレス?」


 パタパタと、ギルバートがまたも瞬きを繰り返す。正に、思ってもみない質問だったのだ。


 今までを思い返しても、ギルバートの過去は、貴族の令嬢を徹底的に避けて来ていた。冷たく追い払って来ていた。


 そんな中で、自分の好みのドレスもあったものではないだろう。誰かが着ているドレスなど、一々、確認したこともない。


 今はどんな流行(はやり)だとか、耳に入れたことさえない。


 だが、セシルの質問だ。


 じっと、少しだけギルバートが考えている様子なので、セシルが不思議そうな顔をする。


「なにか?」

「あの――これを言ったら変に思われるかもしれませんが……、私は、あなたが着られるドレスなら、その全て、とても美しいものだと思います。きっと、見惚(みと)れてしまうほどに」


 う、わぁっ…………!!


 今のは――ものすごい殺し文句じゃありませんか?


 セシルはギルバートの恋人でもないし、これから婚約者となる関係でも、そこまで親密な関係ではない。


 でも、その一言は――もう、完全に、女心をグサッと突き刺すほどの熱いインパクトがありませんこと?


 それ……、真顔で言っていい言葉ですか?


 それも、少し照れたような、はにかんだような、女心を刺激するような可愛らしい仕草で!


 超絶美形の容姿をお持ちの男性が、それはいけませんでしょう?

 いけませんよ、絶対に。


 もう、そこらの少女から貴婦人まで、一斉に、ハートを飛ばして、卒倒してしまうことでしょうから。


「――――あり、がとうございます……そのようにおっしゃってくださって」

「いえ……。あまり……お力になれずに、すみません……」


 自分の発した言葉に照れてしまったのか、ギルバートも(ちょっとだけ) 気まずそうである。


 恋愛していないけれど、こういったウズウズとした場面は、照れくさいものですねえ……。


 変な沈黙が降りてしまった。


「お力になれずに、すみません……」

「いえ……。婚約者となる副団長様に問題がないのでしたら、一応、持って来たドレスから選ぶことにします……」

「そう、ですか……」


 “婚約者”という響きに、ジーンと感動してしまうと共に、嬉しさが混ざって、ギルバートの顔がすぐににやけてしまいそうになる。


 久しぶりに会えた二人だったが、今夜は、むずがゆいような、じれったいような、ほんの少しだけ甘い夜を過ごした二人でした。



読んでいただきありがとうございました。

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