Б.б アトレシア大王国 - 05
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ふいっと、突然、視線を逸らしたギルバートが零した一言に、セシルはギルバートを振り返る。
「いいえ、そのようなことはございません。私は……副団長様のことを、良く存じ上げているのではありません。隣国ですし、お会いした機会も限られています。ですから、恋愛、感情のようなものがあるか……と聞かれては、まだ、そのような感情があるとは断言できません」
「はい……」
「ですが、副団長様が示してくださった誠意や誠実さは、私も嬉しく思いますし、王子殿下であられるお方なのに、私のような位の低い者にも丁寧に接してくださって、とても感謝しております」
「王子の立場など関係ありませんよ」
セシルの前で王族の権威を出して威張り散らしたものなら、速攻でセシルに嫌われてしまっていたことだろう。
ギルバートにとっては、そっちの方が問題だ。大問題だ。
「ですから、このように、副団長様をもっと良く知る機会を与えて下さって、私もとても嬉しく思っております」
「本当、ですか……?」
「はい」
「そう、ですか……」
良かった……との安堵と共に、その呟きは口には出されなかった。
ギルバートの結婚の申し込みにセシルが承諾してくれた時点で、たぶん、ギルバートはセシルにはそれほど嫌われていないだろうな……とは、ちょっとだけ、考えてみたことだ。
それでも、セシルの本音を知らないだけに、もしかして、王族からの縁談話が断れず、無理矢理、仕方なく結婚の申し込みに承諾したのかな……なんて、そんなネガティブな考えが、ほんの少しだけ頭に浮かんでしまっていたことは事実だ。
セシルが、ギルバートとの結婚を前向きに考えていてくれていると判り、ギルバートだってホッと安堵してしまう。
実は……セシルだって、ギルバートとの結婚がどんなものになるのか、興味もあれば、ちょっとだけ期待している。
でも、まだ、その話はギルバートにはしない。もう少し――時間が経って、セシルの気持ちがちゃんと決まった時に、ギルバートに話すつもりだから。
「婚姻の儀は、この王宮内でされるというお話ですが?」
「そうですね。私の結婚は、国王陛下直々に奨励してくださったものですから、婚姻の儀も、この王宮で執り行われることになったのです」
その話――は、セシルも初めて聞く話だ。
二人の婚姻の儀が王宮で執り行われるのは、ギルバートがまだ王子殿下であるから、王族の式典として王宮でされるものだと、セシルも考えていたのだ。
国王陛下直々の奨励?
それって……すでに、国王陛下がギルバートの結婚を強く推しているのと同じ意味で、勅命と扱われてもおかしくはない状況ではないのだろうか……?
国王の命(意) に反して文句を言う者は、罰せられる――と同等な……?
ギルバートとセシルの結婚が、実は、アトレシア大王国側では、ものすごい重大な問題になっていたなど露にも思わず、セシルもかなり驚いてしまっていた。
「やはり……、王国中の貴族が集まる、など……?」
「そうなると思います。ただ、今の所、婚約の儀には、爵位を継いだ貴族達だけで、爵位無しの子息・子女、または、分家に及ぶ親類・縁者などは招待されていません」
「そう、ですか……」
アトレシア大王国は、その名が示す通りの大王国だ。一体、どのくらいの貴族がいるのかは知らないが、ノーウッド王国以上の貴族達がいてもおかしくはない。
その全員が、婚姻の儀に参加することになるらしい。
そうなると、隣国から突然押しかけて来るセシルの立場が、非常に危ういものになってくるだろう。
エチケットやマナーだけではなく、セシルの着ているドレスも宝飾も、その立ち振る舞いに会話、その全てが全て、アトレシア大王国の貴族達全員からの視線にさらされることだろう。
「副団長様……。少し、お聞きしたいことがあるのですが?」
「なんでしょう?」
「婚約の儀で着るドレスのことなのですが……」
「ドレス?」
その話題はギルバートも予想していなかったので、ポカンとしてセシルを見返す。
「ドレス、ですか?」
そして、ドレスに関してなんの問題が上がって来るのか、見当もつかないギルバートだ。
「はい……。私は、自国でも、社交界やそう言った集まりに参加したことがありません。ですから、王子殿下であられる方の婚約の儀、という祝典にも、参加した経験がございません」
今までのセシルの過去を考えれば、それは当然と言えば当然の状況だろう。
そのことは納得できても、セシルが心配しているであろうドレスの問題点が解らないギルバートだ。
きょとんとしてセシルを見返しているギルバートを見やりながら、セシルも続けていく。
「一応、婚約の儀で着るドレスは持参したのですが……」
「はい」
「こういった、王族の方の式典では、王家が――いえ、お相手である王子殿下の意見を聞いたドレスを着るべきなのでしょうか?」
「私の意見?」
「はい……。それとも、こういう場合は、王宮から決められたドレスが贈られてくるのでしょうか? 実家で揃えたドレスなどは、やはり、問題になると思われますか?」
思ってもみなかった質問だけに、ギルバートもパタパタと瞬きを繰り返す。
「ドレス、ですか……」
ギルバートの身近で王族の婚約や結婚の式典と言えば、兄である国王陛下のアルデーラの結婚式だけである。
アルデーラの婚約は子供の時から決められていたから、兄の婚約の儀に参加した記憶はあるが、ギルバート自身も小さな子供だったので、ほとんどその時の記憶がない。
大人しく控えていなさいよ、と言いつけられた(嫌な) 記憶だけは、鮮明だ。
「王宮から送られた祭務官との話し合いは終えた、と伺っていますが」
「はい。その場でドレスを確認していただいたら、問題はないだろうと言われましたの」
「それなら――問題、にはならないのではありませんか?」
「そう、かもしれませんが……。何分、私はこのような式典や行事に詳しくありませんので、副団長様の隣に並んだ時に、私の着ているドレスのことで、副団長様が恥をかかれてしまうのではないかと――」
「それはありませんよ」
速攻で、ギルバートが否定していた。
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